日本語訳は、佐和隆光訳『悪意なき欺瞞』、ダイヤモンド社、2004年。
「悪意なき」の原語は、innocent 。裁判所で「無実」「無罪」という意味で使われている語だから、「無罪放免されている」といった意味であろう。つまり、本当は有罪なのだが、無罪のままにされている欺瞞(Fraud)という意味だ。
このようにジョン・K・ガルブレイスが「無罪放免されている経済学」と考える思考法の中でも重要なものをいくつかあげておこう。
1)政府(公的セクター)と民間セクターを分離し、まったく異なったものとする欺瞞
2)政府だけが官僚制であり、民間セクターは違うという欺瞞
実際には、「経営」という言葉が選好される民間セクター、営利企業にも官僚制は存在する。
3)民間=「自由市場」(?)を持ち上げながら、裏で政府を利用する欺瞞
4)金融に対する欺瞞
5)「軍産複合体」の実態を隠しながら、その支配を正当化する欺瞞
実際に、ペンタゴン(国防総省)と政策を支配しているのは、軍事産業であり、政府、軍事産業、軍人の間に利益共同体が存在する。
ガルブレイスがとりわけ最後まで大きな関心を持っていたのが「軍産複合体」だ。
「軍産複合体」というのは、故・アイゼンハワー大統領が退任する間際に述べた言葉であるが、ガルブレイスもこの「軍産複合体」がアメリカ社会、そして世界の人々にとっての最大の脅威であることを認識していた。次はガルブレイス生前の最後の言葉でもある。
「戦争が現代文明社会を脅かす最大の脅威であることは、疑いを容れまい。そして、新兵器を企業が軍に売り込むことが、戦争の脅威をあおり、戦争を支持することになる点もまた、疑いを容れないだろう。爆撃による破壊と殺戮を正当化し、爆撃を行なった軍人を英雄扱いするのも、結局のところ、戦争にコミットする企業なのである。」
「英米両国は、目下、イラク戦争後の辛酸をなめている。イラクの若者たちの計画的殺戮、そして年齢と男女を問わない無差別殺戮を、米英両軍が実行するのを、私たちは見て見ぬふりをしてきた。実際、第一次と第二次の世界大戦中と同じく、私たちには抵抗のしようがなかったのだ。私が本書執筆中にイラクで起きたことは、あまりに度が過ぎていると言わざるを得ない。」
「いまもって戦争は人類の犯す失敗の最たるものである。」
ガルブレイスの最後の発言が「軍事」「戦争」についてだったことを重く受けとめたい。
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