ケインズ案にとって国際資本移動は、きわめてやっかいな問題でした。このことは、1930年代の世界恐慌が国際間の大規模な資本移動と深く関連していたことからも明白です。いずれにせよ「資本移動の統制」が戦後の制度における恒久的な特徴でなければならないと広く主張されていました。
もちろん、ケインズは資本移動の管理を擁護することは「国際投資の時代は終焉すべきである」ことを意味しないと言います。その上で、彼は、「浮動資金の移動」と「世界の資源を開発するための純粋な新しい投資」を区別しなければならず、また経常収支の赤字国から黒字国への資本移動(投機的移動)と黒字国から赤字国へのへの資本移動(均衡維持的な移動)を区別しなければならないと主張し、前者を問題視します。
この視点も現在きわめて重要です。なにしろ、1980年代から3年おきに行なわれるようになったBISの外国為替統計調査でも、実に実需取引のおよそ40倍にものぼるポートフォリオ投資(ケインズの浮動投資)が行なわれているのですから。また米国が経常収支の赤字国(資本の受入国)でありながら、対外投資(例えばヨーロッパへの短期貸し)を行なっていることもよく知られている事実です。現在のグローバル金融危機は、このような資本移動(マネーゲーム)の土壌の上に発生していることも言うまでもありません。
しかし、結局、ケインズも「普遍的な資本移動の統制体制の確立は、清算同盟の運営にとって不可欠であると見なすことはできない」として、「このような統制の方法とその寛厳の程度は、各加盟国の決定にゆだねられるべきである」と結論しました。
戦後、資本移動の管理・統制は各国で実際に行なわれてきました。しかし、1970年代、ブレトンウッズ体制が崩壊するとともに実施された金融・資本移動の自由化の波の中でほとんどすべげの統制手段は奪われました。そして、それと同時に金融危機が再発しはじめたことは周知の通りです。
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