今日の経済学および経済の現状を知るのにジョン・K・ガルブレイスの著書『悪意なき欺瞞 誰も語らなかった経済の真相」(佐和隆光訳、ダイヤモンド社、2004年)*ほど短くて、要領よく説明した本はないかもしれない。
* The Economics of Innocent Fraud, Truth for Our Times, Houghton Mifflin Company, 2004.
直訳すれば、『罪を感じない欺瞞の経済学 われわれの時代の真実』とでもなろうか。多くの経済学者や政治家たちが主観的には悪意を持っているわけではないとしても、誤った経済理論を持っており、それに沿って間違った政策が実行に移され、「悲惨な結果」がもたらされている。しかし、誰も罪を感じているわけではなく、責任も取らない。いや深刻な罪の意識を持つどころか、自己満足に浸っている。この本には、そんな意味が込められている。
どうしてそうなるのか? それは経済学や政治学では、「個人または集団が手にする金銭的利益が現実を見えにくくするという傾きが他の学問分野に比べて顕著である」ことに関係している。それはまた現代経済社会において「企業が支配的な役割を担っていること」に関係している。
しかも、怖いことは、誤った見解が「個々人の、そして社会全体の信仰になるという点」である。
例えば、邦訳の74〜77ページ、<政府をも「経営」する企業経営者>の節は、米国の政府が巨大企業に事実上乗っ取られていることを示し、それに警鐘をならしている。
そのような事態は、ナオミ・クライン氏が「コーポラティズム」(corporatism)という言葉で表現し、元米国大統領ルーズベルト氏が「企業ファシズム」(corporate fashism)と呼び、現在のアメリカ人が「金権政治」(plutocracy)と呼んでいるものでもある。かつてアイゼンハワー元大統領は「軍産複合体」の危険性に警鐘をならしていたが、今や金融資本主義もまたそれに加わっている。
11月26日、法王フランシスコさんが「福音の喜び」で現代の非人間的な新自由主義・市場原理主義・拝金主義を批判したが、その批判対象もほぼ同じといってよいだろう。
ガルブレイスが米国における20世紀最大の優れた経済学者といえるのは、経済社会の現実をザッハリッヒに(事実に即して)きちんと見ていたからである。高等数学(?)を駆使してはいるが、仮想空間をいじっているだけで、経済社会の現実をほとんど知らないエセ経済学者とはまったく異なる。
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