2015年7月14日火曜日

ギリシャ前財務相ヤニス・ヴァルファキス、ドイツの意図を語る



明日[713日、月曜日]のEUサミットは、ユーロ圏におけるギリシャの運命を定めるだろう。この文章を書いているときも、私の友人にして同志、ギリシャ財務大臣の後継者のユークリッド・ツァカロトスはギリシャと債権者の間の最後の溝をうめる合意が達成されるか、またこの合意がギリシャ経済をユーロの内部に存在できるようにするかを決定することになるユーログループ会合に向かっている。ユークリッドは、中庸な、よく考え抜かれた債務再構成案を持ってゆく。それはギリシャと債権者の双方の利益に疑いなく適っている。(その詳細は、いったん落ち着いたら、月曜日にここで公開するつもりだ。)

ドイツの蔵相が事前に示したように、この控えめな債務再構成の提案がもし却下されるならば、日曜のEUサミットはギリシャをユーロ圏からいま放り出すか、それとも将来のいつか離脱するまで、深まる窮乏状態の中でもう少し内部にとどめておくかを決めることになるだろう。ここで疑問は、ドイツ財務相のヴォルフガング・ショイブレ博士がなぜ分別のある、穏健な、相互に利益をもたらす債務再構築に抵抗するのか、という点にある。(私の)署名入りの論評が今日のガーディアン紙にちょうど公表されたが、私の答えはそこに書いてある。[ガーディアンのタイトルは私の選んだものではないことに注意。私のタイトルは、「ドイツがギリシャ債務救済を拒否する背景」となっている。]ここをクリックして論評を開くか、それとも・・・
 ギリシャの金融劇は、<債権者が根本的な債務軽減を提供することをかたくなに拒否する>という一つの理由のために5年間もニュースの見出しを占めてきた。なぜ常識に反して、IMFの判断に反して、またストレスを与えられている債務者に直面している銀行家の日々の実践に反して、彼らは債務再編成に抵抗するのか? 答えは、ヨーロッパの迷路のように複雑な政治に深く根ざしているため、経済学の領域には見いだされない。
 2010年にギリシャは支払い不能となった。ユーロ圏の構成員を続けることと整合する2つの選択肢が提案された。まともな銀行家ならば誰でも勧める、分別のある選択肢は債務を再編成し、経済を改革するものであり、有害な選択肢は破産した存在にまだ支払い能力があるように見せかけて、それに新しい貸付を拡大するものだった。
 公的なユーロッパは第二の選択肢を選び、ギリシャの社会経済的生存能力よりもギリシャの公的債務で破綻したフランスとドイツの銀行の救済を優先した。もし債務再構築を実施していたら、彼らのギリシャ債務保有にかかる銀行家の損失を意味しただろう。納税者が維持不可能な新しい貸付によって銀行のためにもう一度支払いをしなければならないことを議会に説明するのを避けたくて、EUの高官たちは、ギリシャ国家の支払い不能を流動性不足の問題として説明し、「救済」をギリシャ国民との連帯のケースとして正当化した。
 取り返しのつかない民間の損失を「愛のむち」として納税者の肩にシニカルに転嫁する枠組みをつくるために、記録的な緊縮がギリシャにおしつけられ、その結果、ギリシャの国民所得は4分の1以上も減少した。この国民所得から新・旧の債務が返済されなければならないのにである。この過程がよい結果で終わらないことを知るには、頭のよい8歳の子の計算練習で十分である。
 このあさましい操作が終わるころには、ヨーロッパは自動的に債務再構築を論じることを拒否する別の理由を自動的に準備していた。それはいまやヨーロッパ市民のポケット(財布)をおそうだろう、というわけである。そして、それほどまでに拡大する緊縮策の服用が実施される一方、債務はますます大きくなり、もっと厳しい緊縮と引き換えにもっと多くの貸付を拡大するように債権者に強要した。
 この無限ループを終わらせるために、つまり債務再編成を求め、壊滅的な緊縮に終わりを求めるために、私たちのギリシャ政府は有権者の権限によって選ばれた。交渉は一つの理由のために、頻繁に公表された行き詰まりに達した。つまり、債権者がどんな実質的な債務再構成をも排しつづけ、一方、われわれの支払い不能な負債がギリシャ人の最も弱い人々、彼らの子供たちと孫たちによって「パラメーター的に」支払われると主張したためである。
 財務大臣としての最初の週、私はユーログループ(ユーロ圏の財務相たち)の総裁、Jeroen Dijsselbloemの訪問を受けた。彼は私に硬直的な選択肢を提示した。つまり、救済の「論理」を受け入れ、債務再構成のどんな要求もおとすようにせよ、さもなければあなたがたの貸付合意は「崩壊する」というものであり、その言外の意味は、ギリシャの銀行が閉鎖されるだろうということだった。
 5ヶ月に及ぶ交渉は、欧州中央銀行によって監督・実施された貨幣の窒息と、それによって誘発された銀行取り付けの条件の下で続いた。壁に書いたものがあった。それに従わなければ、私たちはすぐに資本管理、機能しているかに見せかける現金マシーン、銀行の休日の延長、そして最終的にはギリシャの離脱に直面しただろう。
