2017年10月21日土曜日

国立社会保障・人口問題研究所による生産年齢人口将来推計  リベラル派・左派大連合の必要性

【国立社会保障・人口問題研究所による生産年齢人口将来推計】
 日本の生産年齢人口が減少していることは、よく知られている。また国立の研究所が将来推計を行っており、その数値も、少なくとも専門家にはよく知られている。
 それはきわめてショッキングな数字である。研究所による推計値は2040年までのものであるが、仮に同程度のトレンドがその後も続いた場合には、予想はよりショッキングなものとなる。実に、2100年の日本の生産年齢人口は現在の4分の1となる。もちろん、現在生まれた人が85歳ほどになる遠い将来の話しであり、必ずそうなると決定されているわけではない。




【ケインズの議論  リベラル派・左派大連合の必要性】
 ところで、こうした人口減少問題がかつてイギリスの経済学会で大問題となったことがあった。世界が不穏な空気におおわれていた「危機の20年」とも呼ばれる両大戦間期のことである。
 あのジョン・ケインズも議論に真剣に加わった。彼の結論は、現在の私たちにとっても大変示唆的である。
 彼は、そのような時に、企業がこれまで通りに利潤を増やしづうけようとして労働者の賃金を圧縮すると悲劇が生じ、いっそう悲劇的な状況が強まると指摘した。なぜならば、賃金の圧縮は、人々の可処分所得を縮小し、いっそう消費支出を削減し、景気後退を招くからである。
 そうしないためには、人々の、一人一人の賃金所得を引きあげ、格差を解消し平等化を達成するとともに、一人あたりの(あるいは世帯あたりの)家計支出を増やさなければならない。それは所得・資産を平等化し、多くの人にとって住みやすい社会をつくるだろう。人口の回復という望みも生まれる。
 しかし、そのためには、「リベラル派・左派の大連合」が必要である。保守派・反動派からの攻撃を理性的にかわさなければならない。
 
 まるでケインズは、現在の日本社会を念頭において議論を提示しているかのようである。
 ちなみに、残念ながら、ケインズのこうした議論、提案の部分はまだきちんと日本語に翻訳されていない。一刻もはやい翻訳が望まれる。
  

2017年10月13日金曜日

選挙を前にしてGDPの「かさ上げ」 2014年の「実質賃金」操作と同類




 自民党の選挙パンフをみて驚いた。
 GDPが突如530兆円を超えている。安倍政権時代に50兆円も増えたと吹聴している。
 しかし、前にも述べたが、これは財務省がGDPの「かさ上げ」を行ったからにすぎない。
 上のグラフを見ると、いくつかのことが見えてくる。
 1)過去にさかのぼって全体的にかさ上げがなされている。たしかに過去にも改訂はあったが、それは基本的には基準年が違うと物価構造が異なるが、ある程度の年数を経過すると、その基準年を変更するために生じることであり、大きく物価構造がかわることのない現在では、これほど大きな数値の差はでてこない。どうも「かさ上げの」根拠はないようであるが、きちんとした統計数値の存在しない「何か」を推計する計算方法を変えたらしい。
 2)現在に近づくほと、上げ幅がおおきくなる。1990年代には数兆円規模だったのが、次第に拡大、2015年にいたっては35兆円ほどになる。これも作為の結果でしかありえない。
 3)それでも、よく見てみよう。かさ上げされた統計でも、2015年のGDP(名目)は、1997年のGDPに達していない。これはまさに長期にわたる日本経済の衰退を示している。かさ上げ以前の数値では、もちろん、20兆円も低下したままである。「いざなぎ超え」どころではない。安倍泥沼経済である。この泥沼ぶりは、家計消費支出や賃金所得を見ると、さらにはっきりする。

 まさに国家ぐるみの統計操作が行われていることを示すに十分な状況証拠であるが、このような不正操作ははじめてのことではない。
 2014年の選挙前には、実質賃金が低下しているのに、厚生労働省は、おそらく安倍政権の圧力によってであろう、上昇しているという結果を国民に示した。
 その数値は後日「訂正」されている。


 





森友・加計学園疑惑をわすれてはならない 国家戦略特区をめぐる利権・腐敗

【森友・加計学園疑惑を忘れてはならない】
 桝添氏は、実にせこい事柄で東京都知事をやめるに至ったが、安倍首相の疑惑は、かってない規模、金額の疑惑である。マスメディアも官邸の圧力を恐れてあまり報道していない。
 しかし、岡山理大・新獣医学部(加計学園)の建築費水増し・不正請求だけで数十億円にのぼる。
 しかも、安倍首相は、丁寧に説明すると言いながら、審議を逃れるために共謀法を突然打ち切って強行採決し、その後、野党(議員の4分の1以上)の要求にもかかわらず、臨時国会を三ヶ月も開催しないという違憲行為を行いながら、今月に入り、臨時国会冒頭で審議もせずに突如、衆議院の解散を宣言した。
 テレビでも、演説でもまったく説明していない。
 有権者の眼をそこからそらすために、消費税の使途変更に言及したり、「かさ上げ」GDPを宣伝したり、ありもしない「イザナギ」超えを宣伝したり、北朝鮮の脅威を必要以上に煽り、国連では、「対話」「外交交渉」を拒絶するという演説をして、各国から顰蹙をかっている。
 それらは彼がやましいから、有罪だからに森友・加計問題から逃亡するために他ならない。
  
 もし選挙で自公が勝つようなことがあれば、それは政治的な腐敗、しかも海外では危険な「極右」と広く知られている政治家たち(日本会議メンバー)の腐敗を有権者が認めたことを意味する。実に恥ずかしい限りである。
 多くの有権者の良識ある判断を期待している。

2017年9月20日水曜日

日銀の異次元の量的緩和と外国の研究者の問い 量的緩和という「重荷」

 外国人も日本の長期不況が不思議でならないようだ。例えば米国のTyler Durden氏などもその一人である。
 特に量的緩和(QE)については、2008年の金融危機の中で行われたQE3、QE4以降はまったく効果がない。それどころか、逆効果となっているように見えるから、なおさらそうだ。
 しかし、「逆効果」の理由は理解できないわけではない。
 何故ならば、量的緩和は「デフレ心理」の払拭をスローガンとしているが、それは毎年2%物価上昇の期待(予想)を前提とする。そこで人々は2%の物価上昇と、2%を大幅に超える所得の増加を期待しなければならないことになる。(そうでなければ、実質所得が低下ことにになる。)もし実質成長率が(例えば)2%に設定されるならば、また安倍首相が「嘘をつかない」と言いつつ1%をかなり超える成長を訳したわけだから、この公約を考えれば、名目で毎年3%~4%の成長を期待してもよいことになるだろう。
 これは5年では名目GDPが500兆円から600兆円に増えるほどのペースである。
 しかし、そのような期待を持つ人などこの日本で私はお目にかかったことがない。
 つまり、いまや物価上昇(だけ)を約束すると理解されている量的緩和は人々に相当の負担(burden)を押し付けることになるわけである。それは多くの人々にむしろ所得が増えない中での物価高期待を通じて消費支出を抑制する心理を生むことになるだろう。実際、私個人の経験でも、政府が毎年2%の物価上昇を目標とすると聞いて激怒した人がいた。
 「道半ば」どころではない。明らかに量的緩和の「バーナンキ主義」は破綻しているのである。


http://www.zerohedge.com/news/2016-05-24/japans-broken-economy-25-years-failed-stimulus-temporary-illusions


 なお、安倍政権時代における「家計収入」「家計消費」の大幅低下については、下記の表を参照されたし。
https://austrian.economicblogs.org/stockman/2016/snider-piles-japans-economy-shrinking-abenomics-abject/

