2015年6月19日金曜日

何故EU圏、特にユーロ地域は失業率が高いのか?

 1990年代〜21世紀初頭にかけて経済学者に問いかけられた大きな問題があります。それは近年の諸地域、例えばヨーロッパ諸国(EU地域)、とりわけユーロ圏の失業率が高いのは何故かというものです。しばしば、これに関係して米国の失業率が相対的に低い理由は何かという問題も問いかけられていました。実際には、ヨーロッパにも失業率の低い地域があり、また米国でも常に失業率が低かったわけではありません。しかし、<ヨーロッパの高失業vs米国の低失業>という、いわば定型化された質問がしばしば投げかけられていました。

 しかも、1994にOECDのEconomic Outlook に「職の研究」(Job Study)が掲載され、「統一理論」(Unified Theory)なるものが主張されるに至り、この問題は世界中の多くの経済学者の関心をひきました。
 この「職の研究」(統一理論)によれば、ヨーロッパ諸国の高失業は、①高賃金と②所得分配の平等のせいであり、さらに、それをもたらした③政府による労働保護政策や労働市場の硬直性のせいである、とされ、反対に米国の低失業は、雇用の柔軟化と規制撤廃、所得分配の不平等によるとされました。これを一般化すると、人々は高賃金と雇用のどちらも享受することはできず、どちらかを選ばなければならないことになります。

 ちょっと考えると、こうした説明がかなり疑わしいものであることがわかります。そもそもヨーロッパでも米国でも、失業率が上昇しはじめた時期に賃金抑制が進行してきました。統一理論によれば、賃金抑制が行われたのだから失業率は低下したはずです。しかし、そうはなっていません。あるいは失業率が上昇したのだから、実質賃金が上がったはずです。しかし、実際には、失業率が上昇したときに、貨幣賃金が抑制される傾向が強く、その結果、実質賃金も抑制されています。
 それにヨーロッパ諸国の諸地域を詳しく見てみると、失業率の高いのは低賃金の地域であり、失業率の低いのは高賃金の地域であるという強い相関があることが分かっています。
 以上の指摘だけでも、OECDの「職の研究」の説明が誤りであることがすぐに分かりますが、実は、当該論文自体が、<自分たちの見解は統計的に実証されているわけではない>と認めていました。実に奇妙な話です。

 しかし、この奇妙な説は、経済学の発展にとっては多少役にたったかもしれません。というのは、多くの経済学者が雇用の理論的・実証的研究を行い、OECDの「統一理論」なるものの誤りを明らかにしたからです。

 しかしながら、「職の研究」が高失業の原因を正しく説明していないことが明らかであっても、それだけでは不十分です。何故、ヨーロッパ諸国、特にユーロ地域は高失業になったのでしょうか? 近年の研究成果を踏まえて、もう少し詳しく検討しておきたいと思います。


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