2013年3月27日水曜日

IMFと国際通貨体制の混乱 その3

 ケインズは、第二次世界大戦後、隣人窮乏化政策(通貨安競争)とブローバル・マネーゲーム(FX取引やポートフォリオ投資)が生じないようにするための制度=国際通貨体制
を構築する必要性を考えていました。隣人窮乏化政策というのは、(例えば現在の日本のように賃金を抑制して)国内需要を疎かにしながら、外国(隣人)に輸出攻勢をかけ、外需依存の発展をはかるものです。後者のマネーゲームについては、説明する必要もないでしょう。
 そのためにケインズは、「国際清算同盟」という一種の国際銀行とバンコールという国際通貨の創出を計画していました。その概要は、次の通りです。
 1)割当額の決定。まず各加盟国には「貸越残高の最高額」が決定されますが、それを「割当額」(Quota)と呼びます。(IMFの割当額と意味が異なりますので、注意。)この最初の割当額は、各国の輸出入額の戦前の三年間の平均を参考にして決められ、過渡期間が経過した後は、過去三年間の実際の貿易量の移動平均によって改訂されます。
 2)清算同盟に対する加盟国の平均残高が、貸方・借方のいかんを問わず、割当額の25%を超える場合には、超過額に対して年率1%の課金を課します。また50%を超える場合には、その超過額に対して2%の課金を課します。
 3)加盟国は、借方残高を一年間に割当額の25%を超えることはできず、超えた場合は、その通貨のバンコール建て価値を5%を超えない範囲で切り下げることができます。
 借方残高を50%を超えて増加させることを許される場合、理事会は次の措置を要求することができます。i)通貨価値の切り下げ、ii)資本流出の規制、iii)保有する金等からの妥当な部分の提供。
 借方残高を75%を超えて増加させる場合、理事会は改善勧告を行う等の特別の措置を講じることができます。
 4)貸方残高が一年間の平均で割当額の50%を超える場合は、国際収支の均衡を達成するために、理事会と協議して次の措置をとります。
  (a)国内信用・需要を拡大するための措置
  (b)自国通貨の切り上げ、または貨幣賃金の引き上げ
  (c)関税その他の輸入抑制手段の軽減
  (d)低開発国の開発のための国際貸付

 この後にまだ「資本管理」の問題が続きますが、ここでひとまず、以上を要約しておきましょう。
 見られるように、ケインズ案は基本的に固定相場制を採用しています。しかし、為替相場は、ひとまず確定されたのち、(バンコールに対して、またバンコールを介して金に対して)ずっと固定されるというわけではありません。つまり、国際収支が割当額の25%を超えて赤字や黒字となる国が現れた場合には、「課金」というペナルティを課すことによって各国が是正措置をとることを想定しています。また国際収支が割当額の50%を超える赤字や黒字となった場合には、(バンコールに対する)通貨価値の切り下げまたは切り上げをすることを提案しています。さらに注目されるのは、割当額の50%を超える赤字国が資本流出の規制を行なうだけでなく、割当額の50%を超える黒字国も(自国通貨の切り上げだけでなく)内需を拡大するための諸措置、貨幣賃金の引き上げ(注意!)を含む措置や、輸入促進のための措置、開発途上国の開発のための資金貸付といった措置を取ることを求められていることです。
 このように、国際収支の不均衡を赤字国・黒字国の両者の責任とし、不均衡を是正するために両者に課金(ペナルティ)を課し、通貨価値の切り下げ・切り上げを初めとする諸措置を義務づけるという規定は、ホワイト案にはなく、もちろん1945年に発効したブレトンウッズ協定にも、IMF規定にもありませんが、戦後の国際通貨体制の混乱の歴史を見ると、きわめて重要の点であったといわざるをえません。ケインズ案を英国(大英帝国)の利害という視点からのみ見てはいけないのです。
 現実には、ケインズ案に比べて為替相場をより厳しく固定化し、国際収支の均衡のための(自動的な)措置を講じていなかったブレトンウッズ体制は、しばしば躓くことになります。しかも、1971年8月15日のニクソン・ショック後に変動相場制に至ってからは、まったく国際収支の均衡のメカニズムを欠くことになります。(新古典派の購買力平価説では、国際収支の均衡が説かれますが、それが現実離れした理論であることは、すでに紹介ずみです。)
 しかし、このことをよく理解するためには、もう一つ資本移動の問題を考えておくことが必要になります。

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