2017年9月17日日曜日

英国紙ガーディアンの記事より 北朝鮮危機について 

イギリスの「ガーディアン」(the guardian)紙が北朝鮮の核・ミサイル問題について封じている。日本の大手マスコミ(NHKなど)のひどい報道に比べれば、はるかに客観的、冷静な報道をしている。(9月15日)
即席の日本語訳のため、読みやすい文章になっていないが、とりあえず日本語訳文を上げておく。


核危機に対する平和な解決が見いだされるべきならば、アメリカ合衆国は、金正恩が合衆国との軍事的「均衡」に達するという北朝鮮の目的を繰り返したように、北朝鮮の指導者たちを脅かすのをやめなくてはならない、と中国のワシントン大使が述べた。
崔天凱はワシントンのリポーターに述べた。「彼ら[合衆国]は脅しの拡大を公にすることを思いとどまるべきである。彼らは対話と交渉を再開する効果的な方法を見つけるためにより多くのことをするべきである。」
「正直に言って、私は合衆国が今よりずっと・・・多くのことをしているべきであり、そうすればこの問題に関する真に効果的な国際協力が生まれると思う。」
北朝鮮の国営通信社、KCNA は土曜日に、金の言葉を引用した。「我々の最終目標は合衆国との実際の力の均衡を確立し、米国と米刻の支配者が軍事的選択についてあえて語らないようにすることである。」

北朝鮮の核とミサイル実験が継続するならば、米国は軍事的選択をとると警告する。

合衆国は金曜日に、平壌が2週間に2回日本を超えてミサイルを発射した後に、もし最近の制裁が北朝鮮のミサイルと核実験を抑制できないならば、軍事的選択に逆戻りうると警告した。
合衆国国家安全保障担当大統領補佐官、HR・マクマスターは述べた。「我々は道路上のカンをけってきて、道から外れている。軍事的選択の欠如(米国がそれを採用してこなかったこと)についてコメントしてきた人たちにとっては、軍事的選択がある。 今、それは我々が好んでしようとしていることではなく、そこで我々がしなければならないことは、このグローバル問題を扱うためにできるすべてのことをするように、すべての国に求めることである。」
それより前に、米国国務長官、レックス・ティラーソンは、ロシアと中国に対して「自分たち自身の直接行動をとり、これらの無謀なミサイル発射に対する不寛容を示す」よう要請した。
平壌が2週間で2回目日本を超えてミサイルを発射し、国連保全評議会が「強く非難する」と言ったのち、中国大使は述べた。

結び目を結んだ人たちには、それをほどく責任がある。(中国外務省スポークスマン)

中国外務省スポークスマンは、北京で語ったとき、中国は発射に反対したが、同じく合衆国に平壌に対する戦術を変えるよう要請したと述べた。「中国は緊張のエスカレーションに責任がない。中国はまた朝鮮半島の核問題を解決する鍵を握ってもいない。結び目を結んだ人たちにはそれを解く責任がある。」

北朝鮮問題は、11月に予定されているドナルド・トランプの中国公式訪問中に中心的テーマとなる可能性が高い。
トランプは、何カ月間も、中国の国家主席、習近平を味方に引き入れるために公開のお世辞とツイッター外交を混ぜ合わせて、習が金体制を抑えるのを手伝うように北京(中国政府)にもっと多くのことをするよう説得しようとしてきた。

トランプは、「北朝鮮は中国にとって大きい脅威と当惑となったならず者国家であり、中国が援助しようとしてもほとんど成功しなかった」と、平壌の6番目の核実験後の93日にツイッターを送った。
北京のカーネギー・精華グローバル政策センターの北朝鮮問題専門家、ジャオ・トンは、この問題がトランプ訪問にどのような影響を与えるかを述べるには早すぎると述べた。「いまからその時までに多くのことが生じうる。計算を大幅に変える新しい展開が現れるかもしれない。」
しかしながら、ジャオは、金がトランプの到着に手始めにおけるキャンペーンを続けることはほぼ間違いないと述べる。「我々は、多分別の核実験を含めてより多くの試験を見ることになりそうだ・・・・北朝鮮国民が(最近の国連制裁からの)本当に痛みを感じるのに長くはかからないだろう。そこで、私の考えでは、北朝鮮の戦略は、彼らが本当の問題に国内的に直面する前のこの非常に短い時間を使うこと、彼らの核・ミサイル計画を完全に終えること、基軸的技術のすべてを達成することとなろう。彼らは、急いで自分たちにとって最も重要な実験を実施し、そして次にす速く自分たちの立場を柔弱化し、外交にやって来るだろう。」
アメリカの国連大使、ニキ・ヘイリーは、危機に対するワシントンの望ましい解決は外交と制裁を通してであったと述べたが、マクマスターの強いレトリックを繰り返して述べた。「我々が見ているものは、彼らは挑発的であり続けていること、彼らは無謀であり続けており、また貿易の90%と石油の30%を削減した時点でも、安全保障会議がここからなすことのできることは一切ない。」
トランプは、「この脅迫に対処するための我々の選択がこれまでより効果的で、かつ圧倒的であることをいっそう確信している」と述べた。彼は、ワシントンの近くのアンドリューズ合同基地から語ったとき、北朝鮮が「ふたたびその隣人に、そして国際社会にその徹底的なる侮辱を示した」と述べた。
ロシアの国連大使、ヴァシリー・ネベンジアは、合衆国が北朝鮮との協議、ワシントンがこれまで除外してきた何かを始める必要があると述べた。彼は、「我々は合衆国のパートナーと他の人たちに解決で提供される政治的、外交的な解決を実行することを求めた」と 安全保障会議後にリポーターに語った。「これを実行しなければ、我々は問題の解決に従順ではないと考えるだろう。」
直接対話の展望について尋ねられると、ホワイトハウス報道官は語った。「大統領とその国家安全保障チームが繰り返し述べたように、今は北朝鮮に話をする時間ではない」と。
韓国の文大統領もまた北との対話がこの時点で不可能だと語った。彼は、担当者に電磁パルスと生化学的な攻撃を含めて、可能な新しい北朝鮮の脅威を分析し、それに備えることを命じた。
195053年の朝鮮戦争が講和条約ではなく停戦で終わっているので、合衆国および韓国は技術的に阿まだ北朝鮮と戦争状態にある。北朝鮮は、韓国に28,500人の軍隊を持っている合衆国が韓国を侵略し、規則的に韓国とそのアジアの同盟国の破壊を計画していると非難している。

ロイター寄稿

The Guardian  15 September 2017.
The United States must stop threatening North Korea’s leader if a peaceful solution to the nuclear crisis is to be found, China’s ambassador to Washington has said, as Kim Jong-un reiterated his country’s aim to reach military “equilibrium” with the US.
Cui Tiankai told reporters in Washington: “They [the US] should refrain from issuing more threats. They should do more to find effective ways to resume dialogue and negotiation.”
“Honestly, I think the United States should be doing … much more than now, so that there’s real effective international cooperation on this issue.”
North Korea’s state news agency, KCNA on Saturday quoted Kim as saying: “Our final goal is to establish the equilibrium of real force with the US and make the US rulers dare not talk about military option.”
US warns of military option if North Korea nuclear and missile tests continue

