2015年7月11日土曜日

公的部門と民間部門の給与格差 イギリスの事例から明らかになること

 日本でもそうですが、公的部門と民間部門の給与格差がしばしば問題とされます。その際、よく主張されるのは、公的部門、つまり公務員の給与が高い(高すぎる)のではないかということです。そこで、今日は、その実態にせまりたいと思います。ただし、ここで取り上げるのはイギリスの事例です。その理由はデータの問題など様々です。

 さてとにかく最初に全般的な統計数値をあげておきましょう。2002年〜2011年の国民統計局のデータでは、給与額(年収、週あたり給与)が両者とも増えてきています。各年ごとの格差を見ると、メディアン(中央値)、つまり給与額から見てちょうど真中にいる人々にはそれほど大きな相違はありません。ただ年によって公的部門の高いときもあれば、民間部門の高いときもであります(最後の3年間には公的部門が高くなっています)。
 しかし、ミーン(平均値)の週あたりの給与額では、この期間中、公的部門(公務員)の給与が民間部門の給与より高く、2011年には、7.7〜8.7パーセントほど高くなっています。
 このようい公的部門(公務員)の平均給与額が民間部門の労働者の給与より高いというのは、ネオリベラル派(新自由主義者、新保守主義者)にとっては、公的部門の労働者(公務員)に対する絶好の攻撃材料になりそうです。 

 しかし、早まってはいけません。この統計で、注意するべきことがいくつかあります。その一つは、日本国民にとっても大きく関心をひく事柄ですが、イギリスの給与額(貨幣賃金)が公的部門、民間部門を問わず、ずっと上昇してきたことです。名目賃金も実質賃金も低下してきた日本と比べて何とうらやましいことでしょうか。しかし、今はこの点については触れないでおきます。

 もう一つ注意しなければならない点があります。実は、公的部門と民間部門の給与を比較するのはかなり難しいことです。というのは、両者における従業員の構成は、性別、学歴、職種・職位、年齢、スキル(熟練)、労働時間など様々な点で異なっています。それは民間部門内部の給与格差についても同じです。両部門の給与格差をきちんと調べるためには、この点を正確にふまえる必要があります。

 さて、英国ではサッチャーの新自由主義(マネタリズム)政策以降、「低熟練」の職の多くが外注(アウトソーシング)に出されるようになるという公的部門の大きな変化がありました。そして、それによって低賃金労働が急速に広まりました。サッチャー時代に最低賃金制が廃止されたこともこの低賃金労働を広めることに大きく貢献しました。
 それでもまだ2002年には低熟練の職は公的部門と民間部門にほぼ等しく存在していました。公的部門の従業員の約12パーセントが低熟練の職にあり、その比率は民間部門では13パーセントでした。また当時は公的部門の従業員の23パーセントが高熟練の職であり、民間部門の従業員もほぼ同じ割合が高熟練の職でした。
 しかし、その後に大きな変化が生じます。民営化・外注がさらに拡大し、民間部門における低熟練の職の比率が大幅に上昇し、その結果、公的部門の高熟練の職は2011年までに31パーセントに増加しました。一方、(産業構造の高度化といいながら)民間部門の職は微増しただけです。 
しかし、同じ年で比較すると、高熟練の職についている人が受け取る給与は、公的部門のほうが民間部門より4.1パーセントも低くなっています。
 つまり、何がこの間に生じたかは明らかです。

 一方では、外注の拡大によって低熟練の職が公的部門から追い出され、民間の低賃金労働に委ねられるようになった。(これは誰が利得を得たかをよく示します。)
 他方では、公的部門に残されている高熟練の従業員は、一人一人を見れば、民間部門より低い給与に甘んじてますが、その比重が民間部門より高い(公的部門31%>民間部門2%)ので、また中熟練・低熟練の職に就いている公的部門の従業員は、民間部門の低賃金労働のために、比較的高いので、ミーン値をとると(平均すると)公的部門のほうが高く見える。
 実際のからくりはこのようなところです。

 まだ熟練の他に、年齢、在職期間、性別、職位・職種、労働時間などの相違などが残っていますが、今日は、とりあえずここまでにしておきます。


国民統計局(the Office for National Statistics) のデータ
https://docs.google.com/spreadsheets/d/15rl1tyUTppKWMS8JjOMGoov7s8LzPaCgFzPe1tUUmiQ/edit?pli=1#gid=0

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