2013年12月7日土曜日

社会科学の裸の王様・経済学 7 合理的な馬鹿

 アマーティア・センの著作に『合理的な馬鹿』というものがあります。それをタイトルに使いましたが、ここでの内容はセンの解説ではありません。

 さて、学生の頃、消費者選択の理論というものを学ばされました。先日の演習のときに学生の一人に聴いたところでは、現在でも教えているようです。

 ところがこれがいろいろな意味で合理的な馬鹿げた「理論」です。何故か?
 詳しくは説明しませんが、この理論では、2財(例えばリンゴとミカン)を取り上げ、
限られた予算制約の中でどのような選択が最適(個人的な効用を極大化する)かを説明するものです。2年生くらいの学生には結構難しく感じるようです。

 さて、この理論のどこが馬鹿げているのでしょうか?
 普通教室では(教科書でも同じです)、2財を素材とした説明が終わったあと、教師が「それをN財に拡張します。それでもこの理論は成立します」と宣言して終わります。すなおな学生はなるほどと納得するでしょう。
 しかし、N財とは何でしょうか? 現実の経済社会では商品の種類は数え方にもよりますが、何万種類にもなります。ちょっとしたコンビニでも数千種類はあるといわれています。いまここでは、かなり少なめに2000種類としましょう。つまり、N=2000です。
 この場合、人間の頭脳は「消費者選択の理論」によると、どれほどの回数の計算を行わなければならないでしょうか? 数学の「計算量の理論」によると、その回数Cは、少なくとも2^2000以上になります。
 「あっ、そっ」と言って終わりにする人もいるかもしれませんが、この2の2000乗という数字がどれほど大きいのか調べてみます。
 2の4乗は16(>10)ですから、C>10^500。つまり10の500乗よりはるかに大きくなります。では、10の500乗とはどれほどの数でしょうか? お分かりのように、それは十進法で500桁の数です。1の後にゼロが500個並び、気の遠くなるような数です。
 それでは、それだけの回数の計算をコンピューターで行ったらどれほどの時間が必要でしょうか? 現在の超高性能コンピューターどころか、究極の超高速演算処理を可能とするコンピュータで計算しても、どう少なく見積もっても億年単位の時間が必要となるようです。(この辺りは理系の人の知識をかりなければ分かりませんが、幸い数学をやっていた息子に少し知識がありました。)
 
 「人間は合理的な行動を取る」と教えながら、実際にはこんな馬鹿なことを学生に教えるているのです。このこと自体が人間が(いや新古典派の経済学者が)いかに情報を正確に得ておらず、現実離れした不合理な行動をとっているかを如実に示しています。

 ちなみに、私などはスーパーで商品を選ぶととき、そんな計算などせずに、ルーティン的に、つまりハビット(慣習的行動)にしたがって適当に選んでいます。ヒューリスティックにと言いますが、いくつかの行動(商品選択)パターンは決まっていて、ただ値段や嗜好、大きさ、季節などのによって多少変えているに過ぎません。ある程度は合理的に行動しているかもしれまんせんが、かなり不合理とも言えます。
 ところで、消費者選択の理論を教えている人は、ちゃんとすごい回数の計算をしているんでしょうね。さもなければ「罰せられはしないけれど欺瞞」(innocent fraud)を働いていることになりますよ。


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