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The US warned on Friday it could revert to military options if the latest sanctions fail to curb North Korean missile and nuclear tests, after Pyongyang fired a missile over Japan for the second time in two weeks.
US national security advisor HR McMaster said: “We have been kicking the can down the road and we’re out of road. For those who have been commenting about the lack of a military option – there is a military option. Now, it’s not what we prefer to do, so what we have to do is call on all nations to do everything we can to address this global problem, short of war.”
Earlier, the US secretary of state, Rex Tillerson urged Russia and China to “indicate their intolerance for these reckless missile launches by taking direct actions of their own”.
The Chinese ambassador was speaking after Pyongyang fired a missile over Japan for the second time in two weeks a move the UN security council said it “strongly condemned”.
Those who tied the knots are responsible for untying [them]
China foreign ministry spokeswoman
Speaking in Beijing, a foreign ministry spokeswoman said China opposed the launch but also urged the US to change its tactics towards Pyongyang. “China is not to blame for the escalation of tensions. China does not hold the key to resolving the Korean peninsula nuclear issue, either. Those who tied the knots are responsible for untying [them].”
The North Korea issue is likely to take centre stage during Donald Trump’s anticipated state visit to China in November.
For months Trump has been struggling to convince Beijing to do more to help him rein in Kim’s regime, using a mixture of public flattery and Twitter diplomacy in his bid to win over the Chinese president, Xi Jinping.
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“North Korea is a rogue nation which has become a great threat and embarrassment to China, which is trying to help but with little success,” Trump tweeted on 3 September after Pyongyang’s sixth nuclear test.
Zhao Tong, a North Korea expert at Beijing’s Carnegie–Tsinghua Center for Global Policy, said it was too early to tell how the issue might affect Trump’s visit. “Many things can happen between now and then. New developments can emerge that seriously change the calculations,” he said.
However, Zhao said it was almost certain Kim would continue his campaign in the lead-up to Trump’s arrival. “We are likely to see more tests, maybe including another nuclear tests … It won’t take long before the North Koreans really feel the pain [from the recent UN sanctions]. So I think the North Korean strategy is to use this very short time before they face real problems domestically, to completely conclude their nuclear and missile programs, to achieve all of the key technologies … So they are likely accelerate and to conduct the tests that are most important for them and then quickly soften their position and come to diplomacy.”
The US ambassador to the UN, Nikki Haley, echoed McMaster’s strong rhetoric, even as she said Washington’s preferred resolution to the crisis was through diplomacy and sanctions. “What we are seeing is, they are continuing to be provocative, they are continuing to be reckless and at that point there’s not a whole lot the security council is going to be able to do from here, when you’ve cut 90% of the trade and 30% of the oil,” Haley said.
Trump said he was “more confident than ever that our options in addressing this threat are both effective and overwhelming”. Speaking from Joint Base Andrews near Washington he said North Korea “has once again shown its utter contempt for its neighbours and for the entire world community”.
Russia’s UN ambassador, Vassily Nebenzia, said the US needed to begin talks with North Korea, something that Washington has so far ruled out. “We called on our US partners and others to implement political and diplomatic solutions that are provided for in the resolution,” Nebenzia told reporters after the security council meeting. “Without implementing this, we also will consider it as a non-compliance with the resolution.”
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Asked about the prospect for direct talks, a White House spokesman said: “As the president and his national security team have repeatedly said, now is not the time to talk to North Korea.”
South Korean president Moon Jae-in also said dialogue with the North was impossible at this point. He ordered officials to analyse and prepare for possible new North Korean threats, including electromagnetic pulse and biochemical attacks.
The US and South Korea are technically still at war with North Korea because the 1950-53 Korean conflict ended with a truce and not a peace treaty. The North accuses the US, which has 28,500 troops in South Korea, of planning to invade and regularly threatens to destroy it and its Asian allies.

Reuters contributed to this report

2017年9月6日水曜日

法人企業統計から見る 「アベノミクス」と賃金圧縮の持続 破綻に向かう日本社会

 現在の問題をはっきりさせるために、日本の法人企業(会社)が従業員に対してどのような態度をとっているかを見ておこう。ここでは財務省の法人企業統計を利用する。
 この統計から明らかになることを、あらかじめ結論的に言うと、20世紀末に始まった「賃金圧縮」は依然として続いており、従業員の賃金所得が抑制されていることが注目される。また、そのため労働者世帯の家計消費支出は抑制される傾向が続いている。

 まず下図から、中長期的な趨勢をみると、法人企業の給与総額は、2003年~2006年の上昇を除いて、20世紀末から現在に至るまで低下トレンドを示している。2006年に150兆円ほどに達していた給与総額(統計の不備のため賞与を除く)は150兆円に達した後、2013年に125兆円にまで低下した。ただし、2013年以降は若干回復しているが、これについては後に詳しく検討する。
 

 賃金が圧縮されていることは、従業員一人あたりの給与額を見ると、いっそう明らかになる。下図は、給与総額を従業員数で割って得た「一人あたりの給与額」を示す。ただし、法人企業統計の従業員数は実数ではなく、短時間雇用者については、正規雇用者等の標準的な労働時間を規準とした換算値である。しかし、実際にはよく知られているように、低賃金の非正規雇用はますます増加している。そこで、「労働力調査」が示す実数値を参考にしながら、修正値(推定値)を計算してみた。言うまでもなく、これによって実際の一人あたり給与額が全般的に低下するだけではなく、(非正規雇用が増え続けているので)トレンドにも影響を与える。
 さらに、内閣府の公表している「消費者物価指数」を用いて、一人あたりの給与額(実質)を計算してみた。
  

 


 一人あたりの実質賃金が20世紀末から低下していること、また安倍政権が成立してからも低下しつづけていることが確認される。
 賃金が圧縮されつづけていることは、賃金シェアの一貫した低下からもうかがえる。ここで賃金シェアというのは、生産された付加価値総額に対する給与総額(給与+賞与)の割合のことを示すが、賞与についての統計数値が2006年以前については示されていないので、参考のために給与のみの場合の数値も示す。この賃金シェア(賃金分配率)も20世紀末から一貫して低下のトレンドを示している。しかも、安倍政権成立以降、むしろこの傾向は強くなっている。
 

 さて、最後に述べておきたいのは、こうした賃金所得の圧縮に対して、労働者世帯がとりうる対策である。
 勤労者世帯は、新古典派経済学の教義とは反対に、賃金率が低下したとき、労働時間を増やすことによって所得の著しい低下に対応することは、よく知られた事実である。
 そして、これは、一方で会社が賃金圧縮を実施するために正規雇用を減らし、低賃金の非正規雇用を増やそうとする政策を取り、他方で労働者世帯が非正規の短時間雇用という形で労働時間を増やそうとしている日本の経済社会の変化をよく説明する。
 
 しかし、労働供給は無限に増やせるわけではない。よく知られているように、現在「生産年齢人口」は減少しつつある。すでに、多くの地域では、労働力不足が深刻化していることが明らかになってきている。しかも、現在の「生産年齢人口」が減少しつつあるだけではなく、賃金圧縮が少子化をいっそうすすめることによって将来の「生産年齢人口」をも急速に減少させるように作用しているのである。

 現実の経済社会においては、深刻な社会的問題が生じたときに、いつも問題を正しく解決する方向に向かって対応策がとられるわけではない。むしろ逆の方向、問題を深刻化させる方向に向かうことが多い。現在の日本もそうである。
 社会が完全に破綻するまで突き進むのだろうか? きわめて憂慮するべき事態であることは間違いない。

2017年8月11日金曜日

2010年以降の自殺者の減少は本当か?

