経済の「長期停滞」(「デフレ不況」とも言われた)と賃金の低下との関係に関する予備的な説明は以上にとどめておこう。
さて、第二次安倍政権が誕生してから、賃金(雇用者報酬)が実際に上がったではないかという反論があるかもしれない。
たしかにその通り。実際には正確に言うと、名目賃金(貨幣賃金)はたしかに上がったが、実質賃金は低下したというのが事実である。
ここではその背景と経過を簡単に見ておこう。
1,「アベノミクス」は、金融緩和による貨幣ストックの増加を通して、2パーセントのインフレ(物価水準の上昇)と経済成長を実現するとして公言していた。ということは、最低限2パーセントの貨幣賃金の上昇が実現しなければ、実質賃金が低下したということになる。
いくら「云々」を「でんでん」と読むような知性の持ち主でしかなくても、物価上昇率より低い賃上げでは、実質的に賃金水準が低下することになることは理解したはずである。
2,ここで賃金を決定するのは現実の経済社会では誰かを考えてみよう。それは企業経営者である。もちろん、企業経営者は何の制約もなく、自由に賃金率を決めるわけではない。労働市場には労働市場特有の慣行・制度があり、それを無視するわけにはいかない。特に現行の賃金水準、それに将来の自社製品の売れ行き・付加価値・利潤の予想(期待)、物価上昇率の期待などに配慮しなければならない。
3,だが、当時、外国為替相場がドル高・円安の方向に進んでいた。これは、経済学の初歩的な教科書的にも示されている通り、日本製品の国際価格低下と日本からの輸出量の拡大をもたらすであろうと期待される。が、他方では、円安は輸入品物価の上昇を意味する。実際、首相就任後の当時、輸入品物価の上昇によるインフレ(輸入インフレーション)が進行中だった。
これはアベ政権にとっては、アンビバレントな出来事だった。つまり、一方は、異次元の金融緩和によって「デフレからの脱却」(インフレ)が進んでいますという宣伝を行い易いが、他方ではインフレ率を超える賃金の引きあげを実施しない限り、実質賃金が低下することになる。
ここは、是非とも財界に名目賃金率(貨幣賃金率)を引きあげてもらわなければならない・・・・・・。この「総理の御意向」は、もちろん財界に伝えられて、一種の談合が実施された。
しかし、言うまでもなく、本来、賃金は「総理の御意向」にそって決められる筋合いのものではない。そこで、官邸(総理)は、財界に対してバーターとして法人税の減税を提案した。「税金まけちゃうから、世界一企業が自由にできるような国するから、少し従業員の給料上げてよ。」こんなところである。
4,かくして前代未聞の「総理の御意向」による賃金引き上げが実施され、しかも、この賃上げは、アベ友=籾井会長のいるNHKなどをはじめニュース番組で大々的に宣伝されることとはなった。歴史的な賃金引き上げが演出されたのである。
ちなみに「総理の御意向」という圧力は、森友学園問題・加計学園問題に限られているわけではない。ただ、財界への圧力、談合が社会問題化されなかったにすぎない。
5,だが、残念ながら、それにもかかわらず、貨幣賃金上昇率はインフレ率を下回っていた。その結果は、言うまでもなく、実質賃金率の低下である。これは厚生労働省などの公表した統計情報にはっきりと示されている。これも詳細は他日を期したい。
当然、私もブログで指摘したが、テレビ等でも指摘されることなる。
そして、それを指摘された安倍首相の混乱・錯乱ぶりは見事なほど異常であった。訳の分からないことを早口でしゃべりまくり、その様子はおそらく一部の心酔者を除いて多くの視聴者を唖然とさせたに違いない。
ここに示した事態は、安倍氏の経済政策のアベコベぶりを見事に示すものである。
安倍氏の混乱ぶりはともかく、しかし、私たちが「アベノミクス」の本質を正確に捉えるには、そもそも現実の経済社会では賃金率や雇用・職がどのように決まるのか、をきちんと理解しなければならない。
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