2014年3月14日金曜日

久々のベースアップ しかしわずか千円、2千円とは!

 今年の春闘では、10数年ぶりでベースアップが行われたと、ニュースが大騒ぎしています。たしかに10年以上にわたって日本の給与水準が低下してきたのですから、大きなニュースとなることは間違いありません。
 しかし、おかしい点がいくつもあります。何点か指摘したいと思います。

・安倍政権は、2%の物価上昇で景気がよくなるという「アベノミクス」なるものを宣伝してきました。しかし、それならば人々の(名目)所得も2%以上に増えなければなりません。そうでなければ実質所得が低下するからです。
 日本の平均給与(月額)がかりに30万円として、その2%は6千円となります。つまり30万6千円になってはじめて実質所得が同じです。
 それなのにたった千円や2千円では、所得の実質的な低下になります。
 もちろん、賞与(ボーナス)による上昇はありますが、給与の増加をそれに依存させるということは、経営者も従業員も将来に対する安定的な「期待」を持てないことを意味します。これで安心して消費需要を増やすことがはたして期待できるでしょうか。
・さらに非正規雇用の低賃金部分については、時給で10円などという低いベースアップの数字がならんでいます。わずか1%ほどの上昇です。
 正規と非正規の賃金格差(同一労働)は、世界でも日本と韓国できわめて激しいことが知られています(100対60など)。その是正など遠い将来の話になってしまいます。

・このことは、これまでの政府の説明にもあてはまります。
 1997年以降、日本の一人あたり名目GDPが低下してきたとき、政府(竹中平蔵氏など)は物価水準が低下しているのだから、実質的には所得(一人あたりGDP)は増加していると説明してきました。しかし、GDPの中には、賃金の他に利潤も含まれていて、この利潤部分は経営者報酬や配当など、主に富裕者(1%の人々)の所得分となります。80%以上の人々が受け取る名目賃金のほうは、13%も低下してきましたが、(デフレといわれながら)物価はそれほど低下していません。つまり実質賃金も低下していたのです。(政府がデフレをことさら強調して来た背景には、実質賃金の下落を隠したいという意図があったとしか考えられません。)
 ということで、同じ論理になりますが、2%の物価上昇が生じているときには、2%以上の(名目)賃金率の上昇がなけれれば、景気がよいとは決して言えませんない。

・しかも、今回のベアは、今のところ大企業(賃金圧縮によって内部留保をためてきた)大企業に限られています。中小零細企業については、どうなのでしょうか?
 本当は、中小零細企業が苦しいながらも賃金率を引き上げたとき、その費用増加を価格に転嫁したときに物価上昇が生じるというのが本来の経済のありかたであり、実際1980年代ころまではそうでした。そのような物価上昇を許容する制度的条件があったのです。まただからこそ景気がよいときには物価が上昇したわけです。
 今は本末転倒です。マネタリスト(通貨論者)が通貨量を増やせば物価が上がり、そうすれば景気がよくなる(!)という転倒した論理です。
 はたして今春中小企業が賃金率を引き上げ、その人件費増加を価格に転嫁しようとしたとき、大企業は製品の買い取り単価を引き上げるなどして、それを受け入れるのでしょうか? 消費者もそうです。名目賃金が増えるのですから、物価上昇にもかかわらず、消費量を減らさないという行動が前提となります。

・今回、NHKのニュースでも正しく報道されていましたが、「政治主導」でベアがあったことは間違いありません。もしわずかでもベースアップがなければ、安倍政権がもたないことを財界(経団連)も知っているわけです。
 他方、財界は今年のようなベースアップがずっと続く訳ではないと釘をさしてもいます。しかし、もし2%の物価上昇が続くのに、それに応じる所得の増加がなければ、99%の人にとってアベノミックスとは何でしょうか。

・4月からは消費税の増税(3%ポイント)があり、ニュースでも不安が伝えられているように、それが景気を冷やすことは十分に予測されます。増税は、人々の可処分所得の減少を意味します。そこで人々の消費支出を減らします。したがって政府が支出を増加させない限り、国民全体の消費支出は減少することになります。これは経済のイロハです。そこで政府は、景気を悪化させないように、今度は公共事業(土木事業)を増やすという方針を決めました。そもそも消費税増税は、社会保障支出との「一体改革」を旗印にして行われたものです。本来は、社会保障支出(教育、医療、年金など)の増加と歩調をあわせて消費税の増加をはかるべきものした。

 最後に数値例を示しておきます(これは粗雑な計算に過ぎませんが、おおまかな傾向は示します)。かりに日本の毎月の消費支出が30兆円とします。また同じだけの給与が毎月支払われているとします。この場合、3%の増税が家計の可処分所得を 9000 億円減らします。他方、平均賃金30万円としてベア 2000 円は0.7%ほどの増加ですから、可処分所得を 2000 億円ほど増やします。これは差し引きすると7000億円ほどの減少です。
 もちろん可処分所得の減少が必ず消費支出の縮小をもたらすわけではありません。マイナスの貯蓄(貯蓄の取り崩し)がありうるからです。

 しかし、4月以降、日本経済がどうなるのか、1997年の財政構造改革の時と同じような悲劇的な景気後退がないことを祈るのみです。



0 件のコメント:

コメントを投稿