2013年4月16日火曜日

公正な社会と生活保障賃金 5 最低賃金の引き上げは雇用を縮小させなかった

 米国では、1980年代と1990年代の最低賃金の実質的な低下に直面して、1990年代から Living Wage 運動が活発化します。そのハシリとなったのが、1994年のボルティモア市における生活賃金条例の制定です。当時の連邦レベルの最低賃金は長期にわたって据え置かれたままであり、$4.25のままでした。前回述べたように、1979年以来、最低賃金はインフレーションによって実質的に大幅に低下していました。
 これに対して、ボルティモア市の条例は、市と業務委託契約を結ぶ会社に1996年に時給$6.10以上を支払うことを義務づけ、1999年までに$7.70に引き上げること、その後はインフレ率に合わせて改訂することを規定しました。これはいわゆる日本で言うところの「公契約条例」に相当するものであり、政府や地方自治体が民間企業と公共事業や業務委託契約を結ぶとき、当該企業の労働条件に特定の条件を付すものです。
 しかも、こうした生活保障賃金条例は、その後、ニューヨーク、ロサンゼルス。ボストン、ミルウォーキー、ミネアポリス、ポートランド、オレゴンなどの市でも採択され、さらに現在までに140もの州、郡、市などに普及しました。
 ここで注目されるのは、ボルティモア市の1999年の$7.70が1994年当時の連邦レベルの最低賃金$4.25を大幅に(80%も)超えていたことです。
 こうした運動に対しては、予想されたように、様々な反対のキャンペーン、批判、非難の運動が展開されました。反対意見は主に、大幅な賃金率の引き上げが雇用に悪い影響(つまり失業の拡大)をもたらすという点に向けられました。またそうしたキャンペーンの影響下に、公正の観点から生活保障賃金条例に共感を寄せていた多くの良心的な人もそれを心配していたことは事実です。
 しかし、その後、米国の経済学者によって行なわれた実証的な追跡調査・研究は、最低賃金の引き上げが雇用に悪い影響を与えることがなかったことを明らかにしました。(ちなみに、イギリスで1997年に復活した最低賃金制も雇用に悪影響を与えることはありませんでした。)
 その理由はどのように説明できるでしょうか? 次にこの点を実証研究の結果に即して説明することとします。

0 件のコメント:

コメントを投稿