2013年5月23日木曜日

GATTとWTOについて その1 はじめに

 最近、GATTとWTOについて調べています。
 そのため中川淳司『WTO  貿易自由化を超えて』(岩波新書、2012年)を読みました。
 私はあまり人の悪口を言いたくないのですが、また岩波新書にはかなりの信頼を寄せているのですが、この本はあまりいただけないように思います。

 何故か? 一言でいうと面白くありません。いわゆる制度と制度史を形式的に、うわっつらだけなめただけという印象が拭いきれません。例えば政府調達について書いてあるので読んでみると、ただ透明性とか自由化が必要だとしか読めません。そこでは具体的・現実的なミクロ(微視的)な現場で何が問題となっているか、という叙述が見られません。そもそもそういう視点が見られません。しかし、実際には、私の知っている限りでも、政府調達が構造改革によって「透明性の高い」競争入札制度を入れたとき、確かに価格が大幅に低下したことは間違いないけれど、それと同時に市民サービスも大幅に低下し、さらに業務委託で労働する人々の労働条件が悪化したという否定しようとしても否定できないほど明らかな事例が多数あります。さらにグローバル化し、外国企業が入札に加わった時には、どうなるのでしょうか? 
 貿易紛争処理についても同様。
 また開発途上国、インドや中国の反対が何故ドーハラウンドを挫折させたのか、その理由をインドや中国の側から説明しようとさえしていません。もちろん、中国やインドの主張を鵜呑みにしてもよいといっているわけではありません。彼らが先進国側の出したどのような側面を、どのような理由から問題視しているのか、一度は検討しなけれならないというだけです。そのことは、先進国側(といっても、企業も、労働者も、政府もありますが)の要求についても、どのような利害(理念?)から行なわれているかを理解することにもつながります。同じく「貿易自由化」の理念を持っているとしても、そういう作業を通じて現実の問題をえぐりだした時のほうが、より説得力を持つでしょう。その意味では、J・スティグリッツの叙述の方が説得的です。
 経済を分析する人には、しばしばマクロの(巨視的な)世界の抽象的な美しい世界の分析で満足してしまう人が多数います。WTOの官僚ではなく、もっとドロドロした現実の世界を相手にするべきではないでしょうか。
 以上、WTOについての「はじめに」をおわります。


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