2014年2月25日火曜日

失業とは何か? 需要不足・構造・摩擦? 1

 われわれは、しばしば「失業率」とか、「完全失業率」という言葉に出会います。それは働く人に対する失業している人の割合を表す言葉であり、何の疑問もない言葉のような気がします。しかし、本当にそうでしょうか?

 まず働く人とは何でしょうか?
 働く人について考える場合、15歳以下で修学中の子供を除いてもよいでしょう。もちろん中にはテレビドラマの子役のように15歳以下でも働いている子はいますが、それは例外として考えないことにします。
 15歳を超えても20歳台までは、多くの高校生・専門学校生・大学生がおり、彼らは働く人にカウントる場合(バイトなど)もあれば、働く人としてカウントされない場合もあります。
 逆に65歳を超えた人の場合も、退職したのち働く気のない人も入れば、働きたいと思う人もいるでしょう。
 さらに15歳〜65歳の人の場合、労働に対して様々な関係にある人を区別できあす。
 第一に、その中には疾病・怪我・障害などのために労働したくても働けない人もいるでしょう。もちろん、障害をおっていても労働する人もいます。また疾病・怪我から回復した後に仕事に就きたいと考える人も出来てきます。
 第二に、特に女性の場合に多いのですが、結婚・出産・育児をきっかけに(家事以外の)職業から退く人が少なくありません。
 このように、15歳〜65歳の人々の中には、修学、疾病・怪我・障害、出産・育児(家事)など様々な理由によって、少なくもと統計上、働く人のカテゴリーに含められない人々がいます。
 このあたりは統計上それほど問題ではないでしょう。
 しかし、例えば次のような場合はどうでしょうか?
 例1)高校・専門学校・大学を卒業し、就職活動もしたけれど企業・国・地方公共団体に採用されなかった。
 例2)企業に雇われていたが、不況により解雇されてしまった。
 この2つの場合は、さらにそれぞれ次の2つに分かれます。
 ①(再)就職するためにハローワークなどを使って就職活動をしている。
 ②(再)就職したいが、なかなかうまくゆかず、就職活動をあきらめた。

 このように失業率を算定するためには、分母となる働く人を確定しなければなりませんが、その中にはどのような人が含まれているでしょうか?
 現在の多くの国統計では、実際に働いているか、または失業者のいずれかに限られます。しかも失業者とは、職を持っていない(働いていない)が就職活動をしている人しか含みません。つまり、働く能力があっても何らかの形で就職活動をしていない人は失業者にはカウントされないことになります。
 しかし、実際にはこのように就職活動を断念してしまった人(the discouraged)は実はかなり多いのではないでしょうか。もしそうだとすると、実質的な失業率は公表値よりかなり高いことになります。米国の次の漫画は、それを皮肉ったものです。しかも、欧米ではなく、特に日本では、これらの人々がかなり多いと推測される根拠があります。(後述します。)

労働者「求職を断念。」オバマ「(失業率を下げる)支援をありがとう。」

 失業統計の問題は、実は、それだけではありません。
 就業している人の中にも、実質的には失業している人がなりの割合います。日本の統計では、一週間のうち1時間でも就業した人は失業者の中に含められません。しかし、こうした短時間労働者は、総所得も低く実質的に失業者であることは疑いありません。
 主流派の労働経済学では、例の図(労働需要曲線と労働供給曲線)で2曲線が交わったところで賃金と労働時間(雇う側も雇われる側も満足する賃金と労働時間!)が決まるという説明がなされますが、それは絵空事。学生バイトならともかく、例えば短時間・低賃金の非正規雇用で満足している人などそういないでしょう。
 
 また同じ失業者でも、比較的短期間(失業保険の効く半年以内または1年以内)で再就職できる人もいれば(その時労働条件が以前と同じ程度であるという保障はありませんが)、1年以上たっても就職できない長期失業者もいます。

 したがってわれわれが労働市場の本当の姿を確認するためには、単に失業統計を見るだけではまったく不十分です。一言で言えば、隠れた失業が存在するからです。
 アメリカ合衆国の労働統計局は、この点では良心的であり、それらを明らかにしようとしています。

 実は、失業をめぐる話はこれにつきません。われわれは、しばしば失業の要因として次の3つがあるという説明を受けることがあります。
 例えば厚生労働省のサイトでは、失業には次の3種類があるとしています。
  1 有効需要の不足によるもの
  2 摩擦的失業
  3 構造的失業
     http://www.stat.go.jp/data/roudou/pdf/point11.pdf

 このうち、1は説明するまでもなく、有効需要の不足による生産量の不足によるものです。われわれの社会では、労働需要は生産量に比例し、労働生産性に反比例しますから、これは十分なっとくにゆく説明です。
 2。これは労働需要側と労働供給側のミスマッチによるものであると説明されます。例えばある企業(産業・地域)がある技能Kを持った人を求めるているのに、職を求める人は別の技能Lしかもっていない。あるいはある企業はH県にあるのに、職を求めている人はJ県で働きたいと思っている、等々。これは概念的には理解できますが、実際に統計的検証が出来るかどうか、かなり難しいでしょう。
 3。失業率は景気変動に応じて上下すること、景気回復時に低下することはよく知られています。しかし、景気回復によっても失業率が必ずしも完全雇用水準にまで低下するわけではなく、一定の水準にあることがありえます。そこで、労働経済学者の中のある人々は、景気回復時の失業率水準(長期的・慢性的な失業率)を構造的失業と呼びました。
 厚生労働者は、21世紀初頭の失業率5%のうち、実に3.9%(80%弱)がこの構造的失業であると言っています。
 しかし、構造とは一体何を意味するのでしょうか?
 この「構造」の意味を明かにしない限り、この説明は経済学を不可思議な形而上学的な領域にとどめおくことになります。もっとはっきりと言うと、「構造」という言葉を使って人々を騙すに過ぎません。
 はっきりといいます。「構造的失業」とされているものも有効需要の不足(あるいは労働生産性の過剰)から生まれたものに過ぎません。

 ここでは、2つの問題を提起しました。
 1 失業率の公表値と実質的な失業率の差
 2 構造的失業とは何か? 

 次に日米の統計からもう少し詳しく見ておきたいと思います。

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