ブログを更新するのはしばらくぶりとなりました。
さて、新古典派の主張と異なって、外国為替相場は、PPP(購買力)平価から乖離するのが普通であることをたびたび説明してきました。
端的に言うと、その乖離の方向は2つの国の金利差によって決まります。例えば、今、米国の金利が日本の金利より低い、または低くなると想定しましょう。すると、証券投資の方向は米国から金利のより高い日本へ向かい、ドル売り・円買いが発生します。それは当然ながら、ドル安・円高を導きます。実際、これは2008年のリーマン危機ののち、米国の中央銀行にあたるFRBが超金融緩和・低金利政策を採用した時に生じました。
しかし、安倍氏が首相に就任することが決まり、日本が超金融緩和・低金利政策を採用することが確実となり、日本の金利が米国の金利より低くなるという「期待」が生じると、逆転が生じます。ドル買い・円売りが生じ、ドル高・円安が生まれます。
このことからいくつかのことが分かります。
1. 若干単純化して定式化すると、経常収支または貿易収支の黒字国(資本収支の赤字国)の通貨は、PPPに比べて減価する傾向(自国通貨安の傾向)があります。何故ならば、もしPPPが経常収支(または貿易収支)を均衡させる水準であるならば、資本収支が赤字ということはその国からの資本の流出を意味し、したがって自国通貨売り・外国通貨買いが生じるからです。
2. その際、金利差が大きな役割を演じていることが注目されますが、新古典派の主張する金利平価説とはまったく逆になっています。
3. 現在では、通常、金利が高い(または高くなる)のは、その国の経済が好調な時です。このことは、もし不調であれば中央銀行が金融を緩和させる政策を取ることからも、簡単に理解できます。
4. しかし、必ずしも現実の金利差が為替相場の変動をもたらすとは限らないことに注意しなければなりません。単なる「期待」が為替相場の変動をもたらすことは、FX取引をしたことのある人なら知っているはずです。最近のドル高・円安も安倍政権時に生まれたある期待から発生しています。しかし、その期待が「自己実現的予言」に変化することがあります。(必ずそうなると言っているのではありませんが、ある条件や出来事と組み合わさって、そうなることがあります。)つまり、日米の金利差の逆転、ドル買い・円売り、ドル高・円安の「期待」が生じると、多くの人がドル買い・円売りを行います。その動きはさらに多数の追随者を生み出すでしょう。こうして株式市場と同様に外国為替市場でも「バンドワゴン効果」が生まれ、「ケインズの美人投票のアナロジー」が成立することになります。
ところで、外国為替市場では、しばしば取引参加者が為替相場の「決定要因」として様々な「ファンダメンタルズ」に言及しますが、誤解を恐れずにあえて言うと、そうしたファンダメンタルズは為替相場に直接影響しているわけではありません。それはむしろ参加の「期待」に影響することを通じて影響しています。
しかも、ケインズが述べたように、多くの人は知らず知らずのうちにその時々の支配的な経済学の影響を受けています。ですから、例えば1970年代後半から1980年代初頭の「マネタリズム」(貨幣数量説の一種)が流行したときには、貨幣量が基礎的なファンダメンタルズとして尊重されました。しかし、その流行はすぐに終わり、その後は、別のファンダメンタルズが注目されました。どのファンダメンタルズを選ぶかは、その時々の人々の思想・趣味・嗜好によるのです。ケインズの美人投票が成り立つ所以です。
このように現実の為替相場の変化を説明するためには、「期待」という心理学的な現象を論じる必要があります。ここでは、それを詳しく説明する余裕はないので省略しますが、いずれにせよ、為替相場を決定するのは、経済合理的なファンダメンタルズではなく、むしろそれらを「自分の経済学」に照らして適当に解釈する・それほど合理的でもない人間の行動心理だという点に注意する必要があります。
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