【厚生労働省人口動態統計より】
 少し物騒な話しだが、人口動態統計から自殺に関する統計について疑問点を示すこととする。どこの国でも、自殺者の増減は経済状況と密接に関連していることが指摘されてきた。
 実際、日本では、自殺者は、低賃金・非正規雇用の急速に増加しはじめた1997年頃に急増した。しかし、2009年頃からはすこしづつ減少してきた。もちろん減少するのはよいことである。だが、現実が本当にそうなのか疑わせる証言やデータがある。証言とは、自殺とは遺書を残したケースに限られるというものである。
 厚生労働省のデータでは、自殺率の低下と対照的に「変死」(下図参照)に結びつくと思われる死因がずっと上昇してきている。しかも、「不慮の事故(交通事故を除く)」はリーマンショック直後の2010年に増加し、翌年に2万人(3.11被災者数にほぼ等しい)ほど増えたのち、2012年に低下しているが、その後は2011年頃の水準にとどまっている。このように「不慮の事故」等が徐々に増加してきた理由とは何だろうか?
 警察は、2010年頃に自殺者を減らす運動をはじめている。しかし、それが統計上の「操作」ではないと断定するには多くの疑問が残る。



2017年8月7日月曜日

加計学園 疑惑の構図 2 獣医学教育改革の方向性に関する文科省の意見(2012年、他)

 加計学園問題を考えるとき、これまで文科省が獣医学教育についてどのように考えていたかが大いに参考になります。
 これに関係する文書は、多数存在しますが、例えば次の文書(2012年)を参照してもらえば、文科省の考え方がよく分かります。(それの是非はここでは詳しく問いませんが、おそらく文科省のいう通りだったのでしょう。)この種の文書は、獣医学部を持つ大学と文科省との間で頻繁に交わされていたこと、間違いありません。

http://plaza.umin.ac.jp/~vetedu/files/kaikakusympo-3kakizawa.pdf

 こうした文書に共通して見られるのは、現状を改革する必要への言及であり、特に現在の教育が国際的レベルの獣医師を育てるには不足しており、そのために(国際的レベルの獣医師を教育するために)いつつかの施策を実現する必要があるという意見です。またそのために、例えば大学間連携の必要性がるという指摘です。
 いずれにせよ、獣医師が不足しているなどという認識はまったく見られません。まったく逆であり、これは構造改革特区への今治市の認可申請(2007年~2011年)に際して文科省が反対意見を表明している文書でも明らかです。
 まさに愛媛県・今治市、加計学園にとっては、どうしても崩すことのできない「岩盤」が存在したわけです。

 そして、それを崩すには、まず国家戦略特区で今治市の獣医学部を先行して認可しておいて、後から文科省に認可するように圧力をかけるという方法しか残されていなかったということもよく理解できます。国家戦略特区制度には、本ブログでも示したように、構造改革特区とは異なって、「総理の主導」「トップダウン」が決定されていました。<特区で認可しておき、公募で事業者(加計学園)に申請させれば、文科省も拒絶はできないだろう。> これうした目論見、構図がさらにはっきりと見えてきます。
 まさに「男たちの悪巧み」に他なりません。


加計学園 疑惑の構図 1 「男たちの悪巧み」の意味 作戦変更

 加計学園をめぐる疑惑について調べてきましたが、私なりに分かったことがあるので、少し疑惑の構図について触れてみることとします。

 まず2015年のクリスマス・イブ(12月24日)に昭恵氏(安倍首相夫人)がフェイスブックで「男たちの悪巧み・・・(?)」とつぶやいたことを取りあげます。ネットでは、広く知られているので、詳しくはそちらに譲ることにしますが、安倍首相と加計孝太郎(加計学園理事長)の他に、高橋精一郎(三井住友銀行副頭取)、増岡聡一郎(鉄鋼ビルディング専務)の4人が酒を飲んでいる写真が掲載されています(下図)。


 これは4人のネポティズム(縁故関係)を示すものに相違ありませんが、私が注目するのは、「悪巧み」という表現です。実際、これは「悪巧み」に違いないでしょう。あるいは、作戦変更というべきかもしれません。そのことは、今治市の獣医学部開設に関する経過を時系列的に追うことによって、自ずから明らかになってきます。

 さて、現在、問題となっているのは、2014年にはじまる国家戦略特区に関わっていますが、その前に構造改革特区の制度がありました。小泉「構造改革」とともに始まった制度です。
 この構造改革特区に2007年度(第12次申請)から2013年度(第24次申請)にかけて今治市が獣医学部開設の新設申請を行っています。これは周知の事柄であり、今治市のホームページに提出資料が掲載されています。また2007年(第12次)から2009年(第17次)については、はっきりと予定事業者として岡山理科大学(加計学園運営)の名前を出して申請しており、これは文書に記されています。2007年というと、安倍晋三氏が首相(総理大臣)に就任した年です(9月26日)。

  http://www.city.imabari.ehime.jp/kikaku/kouzoukaikaku_tokku/
 
 ちなみに、構造改革特区の側の資料では、2007年~2007年の「申請状況一覧」が現在削除されています。「ページは移動しました」となっていますが、指示通り他のページをみても、ぐるぐる回るだけで、文書は出来てきません。しかし、これについては、措いておきましょう。


 加計学園を予定事業者とした申請はすべて却下されました。
 その理由を示す文書がやはり先に紹介した今治市のサイトに載っています。
 その一部をあげておきます。
 
 「現在、政府においては、6月を目途に取りまとめられる「新成長戦略」のなかで、ライフ・イノベーションによる健康大国戦略等を検討するとしています。 獣医師は、感染症の予防・診断、医薬品の開発、食の安全性の確保等において重要な役割を担っており、上記の検討の中で、獣医師養成の在り方についても、新たな視点から対応を検討してまいります。
 文部科学省としては、獣医関係学部・学科の入学定員について、獣医師養成が6年間を必要とする高度専門職業人養成であり、他の高度専門職と同様に全国的見地から、獣医師養成機能をもつ大学全体の課題として対応することが適切であります。
 このため、ご提案を特区制度を活用して実現することは困難であると考えます。」

 実際、政府(文科省を中心に)既存大学の獣医学部を活用した獣医師の新たな、ハイレベルな養成方法について検討し、実現しようとしていました。というのは、岡山理大が獣医学部を開設した場合、レベルの低下を招くことはあっても、国際化に対応した獣医師の養成など不可能と判断していたからです。(これらの詳細については、後に詳しく触れる機会を持ちたいと思います。)
 今治市は、繰り返し繰り返し同じ要望書を提出し、今治市を中心とする広域的な地域に獣医師養成大学・学部が存在しないこと、これが数十年来の今治市の要望であると主張しましたが、認可基準・設置基準を満たしていないという政府や文科省の判断を変えることはありませんでした。

 ところが、です。安倍晋三氏が再度首相(総理大臣)に返り咲き、しかも特区制度も「総理の主導」・「トップダウン」で「異次元のスピード」で岩盤規制を掘り崩すという「国家戦略特区」の制度に変わりました(2014年)。しかも、新制度では、国・自治体・民間が「対峙せず」、一体となって進めるということも決定されています。

 ここで作戦が変更されたわけです。その要点は、(1)最初に国家戦略特区で今治市に獣医学部開設の特区地域として認定する。その際、あえて岡山理大(加計学園)の名前を予定事業者とあげることはしない。それは作戦上どうでもよい。今治市に獣医学部開設の特区を認定することが重要である。そして(2)次に特区事業者の公募をする。これも出来レースだから、公募期間は短期間の方がよい。他の大学が公募してきては困るから。もちろん、応募するのは岡山理大だけにしたいが、他の大学が応募してきてもつぶせばよい。最後に(3)文科省の設置審にかけ、認可させればよい。文科省が難色を示すだろうが、首相官邸からの圧力をかける。こんなところでしょう。

 実際、この作戦通り事は進行しましたーーただし、途中まで。
 しかし、まず第一に、京産大が公募してきました。しかし、これは例の「広域的云々」(云々を国会で「でんでん」と読んだアホ首相がいますが、これも別の機会に詳しく)でつぶされました。第二に、予想通り、文科省(前川次官など)が難色を示しました(国家戦略特区の文書「日本再興戦略」の表現では、「対峙」しました。)そこで、設置審の応募期日(2017年3月31日)に間に合うように、2016年8月~10月にかけて、和泉、萩生田、木曽などの諸氏が文科省にさかんに圧力をかけました。「首相の御意向」だから聞けというわけです。
 そして、前川次官は辞任させられましたが、ついに内情を暴露する文書が公表され、前川氏の爆弾発言(いわゆる前川砲)がありました。
 文科相は、文書を隠匿するために必死になり、虚偽の答弁を繰り返しました。
 菅官房長官は、「怪文書」発言をしました。
 読売新聞は、前川氏の個人攻撃をしましたが、これは前川発言の価値をおとしめるために行ったことであり、官邸との相談なしには出来なかったことと推測できます。(警察出身の官邸の当局者が関与していたでしょう。)
 安倍首相は、もちろんすでに2007年から事情をよく知っていました。また事情に通じている人は誰でもそのことを知っていました。そこで、当初は、「急な質問」でもあり、より「整理せずに」答えたため、2015年6月の特区申請の段階で知っていると答えるしかありえませんでした。(当然でしょう。もし知らなかったと言ったら、皆が「嘘つき」と言ったでしょう)。しかし、その後、2016年夏に行われた「首相の御意向」を文科省に伝え、圧力をかけたという事実はない(かりに圧力があったとしても、それは自分の知らないところで他の人によって忖度によって行われたものだ)という趣旨のシナリオに変更せざるをえなくなりました。しかし、そのために、さらに嘘の上塗りをしなければならなくなりました。今年(2017年)1月20日まで予定事業者が加計学園と知らなかったという閉会中審査の答弁です。このシナリオ変更は、国会の閉会中審査の直前に首相秘書官によって念入りに作成され、首相にレクチャーされたという情報もあります。

