2017年6月30日金曜日

安倍氏の経済政策の経済的帰結 4

 安倍氏の経済政策が広義の供給側の立場に立った新自由主義政策だということは、彼の「世界で一番企業が活躍しやすい国」という発言に端的に表されている。
 
 企業が活躍しやすいというのは、社会的負担が小さく、生産費が小さく、様々な規制から自由だという状態を意味するであろう。もっと具体的に言うと、これは、法人税率が低く、社会保障費負担率が小さく、人件費=賃金が抑制されており、また諸種の規制が撤廃されている状態を示す。
 実際、後で詳しく見るように、これらの諸策はことごとく実現されている。第一に、法人税が大幅に減税された。しかも、一方では、これは安倍政権による消費増税(5%→8%)による景気低迷から抜け出すための「景気刺激策」という宣伝つきで実施されている。他方では、これは輸入インフレによる物価上昇の中で、実質賃金が低下するという状況の中で、政府と企業者団体(経団連)が談合し、大企業が貨幣賃金率を引きあげる代わりに、政府からの見返りとして、実施されたものである。なお、もちろん輸入物価の上昇は、金融緩和による円安効果によるものであることは、否定しえない。
 ちなみに、この談合による貨幣賃金の引き上げは、NHKなど安倍政権の息のかかったメディア(NHKには安倍友の籾井が会長としていた)によって大々的に宣伝されるにいたったが、実際には、その貨幣賃金引上率も物価上昇率にはとどかず、したがって実質賃金は低下している。
 第二に、ここに見られるように、安倍政権でも、貨幣賃金、特に実質賃金の着実な上昇が生じたわけではない。ただ選挙目当てのジェスチャーが見られたにすぎない。
 第三に、規制撤廃である。もちろん、既存の規制の中には、場合によっては、現状に適合しなくなった古いものがあり、その場合には、変更が必要となるものもあるだろう。しかし、ほとんどの規制は、本来、何らかの理由で求められて成立したものである。その存在理由がなくなっていないものがほとんどである。
 それにもかかわらず、企業、特に大企業や金融業界がそれを求めるのは、権益・利権のためであることが多い。金融業界が金融規制の撤廃(金融自由化、ビッグバン)を求めたのは、それが彼らの純利得を獲得する領域を広げるからである。これについても、詳しくは後で説明しなければならないが、ここでは以上にとどめておこう。
 ここでは、規制撤廃が特定のグループの利権を理由としていることの好事例として、国家戦略特区、とりわけ森友学園問題、加計学園問題をあげておこう。
 これが現在一大問題となっているのは、それが安倍氏およびその側近の人々の利権と密接に結びついていることが明らかになってきたからである。安倍氏と籠池氏、安倍氏と加計学園の関係者に加えて、竹中平蔵氏というおなじみの名前が浮上している。
 2008年に出版された著書『プレデター国家』の中で、アメリカの著名な経済学者、ジェームス・ガルブレイス氏は、プレデター(predator、捕食者)が人々から大規模な金銭的捕食をしていることを明らかにしている。したがって、ガルブレイス氏は、すでに1980年代の「新自由主義」政策の理念はとうに死滅していて、現在は、保守派たちも国家に寄生しているという事実を明らかにしているわけであるが、ただしその際、現在の保守派は、決してお題目として新自由主義を放棄しているわけではないことも明らかにしている。
 要するに二枚舌である。現在の保守政府は、一方で新自由主義政策(というより、大企業の露骨な利権を擁護する政策)を標榜しつつ、他方ではそれらが「プレデター」として活動しやすくする方策を採用し、政治家自身(安倍氏、その周辺)も露骨に政治を私物化している。
 要するに、1980年代の相対的には理念的な「自由主義」政策の部分も合わせ持っていた新自由主義とはかなり異なり、現在の新自由主義は、市場原理主義の理念が失敗・死滅したのちの新自由主義であり、事実上、市場において巨大な力を持つ組織(金融業者、大企業、CEOなど)にとっての有利な政策を実現するための一連の方策に他ならない。
 現在の富と所得の格差は、こうした事態の結果であり、反映である。このことをよく理解できない人(経済学者)の中には、安倍氏の経済政策を「ケインズ政策」の一種として捉えようとする人も出てくる始末である。たしかに、安倍氏の「異次元の金融緩和」が金融緩和(→貨幣ストックの増加)を通じてインフレを惹起し、景気を刺激するという本末転倒(因果関係の逆転)を目的としたものではなく、国債に日銀購入による巨大財政赤字政策という「ケインズ政策」と結びつけようとする見方がないわけではない。しかし、これも詳しい検討は後に譲らざるをえないが、無際限・無限定の財政赤字、政府債務の増加は、本来ケインズ政策とは無縁である。ケインズの政策提言は財政政策と無関係ではないが、本来は国民経済全体、特に企業、金融および労働者家計の均衡のとれた発展のための提案である。

 さて、欧米(特に英仏米など)では、特に若者を中心にこのカラクリを理解する人々が増えてきている。これらの地域で、例えば暴動(英国)、ウォール街を占拠せよ運動(米国)、大統領候補者選挙における社会主義運動の支持(米国のバーニーサンダース旋風)、イギリス労働党(左派)の躍進(若者の支持)、フランスの大統領選挙(第一回)などは、それを端的に示している。

 さて、以上に述べたことは、事態全体を捉えるための概略図であり、詳細についてはさらに紹介しなければならない。


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