米国や英国といったアングロ・サクソン民族の国・地域(コーディネートされない自由市場経済の国)が所得分配の点でかなり不平等であるのに比べると、北欧諸国や東アジア諸国(日本、韓国、台湾など)は、比較的平等なタイプの資本主義国とされている。
しかし、以外と知られていないかもしれなが、後者の間にはかなり大きな相違点もある。その一つは、政府による所得再分配の政策の効果である。
北欧諸国は、所得の第一次的分配においてはかなり不平等である。しかし、政府の所得再分配政策(コーディネート)によって不平等は大幅に修正される。したがって再分配前のジニ計数はかなり高いが、修正後のジニ計数はかなり低くなる。そして後者のジニ計数を前者のジニ計数で割った値は1よりかなり小さくなる。
これに対して、東アジアの所得分配が平等なのは、政府の所得再分配政策によるというよりは、第一次的所得分配が比較的平等であることによる。したがって修正後のジニ計数÷修正前のジニ係数の値は1に近い(1)。
これが少なくとも戦後にあてはまる特徴である。
しかし、この事実は、次のような重要な事実を意味する。それは政府の所得再分配の効果が日本を始めとする東アジアではかなり小さいことであり、したがって第一次所得の分配が不平等化すると、それを修正する力が作用しないことである。
実際、橘木氏が指摘するように、日本のジニ計数は近年上昇してきている。
確かに、これに対して大竹氏のように、不平等が拡大しているかに見えるのは、高齢化によるものであるという見解もある。それによれば、日本では従来から年齢が高い層ほど所得格差が強くなる傾向があったが、高齢化の進展によって高齢者が増え、その比率が高くなったので、格差が広がったかに統計上見えるというものである。
しかし、これは奇妙な議論である。年齢が高くなるほど所得格差が拡大するという日本の特徴がそもそも問題だからである。
従来から日本のきちんとした労働問題研究者・社会政策学者の間では、大企業と小企業・零細企業との格差、正規と非正規の格差という二重構造の問題性が指摘されてきた(2)。こうした構造下で高齢者のコーホートほど格差が拡大していたのである。そして、これを修正することこそが日本社会の抱える課題であったはずである。ところが、1997年以降の日本企業の雇用戦略の転換は、それを修正するどころか、むしろ拡大する形ですすめられてきた。従来からそうだったでは済まないはずである。
この問題を以下でもういくつかの側面からもう少し詳しく検討することとしよう。
(続く)
参考文献
サミュエル・ボウルズ(佐藤良一、芳賀健一訳)『不平等と再分配の新しい経済学』
(大月書店、2013年)。
野村正実『雇用不安』(岩波書店、1998年)。
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