例えれば、ババ抜きゲームで、皆がババを手放したがっているときに、なぜか日本がババを引いて喜んでいるようなものです。
どうして喜ぶのか? それは安全神話、希望的観測、現実についての無知、重商主義(原発輸出が成長につながると喜ぶ傾向)など、様々な要因によって説明することができるでしょう。
1、日本は世界のカモにされている
世界は原発から逃げ出していますが、その理由の一つは、言うまでもなく、危険性です。スリーマイル島の原発事故(米国、ペンシルベニア州、1979年)、チェルノブイリ(ベラルーシ、1987年)、福島(2011年3月11日)のひどい事故があり、ひどい被害をもたらしました。それはらはまた、いずれも危険性を明らかにしましたが、それだけでなく、また事故の処理や廃炉のために巨額の費用を要することを明らかになりました。またより安全性を高めようとすると、巨額の費用がかかることも明らかになりました。その費用をいったい誰が払うのでしょうか?
こうして危険性が明らかになり、さらに地震や津波などの自然災害の他に、テロ(ミサイル、飛行機の追突などを含む)のリスクを考えて、いっそうの安全性を保証することが求められています。そうした中で、世界の各地で反原発運動が起こり、企業や政府はそれにも対応を余儀なくされています。しかし、こうしたことは、既存原発の廃止、既存原発の安全強化工事、建設中の原発工事の長期化、費用の激しい上昇をもたらしてきました。
このように原発の社会的費用が大きなものになると、そこから利益を上げることが難しくなり、莫大な損失さえ生まれます。
また損失の一つの要因として、原発企業が原発事故やトラブル、設計ミスなどを理由として訴えられ、他の関連企業から巨額の賠償金を要求されるというケースも多発しています。
東芝の陰にかくれてあまり報道されなかったかもしれませんが、三菱重工業も米国の原発会社SCEから7000億円ほどの賠償請求をされていました。
これについては、新聞記事(朝日デジタル)を引いておきます。
三菱重工業は(2017年3月)14日、米国の原子力発電所に納入した蒸気発生器が壊れて原子炉が廃炉になった問題で、この原発の運営会社に1億2500万ドル(約141億円)を支払うことになったと発表した。運営会社は66億6700万ドル(約7535億円)の賠償を求めていたが、仲裁機関の国際商業会議所が三菱重工の主張をほぼ全面的に認めた。
三菱重工は契約上の賠償の上限は1億3700万ドル(約155億円)と主張しており、同会議所はこの主張を受け入れた。原発の運営会社の南カリフォルニア・エジソン(SCE)社に対し、三菱重工が支払った仲裁費用5800万ドル(約66億円)を肩代わりして支払うことも命じた。
・・・
問題になったのは、カリフォルニア州のサンオノフレ原発。2012年に起きた三菱重工製の蒸気発生器の配管の水漏れがきっかけとなり、SCE社が廃炉を決めていた。
三菱重工は契約上の賠償の上限は1億3700万ドル(約155億円)と主張しており、同会議所はこの主張を受け入れた。原発の運営会社の南カリフォルニア・エジソン(SCE)社に対し、三菱重工が支払った仲裁費用5800万ドル(約66億円)を肩代わりして支払うことも命じた。
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問題になったのは、カリフォルニア州のサンオノフレ原発。2012年に起きた三菱重工製の蒸気発生器の配管の水漏れがきっかけとなり、SCE社が廃炉を決めていた。
外国では、フランスのアレバ(Areva)が世界最大の原発会社ですが、この会社もフィンランドで建設中の原発をめぐって訴えられました。
http://www.reuters.com/article/us-nuclear-olkiluoto-idUSKCN0Q817K20150803
HELSINKI (Reuters) - Finnish utility Teollisuuden Voima (TVO) on Monday said it has raised its claim against the Areva-Siemens consortium to 2.6 billion euros ($2.9 billion) from a previous 2.3 billion euros over delays in its Olkiluoto-3 nuclear reactor.
要するに、フィンランドの公益テオリスウデン・ヴォイマ(TVO)がアレバに対して29億ドルの賠償を求めたというものです。3000億円を優に超える額です。工事が10年も遅れており、2018年に完成すると報道ではいわれていますが、いまだに完成していません。
このアレバもひどい状態にあり、本音では原発事業から少しずつでも撤退したいというのが本音でしょう。しかし、それに手を貸して泥船に乗り、一緒に沈没しようとするような企業はまずありません。
ところが、ことあろうか、三菱重工業がそれに手を貸しています。
今年4月、三菱重工業は、アレバに400億円の新規投資を行い、それまでの投資額と合わせて合計700億円の総投資を行うことに合意したというものです。
thttps://asia.nikkei.com/Business/Deals/Mitsubishi-Heavy-doubling-down-on-Areva-with-fresh-investment
2、なぜ外国が手放したがっている原発事業に手を貸すのか?
繰り返しになりますが、一つには無知、希望的観測であり、まだ原発がペイするという幻想にとりつかれているからです。
しかし、もう一つは、日本では原発村の利権構造の中で、原発会社(発電、メーカー)が責任を逃れているという事情もあります。もし万が一、事故が生じても、東電などにも、東芝・三菱重工業・日立にも、損失の責任を負う必要はほとんどありません。要するに無責任体制です。
その結果、勘定は国民に転嫁され、被害を受ける地元民に転嫁されます。実際、東電は現在公的資金を受け入れており(借金しており)、実情は、大幅な赤字を経常しているはずですが、負債を純資産であるかのように扱っており、黒字(利益)を出していることにしています(一種の偽装です)。
こうした無責任体制は、事態を正確に把握し、行動するというビジネスマンの経営行動を著しく抑制することになります。無知、希望的観測、幻想が生まれるのももっともです。」
また無責任体制を生み出すにあたって経産省をはじめとする省庁が大きい力を発揮しいていることも見逃すことはできません。こうした公的機関の参加は、原子力村の住民に保証と安心とを与えます。またいまだに2005、6年頃に経産省がはじめた「原発ルネサンス」の音頭に合わせて踊っている人がいます。安倍首相の原発輸出促進策も、こうした無知、幻想、希望的観測、保証と安心、「原発ルネサンス」の標語に支えられていることをわすれてはなりません。
蛇足:
ヨーロッパでは、近代資本主義経済が誕生したとき、企業は無限責任を負っていました。それが近代のヨーロッパ・ビジネス法の一つの特徴です。企業者(出資者、経営者)は自分の経済行動の結果に対して無限に責任を負わなければなりませんでした。例えば企業が破綻したときには、企業者は、その出資額にかかわらず、全負債に対する賠償責任を負っていました。
しかし、19世紀の法改正で有限会社、株式会社が普及し、企業者が出資額を超えて責任を負うことはなくなりました。当時、そうした法改正に対して「モラルハザード」(無責任)を生み出すという批判がありましたが、特に現在の日本の状況を見ていると、その通りではないかと思います。これに対して、さすがに欧米は近代ビジネス発祥の地、まだ多少とも近代ヨーロッパのビジネス法の精神が残っているのかもしれない、とも思います。
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