すこし古くなってしまったが、民主党がなぜ選挙で敗れ、自民党が勝ってきたのか、なぜ日本のリベラル左派は政治的に大きな力を発揮できないのか、これについて宮崎駿氏がイギリスのタイムズ紙のインタビューに応じ、答えている(2015年7月14日)。
イギリスのTIMES誌です。安倍首相に関しては、よく分からない部分があります。たとえば原発問題などの世論調査を見ると彼の人気は低いが、選挙では自民党が勝ってきました。宮崎監督もどちらかというとリベラルに属していると思いますが、なぜ日本の左派の人々は政治的に大きな力を発揮できないんでしょうか?宮崎駿さん:「民主党の最初の総理は、沖縄の基地の問題についても日本全体で背負うべきであって、『沖縄だけに負担させるのは間違いである』と、はっきり言った方です。でも、たちまち党内の勢力争いの中で、引きずり降ろされてしまいました。その後、地震と原発が立て続けに(日本を)災厄が見舞って、その混乱の中で、とうとう自民党政権がずっとやりたくもできなかった消費税(引き上げ)を民主党が決めるハメになってしまったんです。この結果、長い政治的な無力感と不信感がこの国にはびこったのだと思います。自民党は過半数以上の支持を得たのではなくて、多くの人間が投票しなかったことによって、天下を取ったんです。ですから、これはまた変わります。永続的なものではないと思います。安倍首相は自分が『憲法の解釈を変えた偉大な男』として歴史に名を残したいと思っているのでしょうが、愚劣なことだと僕は思っています」
http://www.huffingtonpost.jp/2015/07/13/miyazaki-hayao-vs-abe_n_7789934.html「政治的無力感と不信感」が日本にはびこったこと、多くの人間が投票しなかったことによって、自民党が選挙で勝ったにすぎない。この意見に私も賛成である。
しかも、「政治的無力感と不信感」とは、長い自民党政権時代につくられてきたものである。沖縄をはじめとつる米軍基地の存在、原発事故、法人税減税・所得税の限界減税による財政赤字・政府粗債務の拡大、消費増税だけに依存する租税のフラット化、人口減少、富と所得の格差拡大、非正規低賃金労働の拡大、金融危機とその要因(金融自由化と資産バブル)、失業率の上昇、消えた年金問題・・・・・・
数え上げればキリがない。これらの問題に自民党政権がかかわっていないものがあるだろうか?
これらの諸問題を民主党政権は、けっして上手にとはいわないが、誠実に取り組もうとしていたことだけは確かである。しかし、震災と原発が日本を襲い、財務省と自民党がやりたくてもできなかった消費増税を民主党(野田政権)が決定するハメになってしまった。そしてマスコミよる集中砲火。これは財務省と自民党の思うツボだった。
案の定、自民党(安倍晋三)は、消費増税という成果を他党の不評を犠牲にして手に入れ、しかも、それによって歳入が増加し、毎年の公債発行額を減少することに成功したことまで、自分の功績にしてしまった。だが、安倍首相はそれを部分的に台無しにする政策を実施さえしている。それは法人税の減税である。これは大企業の利潤と内部留保を増やしこそすれ、国民や財政健全化にとってはマイナスの役割しかはたさない代物である。
しかも、安倍政権の下で、上にかかげた問題はそのまま手をつけられずに残されている。
最近になって安倍内閣の支持率は急速に低下し、現在「危険水域」といわれるところ(もっとも低い調査では20パーセント台)にまで落ち込んでいる。それはようやく(というのが私の思いだが)、国民の多くが安倍晋三氏の姑息さ(政治の私物化)に気づいてきたからであろう。
こうなる前には安倍内閣の支持率は比較的高い水準にあった。ただし、その際でも、当該世論調査をよく読むと、それが安倍政権の政策やそのパフォーマンスを積極的に支持するというものではなく、まったく消極的な支持(なんとなく、他によい人がいないらしい)にすぎなかったことがわかる。政治、外交、社会、文化など、どの項目をとってみても、「支持者」の間でも哀れなほどに低い評価が与えられていた。
したがって次に掲げるような「軍事化」や「政治の私物化」など反国民的姿勢が明らかになるや、支持率が急落することは当然のことだったということができる。
特定機密保護法の強行採決
安保法制(本質的には、戦争する国に日本を変える戦争法)の強行採決
共謀法(何をしたら犯罪として罰せられるか不明な国民・市民監視法)の強行採決
選挙を理由とした虚偽
TPPについての選挙前後の豹変
消費増税に関する選挙を理由とする豹変
五輪招致の際の福島原発「アンダーコントロール」発言
財政健全化を名目した消費増税、個人負担増の裏で行われている法人税減税など
原発、兵器輸出の促進
マネー資本主義、カジノなどの推進
安倍友の優遇(森友学園、加計学園、メディア関係者)
公文書の隠滅など
省庁、警察に関する圧力(安倍友の優遇と反対者の処分など)
慢性的な虚偽報告を含む
お友達内閣の国会内外における失態・失言
マスメディアに対する圧力(NHKの籾井会長問題など)
国民を過労に導く「働き方改革」の宣伝
非正規雇用を常態化させる法律の制定
このような反国民的政策を行いつつ、安倍政権は、支持率の低下を恐れて、中国・韓国・北朝鮮をダシにして国民を煽ることをわすれなかった。しかし、これについて、ここでは簡単にとどめなければならないが、自衛隊を先制攻撃も辞さない軍隊に変え、実際に(韓国はもちろん)中国や北朝鮮と戦争することを本気で考えている人はほとんどいないであろう。思い出せば、尖閣問題をことさら全面に出し、中国との関係悪化の引き金を引いたのは、あの右翼の石原慎太郎氏であった。また北朝鮮がターゲットにしているのは、1953年の休戦協定以来ずっと北朝鮮にとって脅威をなしてきた米国であった。その北朝鮮を日米が軍事的に刺激しながら、ミサイル実験が行われると、あたかも日本が攻撃されるかのように煽ってきたのが安倍政権だった。しかし、もし本当に米軍が北を先制攻撃したならば、その場合には、何があってもおかしくないだろう。そのような危険を冒すほど愚かしいことはない。
しかし、多くの人々は安倍晋三氏の本当の目的と彼による「政治の私物化」に気づき、そのことによって幻想から解放されてきた。いずれによせ、安倍政権の命脈は長くないだろう。私たちは、それを早く終わらせ、それと同時に安倍氏の本当のねらい(自衛隊を戦争する軍隊に変えるための改憲)という「第四の矢」(毒矢)のために利用されてきた「アベノミクス」--この社会的、経済的も有害な政策--を終わらせなければならない。
「アベノミクス」。この安倍氏の経済政策を意味する言葉は、安倍晋三氏自身の造語ではなく、どうもマスコミによる造語らしいが、「第四の矢」(毒矢)を実現するために、宣伝用として利用されてきた。またそれは当初こそその目的にある程度まで--人々の生活をよくすることによってではなく、幻想に支えられてー-貢献してきた。しかし、いまやそれがまやかしであることも明らかになっている。
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