2013年4月11日木曜日

公正な社会と生活保障賃金 2 底辺に向かう競争

 かつてマルクスは、「万国の労働者よ、団結せよ」と言いました。いまは、あたかも多くの人々が「万国の労働者よ、競争せよ。賃金の底辺に向って」とでも命じられているかのようです。
 
 少し具体的な話をしましょう。近年、ブラック企業と呼ばれるものが多数現れてきました。例えばA**zonという有名な会社がありますが、英国でも米国でもドイツでも日本でもその労働環境の劣悪さが問題とされています。英国では The Times が取り上げており、ドイツでは当局による調査が行なわれたようです。
 このような会社は、低価格販売を売り物にしていますが、それが徹底した(非人間的な)合理化と費用削減(賃金圧縮)を前提に成り立つことは言うまでもありません。そのような合理化は、雇用を拡大するでしょうか? とてもそうとは考えられません。むしろ、そのような企業は、既存の商店(本屋、家電店など)の存立基盤を崩し、雇用を縮小するでしょう。しかも、多くの消費者は現物を商店で見てから、A**zonで注文すると言われていますが、それは同社が市場の外部経済を享受していることを意味します。しかも、合理化によって生じる雇用の縮小分をA**zonが吸収することはありません。むしろ、より少ない労働力と賃金総額で済んでしまうからです。
 それを合理化とか、効率化とか呼んで、単純に評価することはできません。自分には関係ないことだと言っている人にも同じことが起こる可能性は十分あります。もし社会のあらゆる領域で同様なことが生じたたらどうなるでしょうか? 新しい産業が過剰となった労働力を吸収してくれるから、むしろ積極的にそうしたことを推進するべきだという経済学者もいますが、本当に必ずそうした新産業が登場すると言えるでしょうか? 
 実際は、過去の事例や理論が示すように、労働の生産性の上昇は、それに応じた有効需要の拡大を伴わない限り、雇用(労働需要)を減らします。しかも、社会全体における賃金所得の低下は消費需要を低下させます。
 これもマルクスの説明ですが、彼は、資本家(企業家)は、他の企業が賃金を引き上げることを欲し、かつ自分の企業は賃金を引き下げることを欲すると言いました。もちろん、それは社会全体では所得つまり有効需要が拡大するという状況が生まれ、かつ自分の企業は低賃金労働の実施によって低価格を実現し、販売を拡大することができるようになって欲しいという企業者にとって都合のよい希望を説明したものです。しかし、通常、このようなことは実現しません。ケインズが強調したように、すべての企業が賃金を圧縮すれば、社会全体の所得=有効需要も低下することになるからです。
 要するに、確かに森は木の集合体ですが、個々の木は森という環境の中でしか育たないのであり、これは生物学上の真実であると同時に、経済学上の事実でもあります。

 生活保障賃金を実現することは、公正な社会を実現するために重要なばかりでなく、本当は社会全体にとって、また最終的には企業にとっても利益のあることなのです。

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