近年の日本経済が異常な状態にあることは、経済分析のためのきちんとしたツールと理論をもって分析すれば、誰の眼にも明らかとなります。そのことは、これまでのブログでも書いた通りです。
今日は、貿易(輸出と輸入)に焦点を置き、検討してみたいと思います。
まずは下図を見てください。
1995年から2008年(リーマン・ショックの年)までGDPに対する輸出・輸入の比率はずっと上昇し続けています。特に2002年から2008年の期間に輸出比率が10%から18%近くにまで急上昇したことが注目されます。
しかし、この間に人々は経済が成長したという実感をもったでしょうか? もちろんそうではありません。このグラフには示しませんでしたが、貨幣賃金率も名目賃金率も平均して低下しています。政府の喧伝した史上最長の景気拡大も平均すれば年率1%程度に過ぎません。投資額も低下してきました。投資というのは、技術革新・生産能力の成長を支える柱なのに、です。
これに関連した話をもう少しします。
ずっと前に(多分昨年のことですが)、『新潟日報』がTPP特集を組み、各界の意見を掲載していました。その中に燕・三条地域の製造業者の記事があり、<TPPに参加して関税が仮に3%でも下がり輸出が拡大すれば、一息つけるのだが>といった趣旨の意見がありました。私もそうした意見が出てくる背景については理解しますので、同情します。しかし、TPPに加盟すれば、輸出が増えて一息つけるかというと、決してそうではありません。2〜3%の関税引き下げの効果など、ちょとした円高(10%、20%などアッという間です)によってすぐに吹き飛びます。しかも、日本は経常収支の黒字国です。確かに貿易収支は昨年と今年赤字になりましたが、所得収支の大幅黒字は続いていて、経常収支は依然として黒字です。これは米国や欧州ユーロ圏の「周辺国」(ギリシャ、ポルトガル、スペイン)などとは正反対です。ともかく、経常収支の黒字国では自国通貨高は避けられません。日本も貿易収支・経常収支の黒字が続く限り、円高は避けられないと知るべきです。
おそらくマスコミの影響によるのではないかと思いますが、普通の人々の間にも、<輸出を増やさなければならない>、<そのためには円安を実現して欲しい>という感覚が思想として定着してしまっているのではないかと思います。実際には、日本の経常収支は黒字となっているにもかかわらずです。確かに、もしすべての国が経常収支の黒字を達成できるならば、私も経常収支の黒字を増やす提案に無碍に反対はしないでしょう。しかし、経常収支は世界全体でゼロサムです。日本が黒字を増やす限り、どこか外国に赤字を拡大する国が出てきます。経済学の上でも、外国への輸出拡大によって需要を拡大しようとすることを「近隣窮乏化政策」と呼んでいます。さらに言えば、2008年以降の米国(世界最大の経常収支赤字国)は、経常収支のグローバルな不均衡を是正するために、対外債務の拡大によって輸入を拡大するのではなく、むしろ輸出を拡大することを求められています。日本としては、ドイツや中国・ロシアと同様に内需の拡大を求められているのです。
その内需ですが、1997年以降の賃金低下によって人々の購買力が低下してきたため、元気が出るわけがありません。下図を見てください。これは成長の寄与度を示すものですが、本来最も大きくなるはずの消費需要は、純輸出より縮小してしまっています。
それに構造改革の影響をあって公的資本形成はマイナスになり、政府最終支出はプラスながら段々小さくなってきています。
日本経済の何が問題なのか?
はっきりしていることは、社会制度の根幹が揺るいでいるという事実です。特に労働市場の柔軟化(Flexibility)(企業が解雇を容易にする、成果主義という名の賃金引き下げ、非正規雇用の拡大など)だけが推進され、安全性(Security)がないがしろにされているため、雇用の部分が動揺し、多くの人がリクスと不安を感じるようになったことが根本的な問題です。
それにもかかわらず、世の経済学者の中には(例えば、失敗したECBのように2%の)インフレターゲットを設定し、人々に中央銀行と政府のやる気を示せば、あるいはインフレーション(つまり時の経過にともなう貨幣の減価)という圧力をかければ、消費需要が拡大するなどという「リフレ派」なる怪しい経済学者の怪しい経済理論(?)が横行しています。騙されないように注意しましょう。
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