2015年7月31日金曜日

ジェームス・ガルブレイス『プレデター国家』(2008年) 1

 ジョン・ケネス・ガルブレイスは、『新しい産業国家』(1967年)、『不確実性の時代』(1977年)をはじめとする多数の著書を著したアメリカ合衆国の伝説的な経済学者だ。J・F・K(ケネディ大統領)の時代には、経済顧問を勤めたこともあり、アメリカ経済学会会長をつとめたこともある。
 ジェームス・ガルブレイスは、ジョンの息子であり、現在、テキサス大学の教授をつとめている。『現代マクロ経済学』の共著者の一人であり、現在の米国のすぐれた経済学者の一人であることは、(日本ではともかく)米国ではよく知られている。最近では、ギリシャ政府債務危機の問題に取り組み、前ギリシャ財務相ヤニス・ヴァルファキス氏(同じくテキサス大学教授だった)とともに「トロイカ」(欧州委員会、ECB、IMF)やユーログループを相手に交渉に参加した。

 さて、話しは2006年にまでさかのぼる。その年の4月26日(水)、ジェームス・ガルブレイスは入院している父親をたずねた。これが100歳近い父親との最後の面会となったようである。父親は息子ジェームスに対して、現在何を研究しているのかと尋ね、「コーポレートの補食(corporate predation)について短い本を書くべきだ。そうすればお前は同世代の指導的な経済学上の声となるだろう。・・・もし私にそれができるなら、お前の陰は薄くなるだろうが。」

 おそらく父子は以前からずっとこの「コーポレートの補食」について語りあっていたのであろう。しかし、このエピソードは、ジョン・ガルブレイスが『新しい産業国家』で描いた経済のありかたがその後現在までに大きく変容し、まったく別のものになっていることを当人が認めていたことを示している。
 ともかく、その後、ジェームス・ガルブレイスは父親の遺言にそって『プレデター国家』(2008年)を世に問うた。それは1970年代から現在までに経済社会に何が生じたか、その歴史を深く分析した点で、またそのための経済理論的・経済学説史的思考を深化させた点で、優れた書物であると思う。

 『新しい産業国家』(1967年)から『プレデター国家』(2008年)までの40年間に何があり、現代の資本主義経済はどのように変貌したのか、「真実の経済学」(Robert B.Reich)を探求する者にとって最も示唆的な書がジェームス・ガルブレイスの本書である。

 残念ながら、本書は和訳されておらず、日本ではあまり知られていないようだ。私自身も本書の存在に気づいたのが一昨年であり、少し遅かった。遅ればせながらだが、時間を見て少しずつ紹介してゆきたい。

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