2013年1月27日日曜日

安倍のミックスを経済学する その5

<新古典派の雇用理論>
 昔、アメリカ経済学会長を勤めたこともある経済学者のガルブレイス(J.K.Galbraith)は、私の尊敬する人の一人ですが、次のようなことを言ったことがあります。

 新古典派経済学の教えは、富者はお金が少なすぎるので働かず、貧者はお金が多いから働かないという2つの命題に要約できる。

 これは職人技ともいうべき新古典派の思想の要約です。
 実際、新古典派の労働市場論では、実質賃金が均衡水準より高いと企業の労働需要が労働者による労働供給より小さくなり、その差(労働供給ー労働需要)が「自発的失業」を生み出すと主張します。
 またフリードマンの「自然失業率」の「理論」は、政府の労働保護や労働組合の介入という市場外の要因のために実質賃金が均衡水準より高くなるために各国・地域にはその労働市場構造に特有な「自然失業率」が成立し、しかもその失業率以下に現実の失業率を引き下げようとしても無駄であると主張します。
 さらに、この「理論」は「インフレーションを加速しない失業率」(NAIRU)の主張にまで進化します。つまり、現実の失業率が自然失業率以下に下がると、貨幣賃金が上昇し、インフレーションが生じ、その上、インフレーションが加速すると主張します。しかも、インフレーションを抑制するために、一定の高い失業率が必要だと主張するにまで至るのです。
 
 おそらく、もし政治家がこのような主張を有権者の前で行なったら、その政治家は投票してもらえないでしょう。しかし、(注意してください)現在の保守政党の政治家は皆ほぼ例外なくこのようなトンデモ経済学を正しいと考えているのです。事実、OECDの統計には、各国のNAIRUの数字が示されています。
 ただし、彼らはそれをストレートに主張したら票を失うので、オブラートに包んで話します。ある時は、現代の企業は国際競争のために賃金を下げないと苦しい、と泣き言を言い、ある時は、激しい国際競争が行なわれているから賃金を下げないと企業が海外に逃げますよ、といって脅しをかけるのが常です。(ちなみに、アダム・スミスは『国富論』(1776年)で当時の企業経営者(親方、主人、masters)も労働者の賃金を引き下げることに腐心していたことを記述していますが、いつでも多くの企業者は低賃金で労働者を働かせたいようです。)

 しかし、本当に貨幣賃金を引き上げたら、景気が悪化して、雇用は縮小するのでしょうか? このことを確認するために、もう一度現実の経済を観察し、その現実を理解するための正しい経済学を構築する必要があります。 

 *私は、労働条件や働きがい、働きやすさを指標とする企業ランキングを発表し、ブラック企業を追放する条件をつくることを提案したいと思っています。また経営者が社会的に責任を果たしているかサーベイランスするべきだと思いますが、これについては後に詳しく述べたいと思います。

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