昨日、横須賀中央駅前を通ったところ、「年金生活者」のグループが、政府によって毎年老齢音金額を減額されてゆく現状を訴えていました。私も今年から、年金生活者の一員となり、生活不安を抱えている身。将来が不安になります。もちろん若干の蓄えはあるとはいえ、将来不安(健康、自己、子供たちのこと)のため、思い切って消費を増やす気にはなれません。
その上、消費税の10パーセントへの増税は、自民党の選挙対策の一環としてさしあたりは見送られましたが、選挙に勝ち、「改憲勢力」の3分の2を確保した自公政権にとっては、消費税の引き上げを延期する理由はなくなりました。形式的な理屈上は、日本全体の消費需要がかりに350兆円だとすると、2パーセント・ポイントの引き上げは、7兆円の税収増をもたらすことになります。ただし、これは大衆増税によって景気が悪化しなければの話であり、経済理論の常識やこれまでの経験に照らすと、(政府が増税分を財政赤字の補填などに使ってしまい、人々の生活のための政府支出を増やさない限り)消費需要が大幅に低下し(あるいは、低下しなくても、長期にわたって停滞し)、まさにデフレ不況を深刻化させる危険があります。実際、安部政権のアベノミクスがデフレ不況を克服するというキャッチコピーにもかかわらず、消費税の引き上げ以降、日本経済の状態が悪化したことは明らかです。
さて、こんな財政状態にあるにもかかわらず、日本の巨大企業は、巨額の税金逃れをしてきましたし、またしています。というと、日本の会社の「実効税率」は世界的にみて高いのでは? という疑問が投げ返されてきそうです。
実際、私がかつてある県の放送大学のセンターで、社会人を相手に日本経済や世界経済について、勉強会を開いていたとき、よく出された質問の一つが、<日本の高い法人税率>についてのものでした。いや、そもそも<日本の高い法人税率>や、、それではグローバル化した国際経済の環境の中で競争に勝てない>という議論は、マスコミの決まり文句(言説)となっていあす。
ひょっとすると多くの人はそれを信じているのではないでしょうか?
しかし、本当にそうでしょうか? 確かに法人税の法定税率が、そこそこの水準に設定されていることは間違いありません。基本的な考え方としては、企業の所得(利益、利潤)に対して法人税がかけれられており、その法定上の率(法人税÷企業所得)は、25.5パーセント(2012年。地方税を除く国税のみ)に設定されています。この率は、国際的に見て、確かに低くはないかもしれませんが、決して高いとは言えません。(外国の例は、後日、折を見て紹介したいと思います)。
ところが、本当に重要なことは、実際の税率(まさに本当の意味での実効税率)が多くの企業で、これよりはるかに低い額にあることです。
このことをきちんと説明した富岡幸雄氏の『税金を払わない巨大企業』(文春新書、2014年)から紹介しておきましょう。次の表は、同書の90ページの表をグラフ化したものです。なお、この図のもとになった企業の所得には、申告所得の他に、富岡氏が推計した他の企業所得が含まれています。
この図から見られるように、資本金1000万円から5億円の企業にかけて企業規模が拡大するとともに、実効税率は20パーセントから25.44パーセントへと上がっていますが、それより大きな企業になると、税率は急速に低下しており、100億円超の企業の法人税率は、外国税等を含めても、なんと11.54パーセントにしかなりません。100億円超の企業の所得は、きわめて巨額ですから、これは、すさまじい額の税金逃れ(tax evasion)が行われていることを意味します。
出典)上掲書、90ページ。
このような税金逃れがどのように行われるのか。ここでは、その一つとして巨大企業の「受取配当金」が非課税の所得となっている事実だけを上げておきます。富岡氏の前掲書(97ページ)では、巨大企業が2003~2011年に受け取った約58兆円のうち、何と48兆円以上(73.5パーセント)が無課税の所得となっています。
もちろん、以上の値のうち企業の所得額は、タックスヘイブンなどにより、企業の所得がただしく申告・把握されていることを前提としています。ところが、企業が税金逃れをするための手法の一つは、比較的税率の高い課税国での所得金額を少なくみせかける(したがって比較的税率の低い課税国の所得lを増やすことになる)価格操作であり、これは同一企業内の多国間取引が行われていることを前提としているので、それが正しいという保証はまったくありません。ただし、ここでは、統計的な実態把握が難しいこともあり、この点は省くことにします。
では、近年この法人税額や税率はどのように変化してきたのでしょうか?
論より証拠。まずは次のグラフをみてください。
これは国税庁のデータ(会社標本調査)をもとににして、私が作成したものです。計算の基礎となる企業所得としては、企業の申告所得と益金不算入の配当金を合計したものを用い、その金額で法人税(国税のみ)を割ってあります。したがって欠損企業の場合、益金不参入の配当金は欠損額をカバーするために利用されている可能性がありますが、巨大企業の場合には欠損額が小さく、また中小企業の場合は、益金不参入の配当金額がきわめて小さいので、数値が実態からかけはなれることはありません。
2つのことが観察されます。第一に、上で見たように、5億円を超える企業階層については、法人税零つがきわめて低くなっていることが確認されます。第二に、安部政権の下で、着実に法人税率が引き下げられてきたことです。
要するに、一方で99パーセントの庶民に大衆課税を強要しながら、他方では巨大企業を優遇するという政策を実施してきたのが、アベノミクスであり、この事実は経済学者として見逃すことができません。
もうちょっとグラフを見てみましょう。
これは、日本の企業の申告所得(利益計上法人と損益法人)、それに益金不算入の配当金額を乗せたものです。近年のところをみると、2014年の企業所得は1989年の水準とほぼ同じになり、また欧米資産バブルの絶頂期(日本の輸出の好調期)の2006年、2007年に近い水準にたっしており、要するに業所得の回復が認められます。
ところが、法人税額(国税のみ)は、大幅に減少しています。企業所得が同じだった1989年を基準にとれば、3.5兆円ほどの法事税の減収です。
これは、歴代の日本政府が企業優遇税制、というより大企業の租税逃れを手助けしてきたために他なりません。
おそらく私がここで記したことは、日本の財務省や政府が国民に対して隠したい事実であるに違いありません。その証拠に、日本の法人税の「実効税率」が高いとか、グローバル競争に勝てないとか、財政危機を救うために緊縮財政を実現するべきとか、消費増税を実施するべきとか、という言説はマスコミを通じて流布されるのに、私の知る限り、実際の法人税率がどうなってるかなどは、(政府や企業の意をくむ)マスコミで報道されたためしがありません。
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