2015年7月10日金曜日

ガルブレイス氏、ギリシャ危機、トロイカと債権者の混乱について語る

 ジェームス・ガルブレイス(テキサス大学教授)は、伝説的な米国の経済学者、ジョン・ケネス・ガルブレイスの子であり、自身も優れた経済学者ですが、ギリシャ問題にかかわり、ギリシャで現在政権についている 政党、Syriza(シリーザ)の財務大臣、ヤニス・ヴァロウファキスと一緒に「トロイカ」との交渉に参加してきました。そのガルブレイスが今年2月に行なわれた交渉の内実を語っています。(Fortune, Feb.20, 2015, Greece's fate: In Angela Merkel's hands?)

 「それ(ギリシャに対する態度)は、まったくメルケル次第です。私たちは、否定的なスタンスを取っている財務大臣と、話したがっている副首相から話しを聞きました。私たちが話しを聞いていない人物はメルケルです。彼女が必要となるまで話さないことを私たちは知っています。彼らはきわめて強硬であり、次に2つの譲歩をしなくてもよいように、最後の瞬間に一つの譲歩をします。」

 メルケルが一つのジレンマを抱えていることは言うまでもありません。このジレンマとは、ドイツの当面の利益を優先すればギリシャに対する強硬姿勢を崩すことはできず、かといって、もし強硬姿勢を貫いたときに「ユーロ圏の分解」を導いた人物となってしまうかもしれないという根本的な矛盾です。

 しかも、この矛盾のために、欧州財務大臣のユーログループ会議(2月11日〜17日)が「混沌としたマヌーバー(工作)」の場となっていたというのが実情のようです。

 例えば Pierre Moscovici(ピエール・モスコヴィチ、欧州経済財務委員)は、ヴァロウファキス財務大臣に「ギリシャのための新しい成長プログラムを議論するための時間を与えるために 債務の延長を許すコミュニケ草案」を提示しました。ところが、ユーログループのチーフ、Jeroen Dijsselbloem (ディーセルブレーム)  はまったく別の強硬案をヴァロウファキスに提示しました。
 ガルブレイスとヴァロウファキスはこの2つの草案を検討し、一つの妥協案を作成しました。しかし、ドイツの財務大臣ヴォルフガング・ショイブレは妥協案を拒否し、会議を閉会させました。
 その後、2月18日に欧州委員会議長のジャン・クロード・ユンカーが、この妥協案を「よいスタート」だと述べ、ドイツ副首相のガブリエル氏も「交渉のための出発点」となると述べました。ところが、ドイツ財務大臣のショイブレがそれを拒否しました。

 このような経験を経て、ガルブレイスは言います。「これを見て、私は眼玉が飛び出るほどでした。これがドイツ、ヨーロッパで最も強力な政府だ。」またガルブレイスは、「(EUの)機関的プレイヤー(欧州委員会、IMF、ECB)は建設的だったけれども、債権団という活動的なプレイヤーは財務大臣たちであり、かつ彼らは分裂しており、敵対している」とも述べます。

 ガルブレイス氏によれば、特に強硬姿勢を示している陣営が、(意外にも、ギリシャ同様に深刻な債務危機にみまわれている)スペイン、ポルトガル、そしてフィンランドであり、その理由は、彼らが選挙で(ギリシャと同じように)反緊縮派に負けるのを恐れていることにあったといいます。つまり、彼らにとっては、ユーロ圏を救うより自分の選挙が重要というわけです。

 EUが「ドイツ帝国」の支配のための装置になっているというE・トッドの結論がガルブレイスによっても確認されているといってよいでしょう。
 このような中で最終的には、ドイツ政府メルケルが決断する。これが最初に引用したように、ガルブレイスの結論です。言うまでもなく、その後彼女は強硬な結論をくだしました。そして、先日のギリシャ国民投票はそれに対するギリシャ国民の態度表明でした。
 メルケルは再度決断しなければなりません。そして、彼女の決断しだいでは、ユーロ圏は結局分裂にむかうことになるでしょう。

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