2017年2月5日日曜日

なぜ格差は拡大したか? 税収構造の変化

 言うまでもないことですが、所得および富の格差(不平等)の要因の一つには、政府が以前は所得の再分配を行っていたのに、1980年代以降、それをやめたことにあります。もちろん、完全にやめたわけではなく、幾分かは現在でも行われています。

 それがどれほどの規模(magnitude)なのか、統計で確認しましょう。といっても、特段、格別の新資料を紹介するわけではありません。政府(財務省)のホームページに載っているような統計にすぎません。が、なぜか政府や自民党(公明党も)はそれを人々に広く宣伝しようとはしませんし、またよほど強い関心を持ち・ある程度の訓練を受けた人でなければ、わざわざサイトを開いてみようとする人は多くないでしょう。

 まず法人税ですが、これは以下の通りです。
 


 法人税はかつて基準税率が43.3%でしたが、1980年代から下げられはじめ、また20世紀末、現在と引き下げられてきました。現在の基準税率はかつての半分を少し超える程度の23.4%です。
 政府(勿論自民党も)は、しばしば「グローバル基準」を持ちだして、日本の企業負担が高いと言いますが、たしかに低いとは言えないかもしれませんが、決して高いわけではありません。ドイツの企業などは、社会保障関係で日本の2倍ほど負担していますから、はるかに高い負担を企業が担っています。これについては、以前のブログで述べたので、ここではこれだけにとどめて置きます。

 次は、所得税率ですが、所得税は累進課税制となっているので、すべて掲載するのは、難しいので、最高税率のみ示しておきます。

 

 
 これも1970年代には75%だったものが、現時点では45%に引き下げられています。1999年には37%まで引き下げられていたのが、その後、4000万円の所得を超える者について、わずかに引きあげられています。

 一方、これもご存じの通り、大衆課税の最たるものとなっている消費税は、1989年に導入されて以来、1997年、2014年と二回の増税により、8%に引きあげられました。しかも、日本の場合は、ヨーロッパ諸国と異なって、基本的な生活必需品に対する軽減税率なしで、画一的に税率が設定されています。

 要するに、1980年代以降、一方では、富裕者の減税を行い、他方では99%の庶民の増税・負担増を推進してきたわけですが、それが戦後の「資本主義の黄金時代」の所得再分配メカニズムを根底的に破壊してきたことは言うまでもありません。

 また問題は、それが財政均衡を大きく揺るがし、財政不安をあおっていることにもあります。

 消費税は、20世紀初頭には、10兆円前後の税収をもたらしていましたが、現在では17兆円を超える金額を政府にもたらしています。
 一般会計の税収が、1914年度に大幅に増加していますが、そのかなりの部分は、消費増税によるものです。ちなみに、「税収21兆円増」問題ですが、このうち、8兆円ほどは消費税の増収分であり、残りは13兆円ほどですが、伊東光晴氏が指摘しているように、これもアベノミクスの果実というにはほどとおいものです。つまり、
 1.バブル後の不良債権処理のための特典制度の終了にともなう企業利益全体が課税対象となったことによる税収増
 2.リーマンショックによる負債償却の終了と、法人税の支払い開始。このもっともよい例がトヨタであり、トヨタはしばらく巨額の利益に対して法人税を支払っていなかった(!!)が、ようやく支払い始めた。
 3.金融所得課税に対する10%の軽減措置の終了と、本則(20%)への移行。
 以前の10%というと、サラリーマンでもちょっとした所得の人なら、15%だった人もいるでしょうから、それより低いということになります。だから、何十億もの金融所得(利子、キャピタルゲイン)を得た人の支払う税金がごくわずかということもあり、本屋の経済書コーナーに並ぶ本の中にそれにt言及したものもありました。

 

 伊東氏は、「安倍氏は自分でやっていないことを自分の功績にしてしまう」と怒っていますが、まったくその通りです。

 それはさておき、所得税減税と法人税減税が政府収入の減少に大きく寄与(!!)していることもまた言うまでもありません。
 それがどれほどの額になるのか、正確な計算を行うのは、困難ですが、他の人の試算を観ても、百兆円単位の巨額に達するはずです。
 これらの詳しい試算はいつか紹介するとして、さしあたり、きわめてラフな計算ですが、1990年の一般会計収入60兆円がその後20年以上にわたって40~50兆円ほどに低下したのが、そのためだと想定すると(その間に消費増税10兆円分の効果もありますから)、ざっと400~500兆円ほどと見積もられます。(もちろん、これは正確な数字ではないので、あしからず。」)

 ちなみに、この間に巨大企業の内部留保が370兆円以上に達しているわけですから、政府はまさに貪欲な巨大企業の貨幣愛に奉仕してきたといっても過言ではありません。

 もうひとつ、私は「消費増税」に何が何でも断固反対というわけではありません。日本の社会福祉を充実させるためにも、それは必要財源となるかもしれません。しかし、それには絶対的な条件があります。
 一つは、消費増税を実施する前にやるべきこと(巨大企業や富裕者、金融所得などの不労所得に対する増税、所得再分配の復活)があるということです。
 二つ目は、消費増税は、軽減措置をともなうべきこと。
 三つ目は、政府支出が、軍事支出の拡大ではなく、文化国家、福祉国家のために行わなければならないことです。

 残念ながら、安倍首相のやっていることは、このすべてに当てはまりません。
 有権者もそろそろ安倍政権の経済政策(アベノミクス)の失敗に気づくべき時ではないでしょうか? 「どアホノミクス」の著者も言っているように、「失敗したわけではない」という言辞は、失敗したという言い訳に過ぎません。もし成功しているならば、「自分でやっていないことを自分の功績にしてしまう」安倍首相ですから、高らかに宣言していたに違いありません。



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