2013年12月13日金曜日

ブラック企業を拡大させる「首切り特区」に反対する

 安倍内閣によって「首切り特区」の構想が打ち出されました。
 『週間朝日』でさえ、「首切り特区でブラック企業の合法化の恐怖」(10月26日号)とその問題性を取り上げています。
 そのような「特区」を作って喜ぶ人がいるのでしょうか? また社会全体がよくなるというのでしょうか? これこそナオミ・クライン著『ショック・ドクトリン』(上・下)が暴露した惨事便乗型資本主義の典型に他なりません。
 もちろん例によって<自由に解雇可能だから、企業が安心して労働者を雇用できる>、と例によって適当な(デタラメな)ことを言う御用学者は山ほどいます。
 しかし、そんなことがあるはずがありません。
 まず企業は、自由に解雇できるならと、首切りをちらつかせて労働者に違法就労を強制するでしょう。「君の代わりに働きたい人はいくらでもいるんだよ。」この決まり文句の前に弱い立場の従業員は、違法な長時間労働を強要されるでしょう。そのような時に労働者が取れる自衛手段(実際は自衛手段になりませんが)は貯蓄を増やそうとして、消費を削ることだけです。しかし、そのような消費を削る行為は社会全体で行われると総需要を縮小させ景気後退を招きます。そして、結果として失業はますます拡大するでしょう。それは企業にとってさえも景気の停滞や後退というまずい結果を導きます。これが「合成の誤謬」と名づけられているものです。
 要するに、「首切り特区」は、労働条件を悪化させるだけでなく、失業を拡大し、社会全体を不安定化させるトンデモ政策に他なりません。

 かつてジョン・K・ガルブレイスという米国の経済学者が次のような趣旨のことを述べたことがあります。<ジョン・M・ケインズなどの良心的経済学者によって労働保護立法の意義が明らかにされ、資本主義はより安定的な方向に向かって来ていた。ところが、経済学者の中にも、経営者の中にも、政治家の中にも、それを破壊し社会を不安定化しようとする人々がいる。それはどうしてなのだろうか>、と。
 
 その答えは、ガルブレイス自身が与えており、また本ブログでもカレツキの政治経済学やOECD諸国の経済動向の解説を用いて説明しました。要するに、現代の企業家経済の社会では、失業率が低下し、労働生産性に応じて実質賃金が上昇したり社会が安定化することを心良く思っていない人々がいる、という否定しがたい事実があります。近年(といっても米英で現れたサッチャー、レーガンが現れた1980年頃から30年ほどですが)の傾向を見ているとこの事実は否定しがたいほど明瞭です。戦後しばらく眠っていた「マルクス問題」(大企業の巨大な権力の前に労働者が貧困化してゆくという問題)がいま再現しつつあります。

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