2013年3月26日火曜日

景気と賃金・給与

 これも先日のことですが、テレビを見ていたら、エコノミストらしき人が、景気がよくなってから3年くらいすれば賃金・給与が上がり始めますと発言(解説?)していました。
 これを聞いた人がどのように感じたか分かりませんが、かなり問題の言説であることは間違いありません。どうして景気と賃金引き上げの間にタイム・ラグがあるのか? 彼の発言はどのような意図を持っているのか? もちろん景気がよくなることを期待している人は、自分たちの所得が増えることを期待しているのですから、3年先に賃金が上がると聞いて喜んだ人は少なく、むしろがっかりしたのではないでしょうか?
 そこで、次にこの問題について考えることにします。
 まず景気がよくなりGDPが成長するのに、賃金が2年ほど上がらないというのは、どういうことなのかを検討しましょう。
 GDPは国民総(粗)生産であるというのは、よく知られています。生産物は販売され、その売上げから粗付加価値(所得)が生まれます。もちろんGDPと粗付加価値は同じ金額です。いま、それをYとします。次にYは労働者に対する賃金と(資本機能に対する報酬の)利潤に分かれます。記号で示すと、
 Y=W+R
この式から明らかなように、景気がよくなりYが増えれば、当然、W+Rも増えます。しかし、それなのに賃金(W)が増えないというのは、利潤(R)が増えることを意味します。つまり、3年くらいすれば、賃金が上がるといった人は、それまでは利潤だけが増えますと言っていることになるのです。
 歴史上、確かにそのような時はありました。例えば大不況の後がそうです。というのは、大不況(例えば1930年代の米国の大不況)の時には、利潤が極度に低下します。したがって企業の投資資金調達もままならない状態になります。そのような時には、確かに景気が回復してゆく途中で最初に利潤が回復し、さらに景気がよくなるときに、賃金が再び上昇することになるのです。それは理解できないわけではありません。
 しかしながら、現在の日本ではどうでしょうか? 21世紀に入ってからずっと(貨幣)賃金は低下しっぱなしでした。しかも、その間に企業の粗利潤(減価償却費を含む)は徐々に拡大し、企業の内部留保も巨額(100兆円以上)に達しました。つまり、日本の企業は全体として賃金圧縮の犠牲の上に内部資金を貯めてきたのです。しかし、賃金が圧縮されるので、庶民は消費を増やすことができず、景気は沈滞し、その結果、企業も国内投資をしません。そこで、企業は内部留保を国外投資に向けたり、投機資金として利用するしかありません。
 端的に言って、賃金の上昇は3年後という言説には根拠はないのです。
 
 そこで、私などは、発言の「意図」を疑いたくなります。忖度すれば、発言には、1)現在の日本企業に対する批判的な意図が隠されている可能性があります。つまり、景気がよくなっても、現在の強欲資本主義の下では、労働者の所得を増やそうとはしませんよ、というわけです。しかし、私が聞いた説明では、批判的な調子は感じられませんでした。ということは、2)企業に対する「ぽち」的な態度が考えられます。もっともらしく、「景気が回復しても企業経営が苦しいので、従業員の所得にまで回せるようになるのは、3年後ですよ。それまで我慢してくださいね」というわけです。
 
 3年というのは長い時間です。私など3年後は退職です。むかしケインズは言いました。「長期的には、人はすべて死ぬ。」名言です。

 私の主張は、次の通りです。
 国内需要を喚起するためにも、すぐに全企業が一斉に賃金を引き上げなさい。そうすれば、人々の勤労所得(W)が増え、その結果、消費支出(C)が増え、企業は急にモノが売れ始めるので、将来のための設備投資(I)を行なうようになり、いっそう景気がよくなる、と。もう一つ、所得を増やしても、貯蓄され、消費にまわされないという反対論を勘案して、特に低賃金労働者の所得を増やすようにしなさいという提案も付け加えておきます。彼らは何といっても貯蓄する余裕などないのですから。その他、ぐだぐだ言う人が必ず出来てきますが、そういった事の細かい検討は後でじっくりやります。
 はっきり言えば、世の中には、とにかく賃金を引き上げたくないという人々がいること、これは間違いありせん。

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