2017年9月6日水曜日

法人企業統計から見る 「アベノミクス」と賃金圧縮の持続 破綻に向かう日本社会

 現在の問題をはっきりさせるために、日本の法人企業(会社)が従業員に対してどのような態度をとっているかを見ておこう。ここでは財務省の法人企業統計を利用する。
 この統計から明らかになることを、あらかじめ結論的に言うと、20世紀末に始まった「賃金圧縮」は依然として続いており、従業員の賃金所得が抑制されていることが注目される。また、そのため労働者世帯の家計消費支出は抑制される傾向が続いている。

 まず下図から、中長期的な趨勢をみると、法人企業の給与総額は、2003年~2006年の上昇を除いて、20世紀末から現在に至るまで低下トレンドを示している。2006年に150兆円ほどに達していた給与総額(統計の不備のため賞与を除く)は150兆円に達した後、2013年に125兆円にまで低下した。ただし、2013年以降は若干回復しているが、これについては後に詳しく検討する。
 

 賃金が圧縮されていることは、従業員一人あたりの給与額を見ると、いっそう明らかになる。下図は、給与総額を従業員数で割って得た「一人あたりの給与額」を示す。ただし、法人企業統計の従業員数は実数ではなく、短時間雇用者については、正規雇用者等の標準的な労働時間を規準とした換算値である。しかし、実際にはよく知られているように、低賃金の非正規雇用はますます増加している。そこで、「労働力調査」が示す実数値を参考にしながら、修正値(推定値)を計算してみた。言うまでもなく、これによって実際の一人あたり給与額が全般的に低下するだけではなく、(非正規雇用が増え続けているので)トレンドにも影響を与える。
 さらに、内閣府の公表している「消費者物価指数」を用いて、一人あたりの給与額(実質)を計算してみた。
  

 


 一人あたりの実質賃金が20世紀末から低下していること、また安倍政権が成立してからも低下しつづけていることが確認される。
 賃金が圧縮されつづけていることは、賃金シェアの一貫した低下からもうかがえる。ここで賃金シェアというのは、生産された付加価値総額に対する給与総額(給与+賞与)の割合のことを示すが、賞与についての統計数値が2006年以前については示されていないので、参考のために給与のみの場合の数値も示す。この賃金シェア(賃金分配率)も20世紀末から一貫して低下のトレンドを示している。しかも、安倍政権成立以降、むしろこの傾向は強くなっている。
 

 さて、最後に述べておきたいのは、こうした賃金所得の圧縮に対して、労働者世帯がとりうる対策である。
 勤労者世帯は、新古典派経済学の教義とは反対に、賃金率が低下したとき、労働時間を増やすことによって所得の著しい低下に対応することは、よく知られた事実である。
 そして、これは、一方で会社が賃金圧縮を実施するために正規雇用を減らし、低賃金の非正規雇用を増やそうとする政策を取り、他方で労働者世帯が非正規の短時間雇用という形で労働時間を増やそうとしている日本の経済社会の変化をよく説明する。
 
 しかし、労働供給は無限に増やせるわけではない。よく知られているように、現在「生産年齢人口」は減少しつつある。すでに、多くの地域では、労働力不足が深刻化していることが明らかになってきている。しかも、現在の「生産年齢人口」が減少しつつあるだけではなく、賃金圧縮が少子化をいっそうすすめることによって将来の「生産年齢人口」をも急速に減少させるように作用しているのである。

 現実の経済社会においては、深刻な社会的問題が生じたときに、いつも問題を正しく解決する方向に向かって対応策がとられるわけではない。むしろ逆の方向、問題を深刻化させる方向に向かうことが多い。現在の日本もそうである。
 社会が完全に破綻するまで突き進むのだろうか? きわめて憂慮するべき事態であることは間違いない。

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