 これが時系列を追って見た加計学園問題の展開の要点です。
 この裏には安倍首相とその周辺、加計学園、愛媛県・今治市、その他のネポティズム(縁故関係)と利権の構図が見え隠れしています(下図参照)。
 この利権の構図をより詳しく見ながら、上記の作戦がどのように進行したかを、さらにこの問題を追求していきたいと思います。

 

 (この項目続く)
 

2017年8月2日水曜日

破綻にむけて東芝の背中を押した人物 今井尚哉

 
 東芝がなぜ不良企業のWHを購入したのか、またWHがこれまた7000億円もの損失を出していた不良企業のS&Wを高い「のれん」代まで出して買ったのか?
 その裏には経産省があり、ある人物がいた。また「原発輸出」を推進してきた安倍首相がいた。

 今井尚哉 経産省出身・首相秘書官
  今井敬(元経団連会長)の甥
  今井善衛(元経産事務次官)の甥
  安倍首相の片腕・最も信頼する人物

https://www.businessinsider.jp/post-100588

2017年8月1日火曜日

国家戦略特区とは? そもそも総理大臣の「トップダウン」で進める歪んだ制度+ネポティズム

 国家戦略特区とは何か?
 それは前のブログでも書いたように(また2013年6月14日の日本経済生産本部の会議資料、『日本再興戦略(案)』に記されているように)、そもそも総理大臣(首相)の主導により、また総理大臣のトップダウン方式により、「異次元のスピード」で、国・自治体・民間の三者が一体となって、進める制度だった。最初からそのように設計されていたのである。
 三橋氏も言うように、最初から歪んだ制度設計にもとづいていたというしかない。
 
 それでも、それは公式にオーソライズされていたのだから、安倍首相は、やましいところがなければ、「私の主導により特区会議で決定し、スピード感をもって、かつ三者が対峙するのでなく、一体となって進めました」といえばよい。
 
 ところが、いったん2015年6月に知ったといいながら、国会の閉会中審査では、それを否定し、今年1月20日まで知らなかったと訂正した。「急な質問で」とか、「整理して」とか余計に疑われるような言葉を使ってまで、今年1月まで知らなかったことにしている。
 これは、やましいことがあったことを自ら表明しているようなものだ。
 どんなやましいことがあったのだろうか?
 もちろん、ネポティズム(縁故関係)にもとづく利権だろうということは容易に想像できる。実際、国会の審議からも、新聞報道や市民の情報などから、様々な疑惑が次々に明らかになってきている。
 その関係を整理すると、国(首相、内閣府、特区会議、官邸など)、自治体(今治市)、加計学園(千葉科学大学、岡山理大など)の三者間の関係にまとめられる。
 
 1,国と自治体
 2,自治体(今治市)と加計学園
 3,加計学園と国(首相、内閣府、官邸、特区会議)
 
 まだ全容は明らかになっていないが、それぞれについて材料はそろってきている。問題となるのは、言うまでもなく、2と3であるが、1も2と3を明らかにする傍証として重要となる。

破滅的インフレが生じたとき  1 ドイツ 1921~1923年のハイパー・インフレーション

 日本の金融・財政が破綻したならば、すさまじいインフレーションが生じ、金融資産(預金や株式、国債など)が失われてしまうのではないかと心配する人が多いかもしれません。実際にどうなるかは措いておき、過去のハイパー・インフレーション、ハイ・インフレーションがどのように生じ、どうなったかを、検討しておきましょう。

 まずは、1921年~1923年にかけて生じたドイツのハイパー・インフレのケース。
 
 話しをさかのぼればキリがありませんが、とりあえず1919年にパリのベルサイユ宮殿で結ばれたヴェルサイユ条約を出発点にとります。
 この会議では、ドイツが英仏をはじめとする連合国側に巨額の賠償金を支払うことを約束させられました。その額は、なんと66億英ポンド(£)であり、当時(1920年~1921年初)の為替相場では、1ポンド=240マルクほどでしたから、1兆5840億マルクに相当しました。仮に戦前の平価(1£=20マルク)で計算しても、132億英マルクです。この天文額的数字を支払うことは不可能でしたが、一年に1億英ポンドを支払い続けても、1921年から1987年(!)まで支払いつづけるなければなりません。これが想像を絶する額だったことは、多くの研究によって明らかにされています。

 もちろん、これがドイツ経済を破滅に追いやり、後にドイツにナチス(全体主義)を台頭させる要因の一つになることはよく知られていると思います。ヴェルサイユ講和交渉にイギリスの委員として参加したジョン・ケインズがこれに反対し、警鐘をならし、後の世にとんでもない災いをもたらすと批判したことは有名な話しです。
 当時、ドイツでは、社会民主党(SPD)・カトリック中央党・民主党の3党が「ワイマール連合」を形成しており、世界でもっとも民主的といわれた「ワイマール憲法」の下で、当初は国民多数の支持を得ていましたが、しだいに信頼をうしなってゆきます。
 1920年代には、このワイマール連合の他に、ドイツ共産党(KPD、左派)、国家人民党(帝政派)、ナチス党がありました。このうちドイツ共産党は、第一次世界大戦の勃発に際して社会民主党がそれまでの反戦の主張をくつがえし、戦争に協力したことを批判した人々が抜け出して結成して党です。これに対して国家人民党とナチスは、協力関係にあった党派(極右派)でした。
 さて、ハイパー・インフレですが、それは1921年にドイツが賠償金を支払いはじめたことから始まります。1921年、ドイツは20億金マルクの支払いを実施します。もちろん、それを行うためには、支払いのためにマルクを売り、外貨(£やフランやドル)を買わなければなりません。そのために、ドイツ・マルクの価値はしだいに減価していきます。(下表を参照。)1921年1月に1£=215~262マルクだった相場は、1922年1月には790~862にまで減価しています。しかし、それでもドイツ政府は、外貨では支払うことができずに、現物(石炭、鉄、木材)で支払いをしました。
 こんな状況では、第2回の支払いが行えるはずもありませんでした。ドイツが価値の下がったマルクを売り、外貨を得ようと涙ぐましい努力をしている間に、マルクの対外価値はさらに下がってゆきます。1922年12月には、ついに1ポンド=31,000~ 39,000マルクになりました。ドイツが支払いをすることができないことは誰にとっても明らかでした。この間、ドイツは賠償金の500億マルクへの減額を求めますが、フランスによって拒否されます。ここで事件が起きます。1923年1月、フランスとベルギーは、ルール地帯(ドイツ領)を占領しました。これに対して、政府の国民に対する訴えもあり、ドイツ国民は抵抗し、132人が殺され、15万人が追放されたとされています。
 このような状況の中で、それまでドイツ経済に期待を持っていた外資(外貨)も流出し、ドイツマルクの減価はいっそう進みました。1923年末には、実に1£=15~25兆マルクになっています。マルクの価値は、1000億分の1に低下したことになります。


