2015年10月11日日曜日

これが本当の安倍氏の経済政策の結果です。 3

 いま一つ、二つデータ(グラフ)を上げておきます。
 統計は、財務省の法人企業統計からのものです。
 まずは、内部資金(減価償却費+内部留保)。これは企業が粗利潤(減価償却費を含む利潤)から会社の内部に留保しておく部分であり、本来は設備投資などにあてるものです。そこで、グラフでは実物投資額と合わせて記してあります。

 
 1997年頃までは、実物投資額が内部資金を超えています。これは当時、企業が活発な設備投資を行なったことを示しています。特に1980年代末〜1990年代初頭まで実物投資が膨らんでいますが、これは勿論金融・資産バブルによる資産効果の影響。つまり、資産(土地、家屋、株式など)の価格上昇により「豊かになった」と感じた人々が消費を増やした結果、企業も生産能力を拡張しようとして設備投資を行なった結果でした。
 しかし、バブル(泡沫)があえなく崩壊したのち、・・・
 設備投資は50兆円ほどに急落し、その後の金融危機の発生(2002年、2008〜2009年)には、さらに30兆円以下に低下。現在も40兆円ほどの水準にあります。ちなみに、この額は減価償却費とほぼ等しく、したがって純投資はほぼゼロの水準となっています。
 これはまた、従業員の犠牲(賃金圧縮)や中小企業(系列、下請け)の付加価値の圧縮によって巨額の内部留保が実現されたにもかかわらず、設備投資に向けられない部分、つまりかなりの「余剰」が生じていることを示しています。

 


 ただし、企業といってもすべての企業が等しく大きな内部留保を蓄えることができたわけではありません。上のグラフは、2013年、2014年と資本金10億円以上の大企業だけが内部留保を増やしたことを示しています。その額はなんと14兆円弱。すごい額です。

 最後にひと言。このような状態でありながら、安倍政権は、日本を世界一企業がやりやすい国にするといっています。そして法人税率の引き下げが意図されています。
 しかし、それは巨大企業の余剰な内部資金を、またそもそも巨大企業の利潤を増やし、その分配にあずかる富裕な不労所得者を増やすだけです。巨大企業は、税率が低いならと、もっと賃金を圧縮し、利潤を増やす行動を取るでしょう。(それに企業の負担は、法人税だけではなく、社会保障費も含みますが、日本はこの点ではドイツ企業よりはるかに低い負担率となっています。)
 本当に必要なのは、上で触れた所得分配の構造を改革することでしかありえません。
 繰り返しますが、次の通りです。
  ・労働生産性に応じた賃金の引き上げ→消費の活性化
  ・中小企業(下請け、など)の付加価値の拡大(単価引き上げなど)
 この過程で、物価がわずかに上昇するかもしれません。しかし、それが本来の景気拡大、消費拡大、庶民の生活水準の上昇にともなう物価上昇であり、許容できるものと言うことができます。

2 件のコメント:

  1. しごくごもっともな意見ですが、具体的に所得分配の構造改革、賃金の引き上げはどうやったら達成されるだろうとお考えですか?

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  2. 大学をグローバル人材養成のG大学と国内ビジネス人材養成のL大学に区分したらと提言し、それなりの影響力をもっている冨山氏が、以下のように「最低賃金革命=時給千円以上に」と提案しています。中小企業の中には倒産するところもで、また、インフレをもたらすきっかけになるかも知れませんが、「所得分配政策」としては有効で、かつ、政治的なアピール効果をもつような気もします。どう考えたらいいものでしょうか?

    経済観測:GDP600兆円と最低賃金革命=経営共創基盤CEO・冨山和彦
    毎日新聞 2015年10月02日 東京朝刊

     アベノミクス「第2ステージ」の1本目の矢として、生産性革命を通じて2020年までに国内総生産(GDP)600兆円を目指すという方向性が打ち出された。今の日本の潜在成長力では難しいとの批判があるが、日本経済の長期停滞の真因は生産性、すなわち潜在成長力の伸び率が先進国の中でも最低レベルで停滞したことにある。逆に言えば、停滞した分だけ、伸びしろは十分にある。


     日本は1990年前後、1人当たりのGDP(1人当たりの生産性にほぼ等しい)で世界トップクラスだったが、今や世界27位(アジアで4位)だ。高齢化率で我が国とほぼ同様のドイツのGDPは、2000年代初頭に日本の半分ぐらいだったが、10年余りで日本の約8割の規模まで成長した。人口要因で説明するのは難しく、やはりドイツが大構造改革を断行し、1人当たりの生産性を大幅に向上させた結果である。

     少子高齢化による生産年齢人口の減少で生じた人手不足。これは出生率が2倍を超える状況が長年続かない限り解消されない。だから生産性向上は必要であり、失業が増えるリスクもほとんどない。

     そこで政策的に直接的に介入でき、かつ低所得層の賃金上昇に幅広く貢献できるのは、最低賃金を革命的に上げることだ。具体的には先進国相場の1時間あたり10ドル、1ドル100円換算で1000円(現行の約800円対比で25%増)に引き上げる。人手不足の時代、つぶれる中小企業が出ても、働き手は生産性と賃金がより高い企業へ移動するだけである。最低賃金の劇的な引き上げは、税金を使わずに賃金上昇と消費回復の好循環を全国津々浦々で生み出すトリガーになりうるのだ。これは机上の観念論ではない。地域の中小企業の再生現場に関わってきた実感である。

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