2013年2月22日金曜日

外国為替相場 その11 変動の方向と水準

 これまで様々なことを書いてきましたが、今日は、その中で次の3つのことからスタートしたいと思います。
 1 為替相場は、中期・長期においても、購買力平価(PPP)に落ち着かない。またそれは購買力平価より上または下の水準に乖離しているため、貿易収支(純貿易)は不均衡、すなわち黒字または赤字となる。
 2 為替相場を購買力平価、または貿易均衡水準から乖離させる力の中で最も大きな要因は、国際資本移動、特にポートフォリオ資本(証券投資)フローを引き起こす利子率の差異である。金利差が如何に強力な要因である(あった)かは、現状と過去の分析によって明白となるが、ここではその事実を指摘するにとどめる。ほとんどの場合、相対的に高金利の国に向う資本移動(流入)が生じ、当該通貨に対する需要が拡大するため、当該通貨高が生じる。例えば21世紀初頭の米国への資本流入とドル高・円安、2008年のリーマン危機後のバーナンキFRB下の超金融緩和(量的緩和と超低金利政策)の下でのドル需要の低下とドル供給の増加がもたらしたドル安・円高がそうである。昨年末以降の反転については、後日、触れることにする。これは利子率平価が成立しないことを端的に示す。
 3 貿易収支の不均衡と国際資本移動との関係は、フローの水準では、次式で示される。 SーI=XーM さしあたり、この式の左辺(SーI)と右辺(XーM)は恒等式であり、アプリオリに右辺から左辺への、あるいは左辺から右辺への因果関係を示すことはできない。その際、はっきりしていることは、米国のような貿易収支の赤字国(資本収支の黒字国)の通貨は、購買力平価と比べて「増価」(ドル高)となっており、逆は逆(例えば少なくとも2008年以前の円安)であるということである。

 そこで、われわれに残された課題の一つは、為替相場を購買力平価、利子率平価から乖離させ、さらに SーI=XーM の左辺と右辺をゼロにしないようなメカニズムを明らかにすることになります。その際、もちろん、ISバランス、貿易収支を決定するのは、対外経済関係を含む一国経済全体の調整メカニズムであり、単に金利や通貨量(M2など)などの決定要因を取り出せばよいということではない点に注意しなければなりません。そもそも中央銀行は何故通貨量や金利を変更しようとするのか、それを理解せずに、経済を分析できるはずがありません。
 もう一つ注意して置かなければならないことは、われわれが行なおうとしていることは、すでにケインズ等の一流の経済学者が1930年代から国際経済関係(今様に言えば、グローバル化)の問題として取り扱っていたことです。特にケインズは、経営と所有が分離して実物資本と投機資本の流れが分離してしまった現代では、また国際資本移動の完全な「自由」を実現してしまった後では、各国の安定化(完全雇用など)がひどく脅かされることに気づいていました。
 要するに、外国為替相場を論じるということは、現代のグローバル化された国際経済全体の問題性を論じることになります。
 新古典派は、国内では賃金の変動を通じて完全雇用が実現され、また金利の変化を通じてISが均衡し、国際間では為替相場の変化(購買力平価、金利平価、ドーンブッシュ・モデルなど)を通じてXとMが均衡すると想定していましたが、それが成立しないことは今では誰の眼にも明らかであり、特に為替取引の実務家は最後の点をよく知っているはずです。
 私たちは、むしろ現代経済の不均衡と不確実性を想定して、取りかからなければなりません。現代国際経済の不均衡をもたらす為替相場の変動の方向とその水準は、どのように決まるのか、これが次に課題となります。




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