アメリカとイギリスの若者の間で、新しい動きがはっきりしてきました。
それは、新自由主義(ネオリベラル)政策と決別し、新たな社会主義を模索する動きです。
そもそも1980年頃まで、世界経済は現在とはかなり異なる状態にありました。
いわゆる「資本主義の黄金時代」(golden age of capitalism)といわれる時代にあって、経済の成長率もかなり高かったわけですが、それ以上に特徴的だったのは、労働生産性の上昇とともに、それに比例して、あるいはそれ以上に人々の雇用者報酬(賃金)が引き上げられていったことです。
そのため、最近日本でも注目されたサエズ、ピケッティの研究が示すように、戦中から戦後にかけて大幅に縮小した所得格差がふたたび拡大することはありませんでした。そして、この時代に大衆消費社会が到来し、中間階層といわれる階層が出現しました。
ところが、1979年のイギリスの総選挙、それに1980年のアメリカ大統領選挙によって、それぞれサッチャー(保守党)、レーガン(共和党)が首相、大統領に選ばれました。そして、彼らがはじめたのが、新自由主義政策です。これは当時、問題となっていたスタグフレーション(インフレと停滞)に対処する政策として正当化されました。
この政策は、両国において細部は異なりますが、マネタリズム(通貨主義)=高金利による金融引締策、供給側(サプライサイド)の経済学、緊縮財政、「柔軟な労働市場」などなどです。
アメリカでは、ウルトラ高金利によってたちまち不況に陥るとともに、失業率が上昇し、賃金が抑制されはじめ、その結果、インフレは収まりましたが、アメリカ経済は大打撃をうけました。
その上、高金利のためドル高、つまり円安・マルク安などとなり、アメリの輸出産業が大打撃を受けただけでなく、内需向けの産業(鉄鋼、自動者など)も日本・ドイツからの輸入によって大打撃を受けました。GMやフォードが従業員の解雇などのリストラを行ったという記事が当時の新聞に載っています。
ともあれ、高失業時代が到来し、これ以降、賃金は圧縮されはじめました。アメリカ議会予算局の報告(CBO)でも、連邦準備制度のデータでも、実質賃金は、労働生産性に上昇よりはるかに低い率でしか上がらなくなったことがわかります。
しかも、それだけではありません。レーガンは、供給側の経済学の立場から、法人税の大幅引き下げを実現し、また所得税の限界税率を大幅に引き下げました。これによって富裕者の可処分所得や大企業の可処分所得(税引後の利潤)が増えたことはいうまでもありません。
レーガンの理屈では、このように大企業・富裕者の所得が増えると、貯蓄が増え、(設備)投資が増え、生産力が上昇するため、経済がふたたび順調に成長する、「はず」でした。そして、「トリクルダウン」によって、所得上位者からはじまった所得増加が、次に低所得者の所得増加につながってゆく、「はず」でした。
しかし、これらの高成長やトリクルダウンは生じませんでした。成長率は以前のような高率にもどったわけではありません。(まあ、高度成長はいつまでも続くわけではないので、この点は問わないとしましょう。)
では、所得分配はどうなったでしょうか?
言うまでもありません。格差は広まる一方となりました。例えば男性の一人・一時間あたりの実質賃金を見ると、1970年代から現在までむしろ低下しています! 一方、所得上位者1%、あるいは0.1%、あるいは0.01%の人々の所得(可処分所得)は大幅に増えています。このことについては、すでに本ブログでも紹介しています。
イギリスでも似たりよったりですが、ここでは省略します。
さて、私がここで注目するのは、こうした状況の中で、アメリカやイギリス、つまりこれまで先頭に立って新自由主義の旗振りをしていたアングロ・サクソン系の国で、特に若い層を中心にこれに対する抗議運動が活発化し、方向転換を図ろうとしていることです。
イギリスでは、数年前に「暴動」(riots)がイギリス各地の都市で起きましたが、現在、労働党の内部では、ブレアーの下でもすすめられた新自由主義政策を否定し、社会民主主義に回帰する動きとそれを支持する動きが若者の間で支持されています。
アメリカでも数年前に「ウォール街を占拠せよ」(Occupy Wall Street)の運動が起きました。そしていま保守・共和党内部でもトランプという人気取り政治家が台頭し、従来の共和党とは少し異なることを主張しはじめました。(といっても、よく見ると、基本的には旧来の共和党の路線を継承しています。)一方、民主党の内部では、バーニー・サンダース氏の「民主的社会主義」が若者の間で大きな支持を得ました。ヒラリーも、サンダース氏に勝つために、少し、左旋回し、にじりよらなければならなかった程です。
こうしたアングロ・サクソン系の「自由市場経済」の国で、大きな転換が生じはじめていることは決して無視できません。
現在、それはまだ新自由主義の「終わりの始まり」、また新しいものの「始まりの始まり」の段階かもしれませんが、イギリスとアメリカは、フランスとならんで「自由と諸権利」を世界でも最も早い時期に実現した国です。空気(雰囲気)が大きく変わっていることは間違いありません。
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