なぜ米国は集団保障体制を日本に求めるのでしょうか? 米国はなぜ日本にとって「密接な国」(端的にいって米国)やその軍隊が攻撃されたら(あるいは攻撃されそうと日本や米国が判断したら)、日本がその国に対する攻撃をするという日本にとってきわめて危険なことを求めるのでしょうか?
その最も重要な理由は簡単です。
米国の「軍産複合体」、つまり政治家、ペンタゴン(国防総省)、軍事産業(ロッキード社などの軍需企業)などからなる利害共同体を守るためです。
このことを説明するために、まず第二次世界大戦後の歴史的経緯を簡単に見ておきましょう。
戦後、第二次世界大戦中に米国は「世界の武器庫」(arsenal of the world)の役割と「世界の銀行」(the world's banker)(つまり米ドルの供給)の2重の役割を果たしましたが、その役割は戦後になって終わったのではなく、ずっと続きました。まず後者については、ブレトンウッズ体制が成立し、米ドルが基軸通貨となりました。これは米国以外の国(ただしソ連圏と中国を除く)がドルを信任し、基軸通貨として受け入れることを意味しています。(1971年までは、そのために金とドルとの交換が約束されていましたが、それは同年8月15日のニクソン声明によって破棄されました。しかし、ドルは依然として基軸通貨として維持されています。)
この米ドルの基軸通貨としての地位は、前者、つまり米国軍の世界支配を前提としていたと考えられます。実際、米国はおそろしく巨額の軍事支出を通じてそれを達成しました。1970年代に至るまで米国の軍事支出は連邦予算の50%を常に超えており、GDPの7パーセントを超えていました。特に軍事支出が増加したのは、トルーマン(民主党)、ケネディの暗殺後に大統領に就任したジョンソン(民主党)、1980年代にソ連を「悪の枢軸」として軍事支出を拡大したレーガン(共和党)のときです。そして、21世紀になってからは、ジョージ・W・ブッシュが 9.11 の後、「テロに対するグローバル戦争」の名の下にイラク攻撃、さらにアフガニスタン侵攻、パキスタン侵攻を行い、軍事支出を大幅に拡大しました。その金額は1980〜1990年代の2倍以上に達し、GDP比でも1990年代の3パーセント台から21世紀には一時 4パーセント以上の水準に上がっています。ちなみに、ジョセフ・スティグリッツの2008年に出版された著書(日本語訳『世界を不幸にするアメリカの戦争経済』徳間書店、2008年)では、ブッシュによって始められた戦争経済のための支出は3兆ドル(360兆円!)を超えると推測されています。実際、2001年〜2014年の軍事支出は3兆ドルをはるかに超えていることが明らかにされています。
しかし、ご存知のように、イラク侵攻は失敗しました。イラクの経済社会は崩壊し、サダム・フセイン時代より悪化しています。その上、ブッシュは急速な民営化と規制撤廃をイラクで行いました。(このように戦勝国が国有財産を売却することは国際法上禁止されていることがらです。)そしてそれはイラク経済をさらに悪化させ、失業者を増やしました。まさにテロの温床を積極的に作り出しているようなものです。治安は悪化し、泥沼状態の中でアメリカ軍(兵士)も悲惨な状態に置かれています。しかし、失敗したといってもそう簡単に撤退できるわけではありません。
さて、重要なことは、このような軍事支出がアメリカ経済にも様々な陰を落としていることです。その一つは連邦財政の負担能力が限界にきていることでしょう。そこでオバマ政権の下で2011年から強制的な軍事支出の削減が行なわれています。(下図を参照)
しかし、いったん拡大した軍事費を縮小するのは簡単ではありません。その最大の理由は軍事支出の削減が「軍産複合体」の利益に反することです。そもそも「軍産複合体」とうのはトルーマンの後に大統領に就任したアイゼンハワーの作り出した言葉ですが、彼もいったん増やした軍事費を縮小するのがきわめて困難(むしろ不可能)だということを思い知ったでしょう。真偽のほどは不明ですが、ケネディの暗殺の背景にも「軍産複合体」があるという説があります。その状況証拠としてあげられるのが、ケネディの副痔統領だったジョンソンの時代に軍事費が大幅に拡大したという事実です。(証拠はありませんので、断定しているわけではありません。)
オバマ政権による軍事費の強制削減ももちろん「軍産複合体」、特に軍事企業にとっては痛手です。これほど美味しいごちそうはなかったからです。軍需も名目上は競争入札されますが、ひとたび受注が決まってしまえば、金額を大幅に増やすことなど朝飯前です。
しかし、外国(日本です!)がアメリカの兵器・武器を購入してくれれば、これほど美味しい話しはありません。アーミテッジやナイなどという人々(NHKなどは「知日派」といっていますが、日本国民から見れば、日本を食い物にしようとしている人々です)がそれをねらっていることはあきらかです*。しかも、武器・兵器の購入だけではありません。湾岸地域などの戦争に日本が参加すれば、彼らの人的負担も減るわけですから、彼らにとっては願ったりもないことです。(ちなみに、ジェームス・ガルブレイスは、昔作成された映画の「プレデター」(エイリアンと同じく、宇宙からやってきた捕食者)のようなものだと言っています。)
*アーミテッジ・ナイのレポートはこちら。
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/56226
安保法案(戦争法案)が成立したら、日本は毎年のように米軍との共同軍事行動をさせられ、自衛官の戦死者もでることでしょう。
しかし、心強いことに、今年になってから戦争法案に対する反対する人々が急速に増えてきました。もちろん、その理由は、法案が違憲だというだけでなく、きわめて危険だということを多くの人々が理解してきているからです。決して一部のマスメデイアが言うように、法案に対する説明不足からではありません。
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