http://www.history.ucsb.edu/faculty/marcuse/projects/currency.htm

 このように1923年のドイツのハイパー・インフレーションは、戦争とそれにともなう巨額の賠償金支払い、外国軍による軍事的占領によって、もたらされたものでしたが、ここで注意しなければならないことがいくつかあります。
 その一つは、このような外からもたらされたインフレであっても、それが実体経済を破損し、いっそうインフレーションを加速するということです。占領と受動的抵抗運動、一揆、生産の低下にもかかわらず、ドイツ政府は、ルール地域の労働者に生活のための資金を提供しなければなりませんでした。つまり、生産の縮小と、それにもかかわらず、貨幣量(→名目購買額)が増加したのであり、それが賠償金支払いに加えて、インフレをいっそう加速する要因になりました。もちろん、政府がそのために使ったお金は、ドイツの中央銀行によって供給されたものです。
 ただし、ひとたびハイパーインフレーションが生じてしまうと、貨幣供給とインフレーションとの因果関係は逆転してしまいます。つまり、貨幣量が増えるから、インフレーションが進行するのではなく、インフレーションが進行し、貨幣量を増やさなければ対応できないという関係に変わるのです。その証拠はいくつかありますが、名目貨幣量(総額)急激に増えているにもかかわらず、多くの人には不思議にみえる「貨幣不足」が生じることです。そのため、「バーター取引」(つまり貨幣を介さない現物取引)があちこちで生じることになります。こうした現象は、ロシア革命後のソヴェト・ロシアでも生じましたし、1989年のソ連崩壊後のロシアでも生じており、「謎」とされていました。
 しかし、このことは、統計的には、Y=名目GDP、M=貨幣量(貨幣ストック)としたとき、その比 M/Y がしだいに低下してゆくことによって示されます。これはもはや中央銀行が貨幣供給量を増やすからインフレーションが進行するのではなく、むしろ中央銀行はそれを抑えようとしても、物価が激しく上昇するとともに貨幣需要が急速に拡大するので、貨幣を供給せざるを得なくなる、ということです。見方を変えると、これは貨幣の流通速度(V)が速くなるということもできる現象です*。
 *かりに資産取引を無視すると、Y/M(M/Yの逆数)は、流通速度の定義に他なりません。「貨幣不足」の現象は、V=Y/Mの式に、時間の要素を取り入れれば、簡単に説明できますが、ここでは省略します。ただし、ある時期tにおけるVt=Yt/Mt を考え、仮にこの時期に均衡が成立しても、次の時期までに物価が上昇し、Yt+1が激しく増加するのに対して、Mt+1がその率(ペース)で上昇しないので、Vt+1が増加すると考えれば理解可能となります。
 このことは、ハイパーインフレーションの中で、中央銀行が実質的には「タイトな金融政策」をとることになることにもつながってきます。 

 もう一つ重要なことは、しかし、ドイツの中央銀行がこの経験をいまでも引きずっており、インフレーションに対して極度に警戒的であり、また(彼らがインフレーションの原因と考える)貨幣量の増加に対して大きな注意を払っていることです。特に名目賃金の増加に対する警戒感にはかなり強いものがあります。これについては、別の文脈で触れたことがあるので、ここでは割愛します。
  

安倍政権 毎日のように出てくる、これだけの大問題

安倍政権が誕生してから、毎日のように、これでもかこれでもかと、次々に出てくる大問題。
 私も「整理」するために列挙してみました。
 よくこんな政権が日本で生まれ、カラクリはあったものの、長らく高支持率を得てきたものと思います。


アベノミクスの終焉 日銀金融緩和の「出口」について 1 

 黒田日銀による「異次元の金融緩和」の結果、日銀の総資産が異常に増加し、そのGDPに対する割合がほぼ100パーセントに達している。東京新聞(昨日)の数値では、93.6%とされている。
 これは、日銀が市中銀行にマネー(ベースマネー)を供給するために、国債を購入したことが最大の要因だが、その他に日銀はETFなどの株式の購入を行っている。日銀ではないが、GPIF(公的年金基金)も株式による資産運用を行っており、日銀資金とGPIFによる「官制相場」が形成されてきたことは、本ブログでも紹介してきたところだ。
 金利もぎりぎりのところまで引き下げられている。
 
 安倍首相や黒田日銀総裁の最初の約束では、こうした「異次元の金融緩和」は「インフレターゲット」と呼ばれる政策目標によるものであり、この政策目標を2015年4月までに実現すれば、政策の役割は終わるとしていた。
 「インフレターゲット」とは物価が毎年2パーセントずつ上がるように貨幣量(貨幣ストック)を増やして行き、また人々がそれを「期待」して(実質)消費支出を増やしてゆけば、景気がよくなり、賃金も利潤も増え、景気の「好循環」が生じるというアイデアである。

 しかし、 このようなことは絵空事であり、実際には生じなかった。物価上昇率に限ってみても、下図(東京新聞より)のように、物価は最初の2013年~2014年に最高時で1.5パーセントほど上昇しているが、これとて円安・ドル高による輸入品価格の高騰、そして消費増税によるものであり、「インフレターゲット」論の主張とは真逆に、物価上昇は庶民の財布のひもを堅くし、消費(実質)は減少し、物価上昇率もマイナスになった。すでに、この時点で「インフレターゲット」論も、「異次元の金融緩和」政策も終わっていたのである。

東京新聞、2015年7月31日より。 

 だが、政治生命のかかった安倍首相はもちろん、日銀も政策をやめず、約束をやぶって継続し、目標実施を6度も延期してきた。2016年には「マイナス金利」政策を実施している。
 
 さて、問題は、これまでの金融政策(主に貨幣政策)が効果をあげなかったので、やめますといって済むわけではないという点にある。例えれば、体調不良だからといって薬を飲んできたけれど、「効かないから今日からやめます」といってただやめれば、服薬の場合はそれでもよいかもしれないが、金融政策の場合は、それで終わりというわけではないのと同じである。
 
 さて、いわゆる「出口」(金融緩和の終了)問題といわれる問題があり、数々のリスクが指摘されてきた。
 もちろんリスクは不確実なものであるから、「必ずこうなります」と言って指摘できる性格のものではない。が、リスクが存在するのは厳とした事実である。
 そうしたリスクは、金融緩和政策の関係主体、日銀、市中銀行、政府のそれぞれにあるが、それを通じて経済全体に及ぶ。かりに日銀、銀行、GPIF、政府が危機的な状況に陥れば、日本経済が無傷では済まないことは、誰にでもわかるだろう。

 「出口」(金融緩和政策の終了)がどのような出来事をもたらすかを考えるには、少し想像力が必要である。それはさしあたり、日銀が国債購入も、ETF等の株式投資をやめる、あるいは国債や株式を売却することと並んで、金利(日銀当座預金の金利)引き上げを行うと想定する。それらが何をもたらすか、である。周知のように、2016年1月に日銀は、「マイナス金利」を導入したが、市場経済で、国債の利回りはもちろん、日銀当座預金でも金利がゼロ、あるいはマイナスということは異常である。質的・量的な緩和の終了は、金利の引き上げにつながると想定しなければならない。

 まず日銀であるが、少し金利が上がれば、たちまち日銀は赤字に陥る。というのは、金融緩和で市中銀行に供給された巨額のマネーは、日銀当座預金の勘定に積み上げられている(6月360兆円以上)。


