2017年2月15日水曜日

分断社会・日本 なぜ私たちは引き裂かれるのか(井出英策、松沢裕策、岩波ブックレット、952)

1970~80年代までの日本社会は、そこそこの平等主義国家の上に成立していた。不平等は存在しており、それ自体として問題ではあったのだが、日本社会の一部であり、多くの人の眼につかなかった。
しかし、1990年代初頭に1980年代末の真性バブルが崩壊し、金融危機が始まり、長期の平成不況に陥り、その後も1997年の橋本財政構造改革期の金融危機の再発と、非正規雇用の拡大による(名目・実質)賃金水準の持続的低下、2001年の小泉構造改革にともなう再度の金融危機再発と賃金の低下持続、政府財政赤字の拡大と政府債務の大幅増加、減税・公共事業による景気浮揚策の不調、誰の眼にも明らかとなってきた少子化・生産年齢人口の減少、高齢者の増加などの一連の事象・問題のなかで、人々の心にも大きな変化が生じてきた。
所得格差が拡大し、人々が分断される中で、しかし、多くの人々は必ずしも、それがなぜ生じてきたのか、という根本原因を見ようとはしない。
歴史的に見ても、こうしたことは現在の日本だけの現象ではなく、かつて他の地域でも見られたことであった。その最もよく知られている例は、1930年代のナチスによるユダヤ人の殺戮である。そこに見られるのは、むしろ多くの人は反知性主義の方向に走り、もっと力の弱い少数派をスケープゴートとする方向に走る傾向があるということであろう。

井出英策、松沢裕策氏の『分断社会・日本 なぜ私たちは引き裂かれるのか』(岩波ブックレット、No. 952)は、その状況を次のように説得的に描いている。

平等主義国家は消えた。多くのひとびとにとって、働くことは苦痛でしかなくなり、勤労の先に待ち構えるのは、貧困のリスクであった。通俗道徳(*)は労働者にとって精神的な負荷となり、努力の果てに没落するひとびとの悲鳴が社会を切り裂こうとしている。「獣の世」の再来である。
 *勤労、倹約、謙譲、孝行などを徳目とする道徳のこと。

 いまの日本社会は、通俗道徳の実践にエネルギーを費やした、多くの失敗者で溢れている。過酷な競争社会に疲れ、就労の苦痛のなかで日々の生活に耐えるひとびとは、働かずに収入を得る生活保護受給者を非難する。没落の危機に怯える中間層も含め、生活に不安を覚えるひとびと、政治やマスメディアに利害を代弁してもらえないことに不満を持つひとびとは、反知性主義的な言説を支持し、急速に排外主義化した。鳴り止むことのない公務員バッシングの一方で、親がわが子に公務員になることを希望するさまは、滑稽でさえある。
 いまや、メディアを覆い尽くすのは、白分よりも弱いものを叩きのめす「袋叩きの政治」であり、強者への嫉妬、「ルサンチマン」である。そして、社会的な価値の共有の難しさが連帯の危機を生み、地方誘導型の利益分配も機能不全に陥るなか、不可避的に強められるしかない租税抵抗が、財政危機からの脱出を難しくしている。「獣の世」としての明治社会は、まさに今口の「分断社会の原風景」だったのである。
 近代化が進められたプロセスにあって、わたしたちは、既存の秩序が綻びを見せるたびに、繰り返しこの原風景へと立ち返ってきた。世界史的な人口縮減期に入り、持続的な経済成長が前提とできない時代、いわば近代白体か終焉と向かう時代がわたしたちの眼の前に広がっている。
わたしたちは、新しい秩序や価値を創造し、痛みや喜びを共有することを促すような什組みを作りだすことができるだろうか。あるいは、経済的失敗が道徳的失敗と直結する社会を維持し、叶わぬ成長を追いもとめては、失敗者を断罪する社会をふたたび強化するのだろうか。明治維新から約150年。これからの150年のあり方がいま問われている。

 
ちなみに、排外主義化について言えば、ことの発端の一つは、石原慎太郎元東京都知事にあることは、私がここで言うまでもないだろう。そもそも尖閣問題は、日中国交回復時にも日中(田中角栄・周恩来)間で、微妙な問題であり、明示化すると日中相互の国民を激することになるがゆえに、棚上げにしようとされていた問題であった。ところが、極右の石原慎太郎元都知事が意図的に尖閣問題をほじくり出し、日中間の対立(排外主義)をあおることになった。そもそも、それが石原氏の意図であったことは明白であろう。
また安倍政権の戦争法にもきわめて大きな反対があったが(またいまでもあるが)、その反対意見を押さえ込む上で、上の文章にいう「排外主義化」の言説の一定の強さがあることも間違いないであろう。

しかし、排外主義やルサンチマン(強者への嫉妬、自分より弱いと思うものをたたきのめす心情)が問題を解決することはない。それによって自分たちの不安が解消し、問題が解消するわけでは決してないからである。




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