2013年8月18日日曜日

消費増税の影響 その1

 消費税の5%から8%への増税の実施をめぐって政府内でも実施論・慎重論などが飛び交っている。それが日本経済にどのような影響を与えるのか、もちろんそれは大問題であり、結果次第では安倍内閣の支持率があっという間に暴落する可能性も高い。
 ここでは、理論的および歴史的な見地から問題を簡潔にみておこう。
 1)理論的見地
 まず3%が量的にどれほどになるかをみておこう。国民経済計算によると、2012年度の消費需要は384兆円ほどであるから、いま仮にその数字をもとに推論し、その全体に消費税がかかると考えると、11.5兆円ほどの増税となる。GDPは473兆円ほどだから、それはGDPのおよそ2.4%に相当する。
 これほどの増税が経済に与える影響をみるために次の点を考えなければならない。
 1 まず考えなければならないのは、GDPの2.4%にあたる金額(11.5兆円)が人々(個人部門、家計部門)から政府に移転することである。形式論理的に考えれば、それは人々から同額の可処分所得を、したがってまた購買力を奪うことを意味する。
 2 一方、政府の方は同額の租税収入(歳入)を増やすことになる。つまり政府は11.5兆円だけ購買力を増やし、人々から奪われた購買力を補うことになる。したがって、日本社会全体の購買力全体には増税による変化は生じないことになる。
  人々の購買力 マイナス 11.5兆円
  政府の購買力 プラス  11.5兆円
   合計       ゼロ
 3 しかし、経済に与える影響を考えるためには、有効需要の変化を、この場合には日本全体における消費支出の変化を考えなければならない。 
 まず人々の消費支出であるが、その他の条件が同じならば(ceteris paribus)、人々の購買力が減少するのであるから、消費支出も減少する可能性がきわめて高い。それは消費財に対する有効需要を低下させるだろう。それが景気を悪化させるかどうかは、政府の態度如何による。
 そこで政府の態度であるが、それはもちろん経済政策次第である。もし政府が消費支出をまったく増やさないならば、政府の側から発する有効需要は増加しない。この場合には、日本全体の消費支出は大幅に減少する危険性が高い。その結果は、相当な景気後退=不況である。
 しかし、例えば政府が11.5兆円分の支出増を行なうならば、それは人々の消費支出の減少を補いことになるであろう。そこで、この場合には、消費税の増税は全体として有効需要の低下を招かないと想定される。
 4 このように消費税の増税が経済に与える影響を評価するためには、増税だけでなく、政府の政策・態度を議論しなければならない。しかし、政府からもマスコミからもそれについては確実な情報は発せられない。
 しばしば聞こえてくるのは、政府の巨額の負債を減らすべきであるという財政再建派の議論である。しかし、もしそうであれば、消費増税は支出を増やすためではなく、政府の借金を返済する(つまりマクロ経済学的には、貯蓄する)ということであり、支出を増やすということではない。そこで、われわれは相当の景気後退を覚悟しなければならない。
 5 もちろん、上で述べたことは、かなり確率が高いとはいえ、一つの可能性でしかない。現実の経済社会では、人々は「期待」にもとづいて行動する。もし人々が将来について楽観的な期待を抱いておれば(例えばアベノミックスなるものに幻想をいだいている等々)、人々の消費支出は減少せず、また企業の投資も減少しないかもしれない。この場合には、人々の可処分所得もあまり低下しない可能性があり、場合によっては増えるかもしれない。人々は、貯蓄を切り崩してでも消費を続けるだろう。
 しかし、もし人々が将来に対して悲観的な期待を抱けば、結果は悲惨である。人々の消費支出は減少し、企業も投資を減らす。日本全体の総需要は低下し、深刻な景気後退が生じ、もしかすると財政収入も増加するどころか、低下するかもしれない。
 繰り返すがすべては「期待」に依る。
 抽象理論が言えることはここまでである。そこから先は、どのような「期待」が予想されるのか、「期待」を生み出す日本社会の現在の状態をどのように見るかによる。
 そこで、次に歴史的な事情に触れておくことにしよう。(続く)
 

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