2015年6月19日金曜日

何故TPPに反対するべきか? 賃金主導型の成長のために

 ほとんどの経済が「賃金主導型」(wage-led type)となっていることは、今日、少なくとも専門家の間では、よく知られています。が、一般的には知られていないかもしれません。
 賃金主導型というのは、労働生産性の上昇に応じて賃金率を引き上げる方が経済発展にとって有利だという意味です。それはまた、労働生産性の上昇があっても賃金を抑制すると、経済的な沈滞や高失業を招くということを意味しています。
 このような意見は、いまや国民の「常識」ともなってしまった見解(思想、教義、信条)に反するかもしれません。というのは、高賃金(高負担)が企業の流出を招き、雇用と職の喪失を招いているという言説が流布されてきているからです。

 しかし、それは誤りです。ちょっと検討してみましょう。
 第一に、理論的に。賃金率の抑制(引き下げ)は、ただちに雇用の拡大を伴わない限り(そして実際には伴わない)、社会全体の賃金所得を抑制(縮小)します。それはもちろん、賃金からの消費支出を抑制(縮小)します。もっとも、利潤が拡大すれば、それを補うことができるではないかという反論があるかもしれません。しかし、利潤からの消費支出はかなり限られています(消費性向が低い、と言います)。これに対して貯蓄が増え、そのため投資も増えるという再反論があるかもしれません。しかし、これも成立しません。というのは、投資は消費需要が拡大しているときに、企業が招来も消費が拡大すると期待して、生産能力を拡大するために行うものです。また、消費が停滞しているときに投資を行うと過剰投資・過剰生産・固定の拡大を招き、企業業績が悪化する危険性が大きくなります。

 第二に、しかも、これは私の単なる想像ではありません。1990年代末から日本経済が経験してきた事柄そのものに他なりません。貨幣賃金の抑制、史上最大の企業利潤の実現、しかし消費の低迷、投資の低迷と技術の低迷、企業(ただし巨大企業のみ)の巨額の内部留保、しかし国内投資の低迷と海外への流出(高賃金ではなく、投資機会の不足による!)、等々。
 それに、もし高賃金が企業の流出の理由であり、高負担国には資本が流入しないという法則があるならば、例えばドイツに米国企業が進出することはないはず。しかし、ドイツは世界最大の直接投資受け入れ国です。
 何故でしょうか? それはドイツが高賃金・高負担・高率課税でも、企業が利潤をあげることができてきたからです。もちろん、企業は利潤から租税を支払うのを嫌うでしょう。もし仮に私が経営者でも、ある時はグローバル競争のため苦しいと泣き、ある時は高負担だと逃げますよと脅すでしょう。泣きと脅しを同時に行えばばれますが、別々に行うと受け入れてくれます。(ちょっと言葉は悪いのですが、養老氏の「馬鹿の壁」というものでしょうか。人は壁をつくってしまい、人の意見を聞かなくなってしまうことがあります。それをケインズは「思想」(idea)という言葉で説明しました。)

 このように、多くの賃金主導型ですが、もしかすると米国だけは、利潤主導型になっている可能性があります。その理由は、米国があまりに自由化・規制撤廃を実現しすぎて、利潤の変化に敏感になっているからだという可能性があります。
 もしそうだとすると、それは米国の99%にとっては不幸なことです。
 また他の国にとっては、それは米国のようになってはいけない(少なくとも99%にとっては)という教訓ともなります。

 TPPが人々の富と所得を増やすという言説にまどわされてはなりません。
 人々と言っても、せいぜい1%、または0.1%の人々にすぎないのですから。もしあなたが確実に 0.1%の上位所得者・資産家なら話しはまったく別ですが・・・。

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