アベノミックスが「デタラメ経済学」であることをこれまで述べてきた。それは人々に幻想を与えたにすぎない。
しかし、その政治学的側面を見なければ、本当にアベノミクスを論じたことにはならないだろう。
実は安倍晋三という人物にとっても、アベノミクスがどのような帰結をもたらそうと、どうでもよかったといってもよいだろう。
というのは、それが打ち出されたとき、マスコミがそれに乗り、当面、人々に経済が成長し、人々の所得(そのほとんどは賃金だが、自営業者の所得も含む)が増加するという「幻想」を生み出せばよかったのである。そうすれば選挙で勝利することができる。そして勝利してから戦争法案を国会に持ち出せばよい。
もちろんこのようなやり方では反対が起きるだろう。しかし、民主的な総選挙で自民党と公明党が政権についたのであり、これが民主主義だと言えば、一部の人はともかく多くの人は納得するだろう。あるいは反対できないだろう。
それに一度国会で議決してしまえば、人々は次の選挙までには忘れているに違いない。これが安倍晋三と自民党の考えたことである。
私は今になってはじめてこのように言うのではない。実は、衆議院選挙の直後にアベノミクスがそのように政治戦略的に位置づけられていることを、ある人と話していた。
もちろん、このように述べる十分な根拠がある。
1)自民党は選挙前・選挙戦時には、アベノミクスが争点だと主張して、戦争法案のことなどおくびにも出さなかった。ただし、候補者と支持者のとの内輪の集会では、反中・嫌韓を語り、「やります」「まかせてください」というようなことは言っていたらしい。しかし、それはあくまで支持者だけの集会の時である。
2)自民党にとって、しかし、経済政策にも不安や弱点はあった。それは TPP や残業代ゼロ法案、雇用柔軟化(解雇規制の撤廃など)など多くの勤労者に不安を与えるものである。しかし、彼らは<TPPには断固反対する><ぶれない>などと反対するポーズは見せた。<新自由主義><市場原理主義>に反対すると述べた候補者もいる。しかし、これが単なるポーズであることは選挙すぐにわかった。
アベノミクスは、「異次元の金融緩和」を第一の矢としていると宣伝された。しかし、それは他方では世界一企業が自由に(つまり、勝手気ままに、やりたい放題)ふるまうことがでくる国(簡単に言えば企業のブラック企業化を許す国)、そして法人税などの企業負担を世界一低い国にすることをめざしている。(ちなみに、日本の法人税は主要国の中では低いほうだが、企業の社会的負担全体は決して低くない。例えばドイツの法人税率は日本より低いが、社会保障負担率ははるかに高く、全体ではドイツのほうが日本よりはるかに重い。)ともあれ、企業が世界一自由にやれる国を創る。これは政権側の文書に明記されている。
おそらく今年に入るまで、安倍晋三と自民党・公明党は、この筋書きがうまく行くと思っていただろう。
ところが、戦争法案に対する理解が進むとともに、人々はそれが違憲であり、危険であることに気づいてきた。危険というのは、最終的には、日米が合同軍事行動を行なうことになるということであり、日本は常に世界中の戦争に参加を強いられるということである。多くの人がそれに気づいてきている。
またアベノミクスのデタラメさも徐々にであるが理解されてきている。端的に言えば、実質賃金が低下したのである。その理由は、円安とともに(ドル高となり)輸入品価格が上昇し、消費者物価が上昇したのに、賃金率はほとんど増えていない(たしかに安倍自民党の要請により経団連が音頭をとり、大企業を中心にわずかばかりの賃上げを実施はしたが、それさえも物価上昇率に比べればわずかな上昇である)。
かくしてアベノミクスの最後の期待の綱は、株価である。(といっても株価が上がってもほとんどの人々には何の関係もない。)しかし、前に述べたように、この株価も年金基金や日銀の介入による「官製相場」に過ぎない。そして、そのゆくえも中国上海バブルの崩壊によってさきゆき不透明となっている。
アベノミクスは単なる経済政策ではない。それは背後に日本国民の生命を左右する政治的策略が隠されている。
この意味で、アベノミクスは「小泉構造改革」よりはるかに有害で、キナ臭いものである。
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