2017年7月14日金曜日

安倍氏の経済政策の経済的帰結 11 政府統計に見る/即刻退陣に値する「功績」

 この辺りで、安倍政権の経済政策のパフォーマンス(実績)を統計的に少し詳しく検討してみよう。

 実質GDPについては、すでに紹介してあるので、その他のデータを以下に載せることにする。
 まずは日本全体の「消費」総額から。下の2図は、上が名目値、下が実質値であるが、2014年の第一四半期(Ⅰ期)に消費が急増しているのは、消費増税前の駆け込み消費支出による。もちろん、消費増税が実施されると、消費額は急落し、その後、2015年にかけて緩慢に増加してゆくが、その後、ほと停滞している。しかも、上図は、消費者物価指数(CPI)により調整していない名目値である。しかし、周知のように2014年には、消費者物価の相当な上昇があった。そこで、消費は実質的には上の図が示すよりはかなり低くなる。下がその実質値である。見られるように、アベ政権誕生前には、そこそこに拡大していた消費が駆け込み需要の急落後は、まったく停滞している。現在ようやく政権誕生前の水準に戻っているにすぎない。(この点については、吉川氏の見解を批判的に検討する形で前に述べているが、ここでは繰り返さない。ともかく図をよく見て欲しい。)
 



 念のため、消費者物価指数とGDPデフレーターの図もあげておこう。
 

注)

 デフレーター(これも一種の物価指数)の図で、特に注意して欲しいのは、民間最終消費支出(の物価指数)の上昇に先行して、輸入品の物価が上昇している点である。これはまさにアベ政権の下で実施された為替介入による円安・ドル高によって輸入品価格が大幅に上昇し、それが消費者物価の上昇をもたらしていることを示している。
 これに関連して、もう一つ注意しなければならないことは、物価上昇が国内的要因によるものではなく、まさに輸入インフレだったことである。しかし、輸入インフレは、外国製品の物価高に他ならず、まさに外国人の所得増加に寄与するものでこそあれ、国内の人々の所得を引きあげるものではない。このような物価上昇は、日本の居住者の可処分所得を相応に引き下げる効果を持ち、したがって消費を冷え込ませるように作用する。物価が上がれば、消費が増えるなどとは、正気を失った人か経済をまったく知らない人の妄想に他ならない。
 そこで、政府の一部局が作成した図を次に示しておこう。
 

 消費支出の対前年実質増減率を示す図であるが、まさにミゼラブルとしかいいようがない。もちろん、こうした消費の縮小・低迷は、因果関係の方法は別として、家計の可処分所得の縮小・低迷と密接に関係していた。
 (以下の出典は、総務省『家計調査報告概要』、2017年5月、総務省『家計調査報告[家計収支編]』2017年2月による。)
 


  今回は、もう一つ労働統計に関係する図をあげておこう。
 

 この図は、日本全体の就業者総数、就業時間総数、および労働生産性(従業員一人一時間あたりの実質GDPと定義する)の推移を示したものである。実数ではなく、2012年=100とする指数で示されている。図中、2010年の数値が欠けているが、これは震災により統計を取ることのできなかった県(2県)があったためである。この図から、さしあたり次の二つのことを読み取ることができる。(なお、これについては、服部茂幸『偽りの経済政策』岩波新書、2017年、「第2章 雇用は増加していない」を参照。ただし、本ブログの説明はこれとは若干異なる点がある。)
 1,たしかに就業者(人数)は、全体として増加傾向にある。しかし、延就業時間数は増えていないばかりか、減少傾向にある。これは就業員一人あたりの年間平均就業時間が減少していることを示すが、その意味することは、ただ一つ、低賃金の非正規雇用の拡大に他ならない。
 こうしたことは、歴史的には、物価上昇の中で実質家計所得が減少したときに、以前と同じ消費水準と所得水準を維持しようとして、多くの家計が家計補充的な所得を得るために取る行動ときわめて類似している。
 アベ政権の「一億総活躍社会」とは、結局、そのようなことではないかと疑わせるに十分な資料である。が、これについては、さらに詳しく検討しなければならない。
 2,労働生産性の推移についてみると、2000年から2016年にかけて、26.1%の成長が生じている。これは年率に換算すると、1.46パーセントに等しい。また安倍氏が政権についた2012年末から2016年にかけては、労働生産性の成長はさらに低くなり、年率0.6パーセントにすぎない。
 ところで、労働需要(求人)は、生産量(産出)の増加関数であり(簡単に言えば、一方が増えれば他方も増え)、労働生産性の減少関数である(一方が増えると他方は減る)。このことは、労働生産性の上昇が労働需要減をひきおこさないためには、1.46パーセントの生産量の増加(成長)が必要であることを意味する。
 しかし、すでに気づかれているように、2000年から2016年にかけて、そのような高い成長率は実現されてこなかった。また安倍政権期には、0.6パーセントの成長も実現されてこなかったことになる。
 現在の日本では、労働年齢人口がしだいに減少しつつある。すなわち、労働供給のプールとなる人口コホートが減少しており、中小企業では労働力不足も語られている。
 こうした事態を全体的にどのように把握するべきか、が大きな問題となっている。 
 しかし、安倍晋三氏には、こうした重要な問題を考える力はないようである。
 Abe is over (Love is over の替え歌)ではないが、「悪い過ち」だったことを知った以上、経済の立場からも早急な退陣を切に求めるしだいである。


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