2014年2月20日木曜日

アベノミックスというお伽話し 物価と賃金との本当の関係

 アベノミックスが喧伝され、物価上昇が経済成長と賃金引き上げを実現するというお伽話を信じた人々が実にたくさんいたようです。マスメディアがこぞって提灯記事を書いたり放送したことも理由の一つでしょう。
 また物価を上昇させるためには、日銀が異次元の金融緩和策を取り、通貨を大量に発行すればよいという議論も喧伝されました。貨幣ユートピアも極まれりといった感じです。
 しかし、これらの化けのかわははがれています。
 何故なら、・・・

 今日のNHKニュースでも、企業、特に中小企業における賃金引き上げは難しいという内容の報道が行われていました。物価は(主に円安による輸入品価格の上昇によって)上がるけど、賃金(正確には貨幣賃金)による費用の増加を価格に転嫁することは難しいというわけです。
 しかし、まさにこれこそ本末転倒の議論に他なりません。
 何故なら、・・・

 本当はこうです。企業、特に中小企業が賃金を引き上げると、確かに人件費は増加します。しかし、人件費の増加は、勤労者の所得増加を意味します。そして勤労者の所得増加は消費支出の拡大を促し、次に消費財を生産している企業の投資意欲を促し、生産財に対する需要を促進します。こうして消費財と生産財の生産が拡大するので景気がよくなるのです。
 一方、人件費を拡大しなければならなかった企業、特に中小企業は、それを価格に転嫁しなければならなくなりますが、実際に需要量を減らさずに価格に転嫁できたとき、物価上昇が生じます。
 
 まさにこの点が現実の経済の理解にとって重要です。この点というのは、人件費等の増加を価格に転嫁することが可能な状態・環境にあるときに(輸入インフレではなく、国内的な需要増加要因による)物価上昇がはじめて可能となるという点です。そして、またその時に貨幣所得の増加と支出の増加によって景気がよくなるという点です。
 まさに経済政策の役割とは、そのような社会経済環境・状態を実現することだということができます。

 一般的な形で説明しましょう。
 いまある国の経済にA部門とB部門の2部門があるとします。A部門は労働生産性の上昇が大きい部門であり、例えば製造業や大企業によって代表されます。B部門は労働生産性の上昇が小さい(または生じない)部門であり、例えば農業や多くのサービス業、中小企業によって代表されます。
 いまA部門とB部門に例えば3%の労働生産性格差があるとしましょう。すると10年間では生産性格差は34%ほどになります。また20年間では84%にもなります。
 この時、物価(A部門の製品、B部門の製品)が変化しないとすると、B部門の生み出す貨幣所得はA部門の生み出す貨幣所得より大幅に少なくなります。貨幣賃金水準にも大きな差が生じます。
 このとき何が生じるでしょうか?

 価格調整です。もしB部門がその国にとって必要不可欠な産業であれば(もちろん、そのような場合が圧倒的です)、B部門が生き残るような価格調整が生じ、所得分配がなるべく平等になるようなメカニズムが作動して、実際にB部門の製品価格の引き上げが可能となります。さもなければ、B部門の利潤も賃金も(絶対的に減少しないとしても)A産業に比べて大幅に低下します。
 こうしてB部門の物価は例えば毎年3%増加し、経済全体では(例えば)2%の物価上昇が生じるということになるわけです。
 賢明な読者諸氏には簡単に理解していただけるように、価格調整は所得分配とも関係しており、現実の物価上昇は人々(大企業と中小企業、農業・製造業・サービス業、賃金所得者とその他の人々)の間の所得を平等化するか、それとも格差を拡大するのかという問題とも関係しています。

 ところがこのような価格調整メカニズムの意味も分からず、ただ単に中央銀行が通貨を大量に供給すれば、物価が上がり景気がよくなるという人は、そもそも金融の仕組みを理解していないばかりか、物価上昇と景気と関係も理解していないというしかありません。特に彼らは商品によって物価の上昇率が何故異なるのかを説明できません。せいぜい需要と供給によって変化するという高校の教科書程度の一般論を思い出すのが関の山です。

 物価は上昇するのに貨幣賃金の引き上げが許されないような状況に直面して、多くの人々はアベノミックスがまやかしであることに気づいてきます。

 ところが、・・・。今度はエコノミストなる人々があらわれ、景気回復が2、3年続けば賃金の引き上げも可能になる(つまり賃金は当面あがりません)と言い出す始末。何をかいわんや、です。

 このようなつまらない(また低水準な)議論は措いておき、もっとまともな議論を最後に紹介しましょう。
 ILO(国連)がいま世界的に有名な優れた経済学者の次のような優れた本を出版しています。そのまま和訳して紹介します。

 『賃金主導型成長:経済回復のための公正な戦略』
 Marc Lavoie and Engelbert Stockhammer (eds.)

 紹介文の大意は次の通りです。
 「この独創的で包括的な研究は、賃金シェアーの低下と所得分配の不平等の拡大に関して原因と結果を研究し、それらが総需要と労働生産性の両者に関係していることを示している。それは変化する所得分配の経済的原因と潜在的な影響に関する新しい実証的および計量経済学的証拠を提示する。」
 
http://www.ilo.org/global/publications/ilo-bookstore/order-online/books/WCMS_218886/lang--en/index.htm

 ちかじかこの本の内容を紹介したいと思っています。





1 件のコメント:

  1. 企業から労働者への一括税・一括補助金による所得移転ではなく、賃金の引き上げであれば

    >人件費の増加は、勤労者の所得増加を意味します。そして勤労者の所得増加は消費支出の拡大を促し、次に消費財を生産している企業の投資意欲を促し、生産財に対する需要を促進します。

    というのは、賃金という価格の変化による影響の分析が抜けているのではないでしょうか?賃金という価格の変化が起きれば、労働力の売買量も変わってくるはずで、勤労者の所得増加が起きるのは特定の条件の下に限られるはずです。労働需要の価格弾力性と、消費支出の所得弾力性の2つが重要となると思いますが、この辺りの分析はどのように行うのでしょうか。それとも、賃金という価格の変化による影響の分析はせず、一括税・一括補助金による企業から労働者への所得移転のようなものとみなして話を進めていくのでしょうか。

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