 
 仮にごくわずか、例えば 0.1 パーセントの金利上昇でも、36兆円の金利負担増につながる。日銀は債務超過の状態に陥り、その穴埋めを誰が行うのかという問題が生じる。債務超過とは、負債が資産を超える状態(マイナスの純資産)であり、企業にとっては危機的な状態である。
 ちなみに、日銀は国有銀行ではないかと思っている人がたまにいるようだが、「銀行の銀行」、公的銀行であることは確かだが、民間銀行であり、株式(1億円)も発行している。
 もしその穴埋めを銀行が行う場合は、企業等に対する貸付金利をいっそう引きあげざるを得ないだろう。まさか、市中銀行に預金している人に「マイナス金利」を課すわけにはいかないだろう。そんなことをすれば市中銀行発の金融大混乱をひきおこすに違いないし、社会的に許されないだろう。
 一方、政府が穴埋めを行う場合には、結局、政府はそれを国民に租税負担の形で転嫁するしかない。しかし、政府にはそれ以上の大きな問題が生じることになる。というのは、日銀が政府の巨大な借金(国債)の引き受けをやめると、「市場」からもう借金を返せない(国債)を償還できないとみなされれば、新たな国債発行が不可能となり、金利の急騰、国債価格の低下、円の暴落、激しいインフレーションなど、経済的大混乱が生じる懸念がある。言うまでもなく、実体経済(生産、所得、雇用)にも大混乱が生じることになる。また国債を日銀に売却してきたとはいえ、市中銀行も保険会社もまだ大量の国債を持っている。国債価格が下がれば、損失が生まれ、こちらの経路からも混乱が生じる懸念がある。本当になれば、恐ろしい限りである。
 
 こうした事態は現在のところ「懸念」にとどまっている。
 しかし、これは次のことを明確に示している。
 1、「異次元の金融緩和」は、いったんはじめてしまったら、簡単にはやめられないということである。麻薬中毒のようなものである。続ければ、身体をむしばんでゆく。といって、やめれば身体中を塗炭の苦しみが襲う。
 2、それでも、こうした金融緩和政策(アベノミクス)が表面上何の問題もないかのように維持されているのは、情報の不完全性、経済現象の本質的な「不確実性」のためである。もし人々が完璧に正確な情報を手にし、それにもとづいて将来の姿を合理的に期待するならば、国債を保有することの危険性を知り、合理的に行動する(つまり、国債を購入することをやめ、保有する国債を売る)ことによって、問題が露呈するだろう。

 しかし、確かに日銀も政府も、生身の人間(個人)と違って、永続的な組織であり、(多分)死ぬことはない。したがって(いま利子の問題を考えないとすると)政府や日銀を信頼して、借りる人さえいれば、借金を先送りすることができる。理論上(?)は、100年だろうが、1000年だろうが先送りすることができることになろう。ただし、どのような出来事がその信頼を失わせることになるかは不明である。周知のように、日本の戦前・戦時中の政府の赤字財政が破綻したのは、1945年の敗戦をきっかけとしていた。破綻をもたらすきっかけがどのようなものかを予測することはできない。
 
 (この項目、続く)
 

2017年7月31日月曜日

政府の成長戦略と加計学園問題の構図

 先日あげたブログの内容をわかりやくするために、簡単に図示しました。
 国家戦略特区では、成長戦略を加速するために、次の3つ(左)を行うのだそうです。まさに加計学園(右)がぴったり。
 



2017年7月30日日曜日

安倍氏の経済政策の経済的帰結 24 森友・加計の根源 経済再生本部の2013年6月14日会議 「日本復興戦略(案)」

 安倍首相が立ち上げた経済再生本部(議長:安倍首相)というものがある。
 「経済再生」だから、日本経済が荒廃していることを認めた上での組織だろう。その2013年6月14日の会議に提出された資料の「日本再興戦略(案)」というネーミングからも日本社会・日本経済が荒廃しているから復興させようというコンセプトがうかがわれる。
 そこで、そもそもこんな日本にしたのはいったい誰なのかを問いたくもなるが、
それは措いておき、ここでは日本復興戦略会議の成長戦略の実現方法を述べた部分を紹介しよう。
  
 「3 成長戦略をどう実現してゆくか?」では、まず「(1)異次元のスピードによる政策実行」となっている。「異次元のスピード」というのは、日銀の「異次元の金融緩和」(量的・質的緩和)を思い出させるが、いったいどんなスピードだろうか? 経済生産本部の会議では、別の会議でも、「スピード感」「スピーディ」にという語句がしばしばでてくる。
 それはさて、それに続くのが「(2)国家戦略特区」を突破口とする改革加速」であり、全文を紹介すると次の通りである。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/dai7/saikou.pdf

 ここでも、「スピード」が繰り返されており、下線部(これは私に引いたもの)のように、その他に、「内閣総理大臣主導で」、「国・自治体・民間の各主体が対峙するのではなく、三者一体となって取り組む」、「内閣総理大臣を長とする」特区会議が「トップダウンですすめるための体制を速やかに確立する」などの言葉が並んでいる。

 なるほど、これはまさに森友学園や加計学園、それに最近指摘されはじめた国際医療福祉大学に関する疑惑で見られた構造そのものではないだろうか?

 まさに、総理の御意向にしたがって、政府(内閣府、特区会議、財務省、財務局、文科省など)、自治体(大阪府、愛媛県、今治市、成田市など)、民間(森友学園、加計学園、国際医療福祉大など)が三者一体となって、「異次元のスピードで」実現してゆくという構図そのものだ。
 
 いずれも総理大臣からのトップダウン方式で実現されている。もっとも、文科省(前川次官)が難色を示した案件もあるが、萩生田氏、木曽氏、和泉氏などが<総理大臣が直接いえないから、私から言う>と総理の意向を着実に伝達している(普通は圧力をかけるという)。そのほかは、自ら「忖度」するか、伝達に忠実にしたがっているらしい。
 自治体や民間との関係も良好らしい。成田市と大学側、今治市と加計学園、総理と加計孝太郎氏、籠池氏と近畿理財局の三者一体の関係は、見ていても、見事というしかない。
 「異次元のスピード」も見事に実現されている。これも実例をあげるのに、事欠かない。一番は、岡山理大(加計学園)獣医学部の2018年4月開学と尻を切ったこと。その他に、国際医療福祉大学でも、開学の尻を切り、パブリックコメントをほんの短い期間に制限し、特区の公募期間も超短期間に制限し、みごと国際医療福祉大学しか公募できないようにするという念の入れようである。
 自治体からの補助金の決定も「異次元のスピード」だ。まだ認定されるずっと前から巨額の補助金が決定されている。その額も巨額である。
 補助金といえば、本来「特区」とか「規制撤廃」というと、政府や自治体の公金の支出を抑えるために、民間にまかせるという「新自由主義」哲学にもとづくもののはずだが、今回の件では、133億円(加計学園)、8億2000万円の土地代値引き(森友学園、瑞穂の國小学校)、103億円の土地・補助金(国際医療福祉大)など、おおばんふるまいの公金が支出されることになっている(またはなっていた)。まさに、これも三者一体を示すモノに他ならない。

 結論:森友、加計疑惑は、まさしく経済再生本部の「日本再興戦略」を忠実に実現したものに他ならない。安倍首相は、いまでもなぜ自分が批判されなければならないのか、反省するどころか、憤懣やるかたないのではないだろうか?