 ギリシャ離脱の脅しは、短い歴史上のジェットコースターのようなものだ。2010年に金融業者の銀行がギリシャの債務でいっぱいになったとき、彼らのハートと心に神の恐れがもたらされた。ドイツ財務相のヴォルフガング・ショイブレがギリシャの離脱の費用はフランスやその他に規律をもたせる方法として「投資」の価値があると決定した2012年にさえ、生きている昼光を脅して他のほとんど誰からも切断するという展望が続いた。
 シリーザが昨年の一月に政権に就いたときまでに、そして「救済」がギリシャを救済することとは何も関係がない(また北欧を囲い込むこととすべて関係する)という私たちの主張を確認するためであるかのように、ユーログループ内の大多数は —— ショイブレの監督下で —— ギリシャの離脱を彼らの選好する結果か、それともギリシャの政府に対立する選択の武器として採用していた。
 ギリシャは、正当にも、通貨同盟からの切断の思想に震えた。単一通貨から離脱することは1992年に英国が行なったように、ペグを切り離すようなことではない。有名な話しだが、このときノーマン・ラモントはスターリングが欧州為替相場メカニズム(ERM)を去る朝のこと、シャワーで歌を歌った。悲しいことに、ギリシャはユーロとのペグを断ち切ることのできる通貨を持っていない。通貨はユーロであり、わが国民の持続不能な負債を再構成することに敵意を持っている債権者によって完全に管理されている外国通貨である。
 離脱するには、私たちは新しい通貨をゼロから創り出さなければならない。占領されたイラクでは、新しい貨幣の導入にほとんど一年、20機ほどのボーイング747型機、米国の軍事力の動員、3つの印刷会社、数百台のトラッックを要した。そのような支援がないまま、ギリシャの離脱は、18ヶ月以上も前に大きな通貨切り下げを声明するのと同じことになる。それはすべてのギリシャの(資金)ストックを消滅させ、可能などんな手段を使ってでもそれを海外に移転するというレシピである。
 ギリシャの離脱はECBの誘導した銀行取り付けを強要することになり、債務再構築を交渉のテーブルに戻すための私たちの試みは聞いてもらえなくなった。再三再四、私たちは、これは「プログラムの成功に終わる完遂」——これは「プログラム」は債務再構築なしには決して成功しないから素敵な「キャッチ22」(ジレンマ) だ —— に従う不確定な将来のための事柄だと言われた。
 今週末、私の後任者、ユークリッド・ツァカロトスがふたたび馬車の前に馬を置こうと努力し、債務再構築がギリシャを改革するための成功の前提条件であり、成功に対する事後的な報酬ではないことを敵対するユーログループに確信させようとするとき、会談は頂点に達する。なぜこれがそんなにも実現困難なのか。私には3つの理由が見える。
 ヨーロッパは、金融危機に対していかに対応するかがわからない。それは排除(ギリシャの離脱)か、それとも連邦のために準備するべきなのか?
 一つは、制度的な慣性を克服することが困難なことである。第二は、持続不可能な負債が債務者に対する巨大な権力を債権者に与えていることである。そして、よく知っているように、権力は最もふさわしいものをも腐敗させる。しかし、私にとってより執拗で、また実際、より興味深く思えるのは第三である。
 ユーロは、1980年代のERMのような固定相場制か1930年代の金本位制と、国家通貨とのハイブリッドである。前者は共にいだく排除の恐れに依拠しており、国家通貨は構成国間の余剰(例えば連邦予算、共通の国債)を再利用するためのメカニズムを内包している。ユーロ圏は、これらの腰掛けの中間物である。それは為替相場体制以上であり、国家以下である。
 そして障害がある。2008/9年の危機ののち、ヨーロッパはどのように対応するか分からなかった。それは規律を強化するために、少なくとも一つの排除(つまり、ギリシャの離脱)のための基盤を準備するべきなのか? それとも連邦制への動きか? いままでのところ、そのどちらも行っておらず、その実存主義的な怒りはますます拡大している。ショイブレは、物事が先にすすむように、空気を綺麗にするためにはどんな方法でもギリシャの離脱が必要だと確信している。ギリシャの公債がなくなれば、ギリシャの離脱のリスクは消滅することになるが、ずっとは維持できないギリシャ国債はショイブレにとって新たな有用性を獲得した。
 これは何を意味するのか? 何ヶ月もの交渉にもとづいて私は確信している。つまり、ドイツ財務相は、神の恐れをフランス国民におしつけるためにギリシャが単一通貨から排除されることを欲しており、彼の規律あるユーロ圏というモデルを彼らに承認してもらいたいと思っている、と。

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