安倍政権の下で円安・ドル高が進行しました。
その理由は何であり、その結果はどんなものでしょうか? 政権の成立から2年以上が経ち、歴史的検証が可能となるデータもかなり蓄積されてきています。
まず要因・歴史的事情から。
下の図は、実効為替相場と純輸出・GDP比率(%)を示します。
普通、為替相場というと、1米ドル=100円(邦貨建て)のような式を頭に思い浮かべる人が多いかもしれませんが、外国といっても米国だけではなく、EU諸国も、韓国も中国などもありますので、円と外国の通貨全部との為替相場を示すときには実効為替相場というものを使います。外国の通貨を全部バスケットに入れて計算した一種の平均値です。これには名目値と実質値があります。名目というのは、為替市場の相場をそのまま平均したものです。しかし、国が異なると物価水準の変動率も異なります。例えばJ国の物価がまったく上昇せず、A国の物価が3パーセント上がったとしましょう。このとき、もし為替相場が一定ならば、実質的にはA国の通貨が3パーセント上昇したのと同じ効果が(国際貿易に)生じると考えることができます。何故ならA国の商品価格が3パーセント上昇したため、J国は以前より3パーセント高い値段で購入しなければならなくなります。これはA国の通貨が3パーセント切り上げられたのと同じ効果をもたらします。要するに実質実効為替相場というのは、内外の物価水準上昇率の差を考慮した実効為替相場です。
さて、名目為替相場(Nominal EER)は、この20年間、ほぼ80(円安)から100(円高)の間を変動してきました。この間に1995年と2000年、2012年にピークに達し、1997年、2002年、2007年に(そして2015年を無視すると)2014年にボトムに達しています。これに対して実質実効為替相場(Real EER)は、趨勢的にはずっと低下傾向にありますが、上下の変動は名目実効為替相場と連動しています。
一方、純輸出(輸出ー輸入)のGDPに対する割合(%、右目盛)は、黒い実線で示しておきました。こちらは、1996年に谷、1998年に山、2001年に谷、2004年と2007年に山、2008年谷、2010年山と変動しておきており、2011年からは過去30年にない(マイナスへの)落ち込みを示しています。
この両者(為替相場と純輸出比率)には相関はあるでしょうか? また、あるとしたら、どのような相関でしょうか?
あると言えばあると言えるでしょう。例えば純輸出・GDP比率が1パーセント以下に低下すると、その後に(同年と翌年に)実効為替相場が低下する(円安になる)傾向が読み取れます。この傾向は2008年から2009年には観察されませんが、この時はリーマンショックによるアメリカ経済の混乱と輸入大幅削減が生じているときですから、当然でしょう。2011年にも純輸出・GDP比率は低下していますが、2011年は東北をおそった大震災・原発事故の年です。しかし、2013年、2014年にも純輸出・GDP比率の大幅低下は続いています。これで実質為替相場が低下しなければ、どうかしていると言わなければなりません。
出典)BIS(国際決済銀行)の実効為替相場の統計、財務省の国民経済計算統計より筆者が作成。
注)為替相場(左目盛)は、2010年=100とした指数であり、数値の高い方が円高を示す。純輸出・GDP比(右目盛)の単位はパーセント。
とはいえ、このように為替相場の変動を貿易だけで説明することは正しくなく、実は、もっと別の要因を見ることが必要になると考えられます。というのは、BISの統計がはっきりと示すように、また為替市場の専門家が明らかにしてきたように、現在では為替市場を支配しているのは、実需取引ではなく、国際資本移動だからです。BISの統計では、ラフにいって実需取引の30倍にあたるマネーが外国為替市場で取引されています。
そして日本の政府(財務省の担当部署)もこの為替取引に介入していることが知られています。ミスター円こと榊原英資氏や、黒田現日銀総裁もかつて財務省時代には「円売り・ドル買い」を行ったことがあるようです。
次は、この資本移動と政府介入についていくつかの点を取り上げてみます。
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