2017年7月28日金曜日

加計学園疑惑 明らかになってきた安倍友利権の構図


 加計学園問題について、「総理の御意向」(関与)が問題となっています。
 これについて、これは大した問題ではないが、首相が「もし私が関与していたら、首相も議員もやめます」といったために、野党が勢いついただけで、大した問題ではない」といった評論家’(田原総一朗)がいます。
 しかし、これは単に総理の意向が設置の認定に影響したかどうか、あるいは、影響するかどうかという小さな問題では決してありません。
 それは安倍首相の「アベノミクス」、「成長戦略」とか「国家戦略特区」の背後に潜んでいる安倍友集団の利権問題です。巨額の税金と公金(無償の土地と96億円!)が将来的に維持できないだろうといわれている安倍友私学法人の経営する一大学・学部のために支出されようとしています。
 しかも、まだ文科省による設置認可が下りたわけではありません。設置申請さえ出されてない段階で(今年2月13日までに)、今治市が巨額の補助金を決定したことも異常です。

 これまでの経緯を時系列的にまとめ、図に示してみると、利権の構造が自ずと浮かび上がってきます。これほどわかりやすいネポティズム(縁故関係)の構造、利権構造も珍しいといってもいいほどです。

 以下の表、図は、新聞の情報による。
 なお、図を一部訂正し「?」を付した。(市議と加計学園との関係の部分)  

安倍氏の経済政策の経済的帰結 23 世界は原発から逃げ、日本は原発を推進し破綻 経産省と原発企業の愚

 前回は、東芝の破綻の経過を簡単にみましたが、それは一言でいえば、世界が原発の危険性に気づき、またより高度の安全性を確保しようとすると、費用が異常に高くなることに気づいて、原発事業を(できる限り「ビジネスライク」に、出来る限り損失を少なく、あるいはより多くの純利得を得ながら)手放そうとしているときに、日本の原発企業は、それに逆行して、巨額の損失を出している不良原発企業を嬉々として買ってきたということに他なりません。
 例えれば、ババ抜きゲームで、皆がババを手放したがっているときに、なぜか日本がババを引いて喜んでいるようなものです。

 どうして喜ぶのか? それは安全神話、希望的観測、現実についての無知、重商主義(原発輸出が成長につながると喜ぶ傾向)など、様々な要因によって説明することができるでしょう。

 1、日本は世界のカモにされている
 世界は原発から逃げ出していますが、その理由の一つは、言うまでもなく、危険性です。スリーマイル島の原発事故(米国、ペンシルベニア州、1979年)、チェルノブイリ(ベラルーシ、1987年)、福島(2011年3月11日)のひどい事故があり、ひどい被害をもたらしました。それはらはまた、いずれも危険性を明らかにしましたが、それだけでなく、また事故の処理や廃炉のために巨額の費用を要することを明らかになりました。またより安全性を高めようとすると、巨額の費用がかかることも明らかになりました。その費用をいったい誰が払うのでしょうか?
 こうして危険性が明らかになり、さらに地震や津波などの自然災害の他に、テロ(ミサイル、飛行機の追突などを含む)のリスクを考えて、いっそうの安全性を保証することが求められています。そうした中で、世界の各地で反原発運動が起こり、企業や政府はそれにも対応を余儀なくされています。しかし、こうしたことは、既存原発の廃止、既存原発の安全強化工事、建設中の原発工事の長期化、費用の激しい上昇をもたらしてきました。
 このように原発の社会的費用が大きなものになると、そこから利益を上げることが難しくなり、莫大な損失さえ生まれます。
 また損失の一つの要因として、原発企業が原発事故やトラブル、設計ミスなどを理由として訴えられ、他の関連企業から巨額の賠償金を要求されるというケースも多発しています。
 東芝の陰にかくれてあまり報道されなかったかもしれませんが、三菱重工業も米国の原発会社SCEから7000億円ほどの賠償請求をされていました。
 これについては、新聞記事(朝日デジタル)を引いておきます。

 三菱重工業は(2017年3月)14日、米国の原子力発電所に納入した蒸気発生器が壊れて原子炉が廃炉になった問題で、この原発の運営会社に1億2500万ドル(約141億円)を支払うことになったと発表した。運営会社は66億6700万ドル(約7535億円)の賠償を求めていたが、仲裁機関の国際商業会議所が三菱重工の主張をほぼ全面的に認めた。
 三菱重工は契約上の賠償の上限は1億3700万ドル(約155億円)と主張しており、同会議所はこの主張を受け入れた。原発の運営会社の南カリフォルニア・エジソン(SCE)社に対し、三菱重工が支払った仲裁費用5800万ドル(約66億円)を肩代わりして支払うことも命じた。
 ・・・
 問題になったのは、カリフォルニア州のサンオノフレ原発。2012年に起きた三菱重工製の蒸気発生器の配管の水漏れがきっかけとなり、SCE社が廃炉を決めていた。


この事件では三菱重工業の支払いは141億円という小額(!?)ですみましたが、もともとの請求額は7000億円以上であり、これは東芝の破綻の原因となったS&Wの損失に匹敵します。

 外国では、フランスのアレバ(Areva)が世界最大の原発会社ですが、この会社もフィンランドで建設中の原発をめぐって訴えられました。

 http://www.reuters.com/article/us-nuclear-olkiluoto-idUSKCN0Q817K20150803

HELSINKI (Reuters) - Finnish utility Teollisuuden Voima (TVO) on Monday said it has raised its claim against the Areva-Siemens consortium to 2.6 billion euros ($2.9 billion) from a previous 2.3 billion euros over delays in its Olkiluoto-3 nuclear reactor.

 要するに、フィンランドの公益テオリスウデン・ヴォイマ(TVO)がアレバに対して29億ドルの賠償を求めたというものです。3000億円を優に超える額です。工事が10年も遅れており、2018年に完成すると報道ではいわれていますが、いまだに完成していません。
 このアレバもひどい状態にあり、本音では原発事業から少しずつでも撤退したいというのが本音でしょう。しかし、それに手を貸して泥船に乗り、一緒に沈没しようとするような企業はまずありません。
 ところが、ことあろうか、三菱重工業がそれに手を貸しています。
 今年4月、三菱重工業は、アレバに400億円の新規投資を行い、それまでの投資額と合わせて合計700億円の総投資を行うことに合意したというものです。
 thttps://asia.nikkei.com/Business/Deals/Mitsubishi-Heavy-doubling-down-on-Areva-with-fresh-investment

 2、なぜ外国が手放したがっている原発事業に手を貸すのか?
 繰り返しになりますが、一つには無知、希望的観測であり、まだ原発がペイするという幻想にとりつかれているからです。
 しかし、もう一つは、日本では原発村の利権構造の中で、原発会社(発電、メーカー)が責任を逃れているという事情もあります。もし万が一、事故が生じても、東電などにも、東芝・三菱重工業・日立にも、損失の責任を負う必要はほとんどありません。要するに無責任体制です。
 その結果、勘定は国民に転嫁され、被害を受ける地元民に転嫁されます。実際、東電は現在公的資金を受け入れており(借金しており)、実情は、大幅な赤字を経常しているはずですが、負債を純資産であるかのように扱っており、黒字(利益)を出していることにしています(一種の偽装です)。
 こうした無責任体制は、事態を正確に把握し、行動するというビジネスマンの経営行動を著しく抑制することになります。無知、希望的観測、幻想が生まれるのももっともです。」
 また無責任体制を生み出すにあたって経産省をはじめとする省庁が大きい力を発揮しいていることも見逃すことはできません。こうした公的機関の参加は、原子力村の住民に保証と安心とを与えます。またいまだに2005、6年頃に経産省がはじめた「原発ルネサンス」の音頭に合わせて踊っている人がいます。安倍首相の原発輸出促進策も、こうした無知、幻想、希望的観測、保証と安心、「原発ルネサンス」の標語に支えられていることをわすれてはなりません。

 蛇足:
 ヨーロッパでは、近代資本主義経済が誕生したとき、企業は無限責任を負っていました。それが近代のヨーロッパ・ビジネス法の一つの特徴です。企業者(出資者、経営者)は自分の経済行動の結果に対して無限に責任を負わなければなりませんでした。例えば企業が破綻したときには、企業者は、その出資額にかかわらず、全負債に対する賠償責任を負っていました。
 しかし、19世紀の法改正で有限会社、株式会社が普及し、企業者が出資額を超えて責任を負うことはなくなりました。当時、そうした法改正に対して「モラルハザード」(無責任)を生み出すという批判がありましたが、特に現在の日本の状況を見ていると、その通りではないかと思います。これに対して、さすがに欧米は近代ビジネス発祥の地、まだ多少とも近代ヨーロッパのビジネス法の精神が残っているのかもしれない、とも思います。