現実世界の経済学における経済変動の説明
企業が時間の経過とともに(毎年)設備投資を行うと、その純投資額だけ資本装備額(ネットの固定資本ストックK)は増加します。また少なくともこれまでは労働力(労働者の数N)は増加してきました。
現実の経済でも、この2つの量(K/N)は、貨幣額(金額)で定量的に示すことができます。現代の経済では、通常、このK/Nはしだいに増加します。そしてそれとともに労働生産性(労働者一人あたりの可能な生産額)Y*/Nも増加します。
そして、これらの2つの量(K/NとY*/N)は、比例的な関係のあることが実証研究によって分かっています。
Y*/N=αK/N よって Y*=αK または K=Y*/α=σY*
ここでαを資本の生産性と名づけ、その逆数 σ=1/α を資本係数と名づけます。
これは社会全体の生産能力が資本装備に依存していることを示します。
この辺までのところは、ハロッドやドーマーといった研究者の明らかにしたところです。
しかし、生産能力があるということと、実際に生産が行われるということは必ずしも同じではありません。むしろ両者は異なるのが普通です。
では、実際の生産 Y はどのように決まるのでしょうか?
それは総需要 Y=D=C+I+G+(XーM)によって決まります。
C:消費、I:投資、G:政府支出、(XーM):純輸出
いま政府支出と貿易を捨象すると、Y=C+I となります。
以上の結論をまとめてみましょう。
Y*=αK=K/σ
Y=C+I
基本的には、この2つの式が経済の変動を考えるときの基礎となります。もちろん、これらは時間とともに変化するので、わが現実世界の経済学では、次のように時間(t)の関数として、次のようにあらわすことにします。
Y*=αK(t)
Y=C(t)+ I(t)
現実の経済では、所得分配も重要な役割を演じています。そこでそれも表現しましょう。所得は、賃金Wと利潤Rに分かれますので、
Y=W(t)+ R(t)
さらに、賃金からの支出と利潤からの支出が総需要(有効需要)を構成しますが、ここでは前に示したように、賃金からの支出はすべて消費財の購入に当てられ、利潤からの支出は消費と貯蓄(=投資)に当てられると想定します。(実際には、賃金からも貯蓄がなされますが、それは小さいので、簡単のために捨象します。)
Y=Cl(t)+Ck(t)+S(t)
ところで、雇用Nは、生産額Yに比例し、労働生産性ρに反比例することも既にしめしてあります。もちろん、労働生産性も時間とともに変化します。そして、それはK/Nに比例します(上段参照)。
N=Y(t)/ρ(t)
ここで活動的人口(労働人口)をLとすると、雇用率は、
E=N/L={Y(t)/L(t)}/ρ(t)
失業率は、
U=1ーE
(ただし、Lは主にかなり長期の歴史的事情に関連しており、短期的変動は存在するとしても、それほど大きくはないと想定されます。特に賃金率が低いほど、労働者は一定の所得を確保しようとして長時間働くため、現実は新古典派の想定とはまったく逆の傾向を示します。)
これで実際の経済を分析するためのお膳立ては大体整いました。あとは、これらが時間とともにどのように変化してきたかを分析することになります。
またこの分析を通して、経済全体が相互にどのように関係しているかを理論的に考察することも必要になってきます。
ケインズやカレツキ、ハロッド、ドーマーの努力によって現代経済学は、経済の動学化にかなり成功してきました(ただしまだ完成とは言えないでしょう)。
もちろん、上の諸量が相互にどのように関係しているか、それをきちんと説明するためには、「ミクロ・マクロ問題」(ミクロとマクロの相互関係)を明らかにする必要もあります。すなわち、マクロは確かにミクロの集計という面を持ちますが、そのミクロ的な行動にマクロ的な状況が大きな影響を与えています。
ここで重要なことは、雇用や失業もここに示した経済全体を構成する諸要因を明らかにしたときに解き明かされるのであり、そこで、単純に雇用や失業を実質賃金率だけで説明するのが如何に非科学的な馬鹿げた態度かが明らかとなることです。
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