いま東芝の破綻が大きい問題になっていることを知らない人はいないと思います。
でも、なぜ破綻したのでしょうか? またそれは日本や世界の経済にとってどのような意味があるのでしょうか? 「アベノミクス」にも大いに関係することなので、少し紹介してみたいと思います。
東芝は、かつて大変立派な会社、メーカーでした。つい最近まで、ある部分を除けば、とても立派な会社でした。東芝は、大手電機メーカーとして、その白物家電や医療機器の生産において名をはせていました。
ところが、ただ単に原発事業のため、しかも外国の原発関連会社を買収しただけで、破綻したのです。
ここで重要なプレーヤーは、東芝の他にはウェスチングハウス(WH)という原発会社、およびストーン&ウェブスター(S&W)という原発関連の建設会社です。
詳しい説明は後に譲るとして、簡単に経緯を述べると、次の通りです。
2006年に、東芝は、54億ドル(6470億円)でWHを落札しました。しかし、この会社は実際は2000億円ほどの価値しかありませんでした。それを売ったのは英国核燃料会社というイギリスの公社でしたが、4000億円以上も儲けたことになります。しかも、英国核燃料会社ももとは米国の不良な商業原子力企業だったWHを購入していたのですが、どうにも優良企業として再生できずに手放したいと思っていた物件でした。だから、日本の企業に3倍もの高値で売り、手放すことができ、大喜びしたはずです。
東芝がWHを買ったのは、日本の経産省を通じてでした。日本の原発企業、東芝の他に、日立、三菱重工が手を上げましたが、結局、東芝が購入することになりました。それまでS&Wともっとも関係が深かったのは三菱重工でしたが、なぜか東芝が買うことになったわけです。この経緯も謎の一つです。
ところが、東芝にとっては、事はWHの問題だけでは済みませんでした。その娘(子会社)のストーン&ウェブスター(S&W)です。少し込み入った話になります。
実は、東芝が2006年にWHを買って子会社(娘)にしたとき、その持ち株比率は、東芝77%、ショー20%、IHI3%でした。ショーというのは米国の原発関係の会社で、この会社は、東芝の要請で20%の株式を保有することになりましたが、東芝に対して株式買取請求権を持っていました。つまり、当面は株式を保有するけれど、将来、何かあって株式を手放したくなったら、東芝が買うということを保証していたわけです。ところが2011年に福島原発事故が起き、ショーは東芝に対して株式買取請求権を行使します。つまり、ショーは原発事業からうまく抜け出ることに成功したわけです。この原発事業から抜けたショーをCB&Iという会社(ゼネコン)がまるごと支配します。
さて、このCB&Iですが、原発建設会社のS&Wを子会社として持っていました。しかし、このCB&Iは、すでに儲からなくなり費用ばかり増えていた原発事業から撤退するために、S&Wを売却しようとします。2015年当時、東芝は不正会計が発覚し、もめている最中でした。買ったのは、形式的には東芝の子会社(娘)となっていたWHです。WHは、S&Wをただで購入することになっていましたが、実際には「のれん代」などの名目で260億円の支払いを行わなければならなかったようです。
いずれにせよ、CB&Iはこれによって完全に原子力事業から撤退することに成功したわけです。このようにCB&Iが原子力事業から撤退したいと思っていた理由は、すぐ後で述べますが、一言でいえば、費用がかさみ、巨額の損失がうまれてたからです。
S&Wが巨額の損失をかかえていることは、購入からわずか一年もたたないうちに判明しました。損失額は最初数千億円とも言われましたが、現在の時点では7000億円とも1兆円ともいわれています。
たしかに形式上は、巨額の損失をかかえたのは、S&Wであり、それを子会社としているWHでした。おそらく東芝本社の経営陣は、娘WHの経営者のすることに口出しすることができず、ただWHの行動をはたから眺めていただけだったでしょう。本社より子会社WHの方がつよかったのです。しかし、この子会社のもたらした損失に対して、本社は責任を負わなければなりません。そして、さすがにこれだけの巨額の損失をかかえこむと、本業でどんなに儲けても、その利益は焼け石に水です。東芝は、あっという間に債務超過の状態に陥りました。
これをもう一度例え話しで説明すれば、爆発風船ゲームに破れたようなものです。
このゲームでは、ポンプで風船に空気が吹き込まれ、風船はしだいに大きくなります。それはいつか必ず破裂します。そこでゲームの参加者は、自分のところで爆発しないように、受け取ったらすぐに他の人に手渡そうとします。この爆発風船を日本の企業経営者がゲームに参加しているという意識もないままに受け取り、しばらく手元に置いておいたところ、突然爆発したといったところです。
一体どうしてこんな馬鹿なことをしたのでしょうか?
でも、その前に米国や英国はさすがに「ビジネスライク」に取引を行う国民だということを認識しておいた方がよいかもしれません。ビジネスライクにというのは、ヴェブレンの定義によれば、「ただで誰かの犠牲で純利得を得る」という意味です。もうからなくなったビジネスからは出来るだけ損をしないように、出来れば儲けながら撤退する。これがビジネスの原理と言えるでしょう。その意味では、日本の会社経営者はビジネスマンとして失格といわなければなりません。
さて、どうしてこんな馬鹿なことをしたのかという問いについては、もっと後で考えることとして、その前にそれが日本の職や雇用を破壊する行為だということを確認しておかなければなりません。
もし東芝がWHの買収やWHによるS&Wの買収によって原子力事業を拡大さえしていなければ、いまでも本業を維持することができたでしょう。ところが、英米が手放したがっていた原子力事業(とその損失)を巨額の資金を支出し、みずからの手元に引き寄せることによって破綻したわけです。この原子力事業による本業の破壊という愚かな行為が雇用に及ぼす影響がきわめて大きいことは、もう説明するまでもないでしょう。
これは反国民的な行為ともいうべきものです。
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