2013年12月1日日曜日

失業率の上昇を説明する その6 OECDのひどい勧告

 賃金を引き下げれば失業者が減るという新古典派の労働市場論がまったく現実離れしている代物だということは既に繰り返し説明してきました。ところが、あろうことか1994年にOECDという国際組織がその新古典派の労働市場論にもとづいた「職の研究」(Job Study)なるものを公表し、さらにその後、それにもとづいて様々な雇用流動化(つまりストレートに言えば、労働条件の悪化、または悪化を可能とするような制度の創出)の「勧告」を行いました。日本も1996年に勧告を受けています。
 これに対して、世界中で様々な抗議が生じました。まずOECDの内部からTUAC(労働組合諮問委員会)が「異例の」反論を出しました。その内容の要点は、「勧告」が単に賃金をはじめとする労働諸条件を引き下げるだけに終わり、雇用状況の改善(失業の減少など)をもたらさずに終わるだけだというものです。このあたりの事情については、石水喜夫氏の『日本型雇用の真実』(ちくま書房、2012年、68〜82ページ)でも紹介されていますので、是非、読んでいただきたいと思います。(なお、筆者の石水氏は、過年度の「労働経済白書」の執筆者であり、現京都大学教授です。)
 TUACだけではありません。その後、世界中の優れた経済学者が実証研究・理論研究にもとづいてOECDの「職の研究」、「勧告」を批判してきました。このブログでも機会を捉えて少しずつ紹介して行きたいと思います。これらの研究は、1996年のTUACの反論が述べた通りのこと、すなわち雇用流動化は労働諸条件を悪化させる(またはさせた)だけであり、失業率の低下には何ら役立っていないことを明らかにしています。
 残念ながらもちろん中には時流に乗ってOECDの勧告を吹聴する経済学者がいることは否定できません。彼らには共通する特徴があり、それは新古典派の労働市場論をオウム返しに繰り返すだけであり、現実の経済を分析・調査していないことです。また彼らは専門家に事実を指摘されると黙りを決め込みます。しかし、じっと黙っているのではなく、マスコミなどでは批判される恐れがないので、その持論を大々的に喧伝します。
 
 TUACの反対声明(1996年)を引用します。

 企業の利益が改善しているにもかかわらず、「グローバリゼーション」のキャッチワードのもとで、競争的になるために生活水準を低下させる必要があるといった誤った主張がなされている。また、いくつかの政府では、対策をとれない言いわけに利用されている。さらに、そうした政策の欠如の結果も現れてきている。
 現行のOECDの労働市場は、一体性を損なわせる一層不平等なものになりつつある。いくつかの企業は、OECD域外国からの低賃金の競争圧力を伴う激しいグローバルマーケットのいて、時代遅れの生産、競争の形態に囚われている。さらに競争し合っているのは企業同士というよりは、違う国の労働者同士が、それぞれの国の経営者が提供する限られた雇用機会を手に入れようと、労働者同士で競争し合わなければならなくなってきている。
 ・・・(中略)雇い入れや解雇の柔軟性および賃金の切り下げは、いくら好意的に考えても的外れなものと言わざるをえず、低賃金、低技能により競争力を高めようとうする方向を促進してしまうものであろう。OECD雇用研究のフォローアップにおいて、この「負の柔軟性」の論点が過度に強調されていることは基本的な欠陥であり、変更されなければならない。

 2006年になってOECDは、1994年の「職の研究」を事実上撤回しました。しかし、その間、日本では、非正規雇用の多用を宣言した経団連の『新時代の日本的経営』が出され、派遣労働が自由化され、1997年以降の企業の雇用戦略転換によって非正規の低賃金労働が拡大しました。そして、その結果は、日本全体における貨幣賃金所得の大幅な低下(一方では、巨大企業はこの間に史上最大の経常収益を計上している!)、失業率の上昇に終わっています。
 OECDや勧告を実施した政府はこの責任をどのようにとるのでしょうか。

0 件のコメント:

コメントを投稿