為替相場を説明する理論は、いろいろ考案されてきましたが、実証的なテストに耐えることのできたものはほんとんどありません。このことは、米国の専門家、John T. Harveyの著書(下記)でも説明されているところです。比較的説得力のあるのは、<長期的なトレンドとしては>という限定がつきますが、購買力平価(PPP)説*です。しかし、あくまでトレンドであり、購買力平価とぴったり一致するわけではありません。
*2つの国を例にとると、A国とJ国の平均物価が等しくなるように為替相場が決まるという説。この説は、貿易収支が均衡するという傾向を持つことをを主張します。例えば両国でハンバーガーしか生産されていないとかりに仮定し、1個が日本で360円であり、米国で3ドルならば、1ドル=120円となるはずです。
もう一つかなり確実に言えるのは、自国通貨(例えば円)売り、外国通貨(例えばドル)買いが行なわれば、自国通貨の減価(切り下げ)が生じ、外国通貨の増加(切り下げ)が生じるというものです。また、ここから外貨高の期待(予想)が生まれると、輸入業者などは、外貨高になる前に外貨を買おうとして、結果的に外貨高を促進するというようなことが生じ得ます。(下図参照)
さて、現在、世界ではどのような要因により為替取引を行なうのでしょうか?
実は、これについては、BIS(国際決済銀行)が3年に一度(1ヶ月間)だけ世界の為替取引高を集計するという作業をしています。1980年代から行いはじめたものです。
この統計調査によると、外国為替取引の総額は、1980年代から現在までずっと激増してきました。ただ1998年〜2000年の間だけは、米国における例のITCバブル崩壊の影響におり減少しています。
この統計はまた、外国為替取引のうち、実需取引(つまり貿易などです)のために必要な部分はごく一部であり、実に実需取引の30倍ほどが非実需取引となっていることを示しています。
非実需取引とは何でしょうか? 言うまでもなく、投機のための外貨需要を満たすための取引です。もっと端的に言えば、マネーゲームです。
このことからも分かるように、現在では過去(戦後の20〜30年間)、特にブレトンウッズ体制の時期と異なって、為替相場を決めるのは、投機のためのマネーの移動です。
さて、前置きが長くなりましたが、安倍政権下で円安(ドル高)が進行してきたわけでうが、以上のことからは、巨額の<円売り・ドル買い>が行なわれたに違いないという推測が可能です。もしそうだとしたら、それは政府や日銀の関知しないところで<自然に>生じたものか、それとも公的機関が介入したのか、という疑問も生まれてきます。
実際のところはどうなのでしょうか? (この項続く)
参考文献: John T. Harvey, Currency, Capital Flows and Crises, Routledge, 2010.
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