私のまったくの専門外ですが、近年ずっと注目している学問分野があります。それは、DND分析による人類研究の分野です。
私の専門分野は現代経済史であり、ヨーロッパ、特にロシアを含む東部の諸地域を研究ということになっていますが、研究上の関係から、家族史・人口史に足を突っ込み、その関係で中世史や古代史に関係する著書や論文を時々読むことがあります。その中に宝来聰さん(故人)の『DND人類進化学』(岩波書店、1997年)がありました。その後、同じ領域の本(下記)が次々と出版されており、大いに知的興味をそそられました。
『朝日科学』編『モンゴロイドの道』(朝日選書、1995年)
中堀豊『Y染色体からみた日本人』(岩波科学ライブラリー、2005年)
斎藤成也『DNDから見た日本人』(ちくま新書、2005年)
篠田謙一『日本人になった祖先たち』(NHKブックス、2007年)
篠田謙一『私たちは何者か』(岩波書店、2015年)
斎藤成也『日本列島人の歴史』(岩波ジュニア新書、2015年)
*そのほかに、NHKのテレビ番組による紹介がある。
*また「斎藤成也の研究室」のサイトに英語論文が掲載されている。
これらが「日本人」の成立と起源に関して明らかにしてきたことは、きわめて粗雑に要約すると、次のようになるでしょうか。
1)いわゆる縄文人のDNDのタイプ(ハプログループ)は、母系的に遺伝するmt-DND(ミトコンドリアDND)から見ても、父系的に遺伝するY染色体のDNDのタイプ(ハプログループ)から見ても、現在の周辺の諸民族(中国の漢族、東南アジアや朝鮮半島の人々など)とはかなり異なっている。ただし、親類関係の人々がまったくいないわけではなく、チベット人の中に最も近いタイプのDNDを持つ人が相当するいる。おそらく(私の理解が正しければ)4万年ほど前に分岐したものと思われる。また縄文人とアイヌは、近い親類関係にある。
2)しかし、現代の日本人の中には、縄文系のDNDだけでなく、東アジアによく見られるタイプのDNDもみいだされる。このことは、何を意味するかというと、(おそらく)縄文時代末期または弥生時代に大陸(東アジア)から朝鮮半島から、または朝鮮半島を通って多くの人が渡来して、混血してきたことを意味する。
現代の日本人に様々なDNDが見られるのは、縄文系の遺伝子と弥生系の遺伝子が混じりあった結果である。これは埴原和郎氏の「二重構造説」が実証されたことを意味する。
3)さらに斎藤成也さんなどのグループによる核DNDの分析では、縄文人と弥生系渡来人の割合は、1対4ほどになる様子。弥生時代に多数の渡来人が日本列島にやってきて、それまでの先住民であった縄文系の人々と混血を繰り返したとされる。
言うまでもなく、縄文人と弥生人の混交は、北九州に始まり、かなり早い時期に現在の青森県にまで到達したと考えられる。
さて、こうした見解に対して、面白く思わない人もいるようであり(特にヘイトスピーチを行うような人々)、そのような人は、ネットなどで必至になって否定しようとしているようでもあります。特に1)については、これを特異に解釈し、「固有の日本人」が中国や朝鮮とは無関係であると主張する根拠にしたり、また2)については無視するという態度を取っているものもあります。
しかし、私たちが父母から受け取るDNDは、母系遺伝のmtーDNDも縄文系か弥生系のいずれかでしょうし、また父系的に受け取るY染色体DNDも縄文系か弥生系かのいずれかですが、私たちの祖先はものすごい数(何百万人、何千万人?)いたわけであり、したがって私たちも縄文系の遺伝子だけ受け取ったわけでなく、弥生系の遺伝子だけ受け取ったわけではありません。核DNDの中には、様々な遺伝子が混ざり合っています。縄文系の遺伝子だけ受け取るとか、弥生系の遺伝子だけ受け取るといったことは、確率論的にありえません。
しかも、そもそも私たちは、アジア人もヨーロッパ人も6~7万年前に出アフリカを果たしたごく少数の祖先たちの共通の子孫であることは、まったく明確になりました。
ところで、日本列島人の成立が上記の1)2)3)の通りであるとすると、もう一つ説明を要する事柄が出てくるように思います。それは言語です。
現在、日本語(うちなーぐち=沖縄語を含む)、朝鮮語、アイヌ語は、相互に類似の点がありますが、単語のレベルでの共通語がほとんどなく、そのため孤立語とされているようです。
そこで、これらの言語と「縄文語」とはどのような関係にあるのかが、学問的にはきわめて大きな関心をひく問題となるでしょう。
私の知る限りでは、現在の世界に存在する言語は、英語も、ロシア語も、ほぼすべて「クレオール語」(様々な民族と言語が混合してできあがった言語)です。例えばスラブ語は、本来、きわめて複雑な動詞変化形を持つ言語でしたが、現在のロシア語は、アジア系(フィン語系)の言語と混交する過程で、現在形と過去形しかないきわめて簡単な変化形した持たない言語になっています。
大野晋氏のタミル語起源説は、DND研究によってきわめて不利になりましたが、ひょっとすると、4万年ほど前に分岐したという風に変えれば、生き返るかもしれないとも思います。
時間があれば、趣味的に研究したいとも思いますが、難しいでしょうねー。
ともあれ、現在の日本人が世界共通のホモサピエンスの一員であることがわかり、私はホットしています。
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