2013年1月27日日曜日

ブラッック企業となった日本政府

 ハッシュ・ハッシュ・ゲームという遊びがヨーロッパにあるのをご存知でしょうか? これは一方の手でボールを与えながら、他方で奪うというもののようですが、日本の政府が行なってきた(いる?)のも、そのようなものです。一方で、雇用を増やすためといいながら、各種の補助金を出しながら、他方では雇用を奪うような施策を実施する。
 私も各種の(地方の)審議会に学識経験者として出席したことがあり、(末端の)行政の人が一所懸命にやっていることは否定しません。問題は、もっと上の、中央のレベルの話です。
 言うまでもなく、現代の企業家経済(資本主義経済)では、雇用(労働需要)は基本的に民間企業の生産によって生まれます。生産量が増えれば、雇用は増えます。また労働生産性が高ければ(つまり、一人あたりの生産できる量が大きければ)、同じ生産量でもよりすくない労働力で生産を行なうことができるでしょう。
 この簡単なことが現代の経済を考える基礎となります(突き詰めれば、ケインズの経済学もこの2つの原理から出発しています)。ここでは、簡単のため労働生産性の問題は捨象することにします。
 さて、それでは、雇用を増やすために必要な生産量は、どうしたら増えるのでしょうか? 企業は売れるという期待(見込み)があって初めて生産します。つまり、有効需要(貨幣支払いに裏づけられた需要)の形成が前提です。それでは、有効需要を決めるのは何でしょうか? その最も重要な要因の一つは所得(正確には所得の期待)です。われわれは所得が増えるという期待があれば、消費支出を拡大し、有効需要を高めるのに寄与するでしょう。しかし、1997年以降のように企業が貨幣賃金を引き下げるという状況の下では、不安を感じてしまい、貯蓄を増やそうと考えて消費を削減しようとしてしまいます。
 しかし、企業からすると、人々が消費を削減する結果、販売不振に陥るので生産物の価格を引き下げざるを得ないことになります。そのために生産費をいっそう縮小しようとして貨幣賃金を引き下げたり、低賃金の非正規雇用を拡大しようとする企業も拡大します。従業員をモノとしてしか扱わないブラック企業も増加します。
 一言で言えば、1997年以降に生じてきた事態は賃金デフレーションの悪循環です。それはまたケインズの言う「合成の誤謬」の事態とも言えるでしょう。つまり、個別企業にとって合理的な行動(賃金と価格の引き下げ)が社会全体では間違った結果(有効需要の低下→生産の低下→雇用の縮小)をもたらすのです。
 したがって賃金デフレーションの悪循環を阻止できるのは社会全体のことを考えることのできる政府(公共性)でしかありません。
 ところが、その政府がブラック企業化しているのです。
 第一に、公務員(地方、国家)の給与引き下げ、退職金の減額、生活保護費の引き下げ、官製ワーキング・プアの許容・拡大です。私も、日本の多くの人々が自分たち(民間企業)の労働条件の悪化に直面して恵まれた公務員を批判したくなる気持ちは分かります。しかし、彼らの給与を引き下げれば、それによって有効需要が低下するという直接のマイナス効果が生じます。例えば地方の外食産業は特に不振に陥るでしょう。それに退職金率の引き下げは、労使協約の一方的な破棄であり、まさにブラック企業の行なうことです。その上、政府やそのようなことを行なえば、民間企業もそれに続いて行なうでしょう。現在の状況の中で、民間企業の経営者は公務員の労働条件の悪化を歓迎しているでしょう。なにしろ、次に自分の企業で労働条件を低下さえるための障害がなくなるのですから、これ以上の施策はありません。
 第二に、安倍政権の2パーセントのインフレ・ターゲット(リフレ論)があります。テレビで得々と解説している人(エコノミストという人種)の中には、それだけのインフレーションが生じると、人々は貨幣の減価を恐れて、なるべく早く購入しようとするため、需要が増えて景気がよくなると説明する人がいます。
 いやはや、世も終わりです。インフレーションという圧力をかけて強制的に消費需要を増やそうとは! これが政府やまともな経済学者の言うことでしょうか。
 しかも、本当に需要が増えて、景気がよくなるのでしょうか? もし貨幣賃金が3、4、5パーセントと増えるという期待があれば、そうなる可能性も否定できません。しかし、もしそうならなければ、インフレーションは、人々を百円ショップや不況産業企業(古着屋、激安店など)に追い込むだけでしょう。
 実際、私は寡聞にして、安倍首相からは何故か貨幣賃金を増やすための明るい展望を聞いたことがありません。
 本当は、人々が安心して暮らせるという制度構築をして消費支出の拡大を実現し、その上でGDPの成長に合わせて貨幣賃金を引き上げるという制度構築を約束することが最も重要であるにもかかわらず、です。
 日本政府が、一方で雇用を拡大するふりをしながら、他方でそれを奪っているハッシュ・ハッシュ遊びをやめない限り、日本社会の明るい展望はないと言わなければなりません。

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