2013年5月27日月曜日

TPPの ISDS(投資家・国家紛争解決)条項

 TPPが秘密裏に密室で行なわれていることは、よく知られている通りです。しかし、米国を始めとする多国籍巨大企業の経営者たちが密室の会議に招かれ、彼らの要望を聞き入れられていることはどうでしょうか。米国の議会関係者が蚊帳の外に置かれているにもかかわらず、です。
 このことは、TPPの性質をよく示しています。それは様々な人々が示唆しているようにグローバルな「企業支配」(corporate domination)の強化に他なりません。よくTPPを評して、「全領域にわたる貿易自由化」を実現するものという人がいたり、米国の利益を実現するための経済戦略から出てきたものという理解を示す人がいます。それはまったく的外れではないかもしれませんが、正確な理解ではありません。まずTPPは国際貿易だけに関係するのではなく、経済・社会生活のほぼ全領域に関係します。またそれが2008年、米国のブッシュ政権から提案されたものであることは間違いありませんが、米国の国民全体の立場を増進するために打ち出されたものではありません。それは米国政府が主に米国巨大多国籍企業の利益に屈服し、それを国家の上位に置くために打ち出したものです。そのために米国政府は、2005年から存在していたP4(環太平洋経済連携協定)を乗っ取り、それを上記の目的のために改造しようとしました。何故か? それはドーハで挫折したWTOの多国間交渉(ラウンド)よりやりやすく、また日米など2国間のFTAと違って 米国政府の主張を通しやすいと見たからに他なりません。
 このことを最もよく示すのは、昨年(2008年)6月にリークされた50ページ以上のISDS条項のドラフト(案)です。
 この案によれば、例えば J 国に進出したA国の企業(どんな活動をする企業でもかまいませんが、例えば保険業)が J 国政府を国際法廷に訴えることができます。
 訴えることができるのは、例えば政府がある政策を実現するために、新しい法律を通し、それにもとづいて政策運営をするときです。それがA国の企業にとって、利益を損ねると判断されれば、訴訟を起こすことができます。また政府調達(業務委託や公共事業)でA国の企業が J 国の企業と比べて差別されていると判断しても訴えることができます。
 訴訟は、密室で行なわれる国際法廷で民間の弁護士によって行なわれ、その判決は絶対です。不服を訴えることはできません。いま、インド政府が多数の米国投資家によって訴えられているように、主に米国企業が外国政府を訴えるでしょう(逆はほぼないと推測されます)。そして、当該国の政府は何億ドルという国民の血税を外国企業のために支出しなければならなくなります。もちろん、それは企業を国民国家の上位に置くもの、国家主権の否定、民主主義の否定、元米国大統領T・ルーズベルトの言う企業の政府統治=ファシズムです。
 TPPを「平成の開国」などと見当はずれのことをいった政治家がいますが、無知も甚だしい発言です。またTPPに反対することは自由貿易、自由を否定するかのように喧伝する経済学者がいますが、逆です。TPPこそ巨大企業の利益のため、1%の富裕者のために多くの人々の生活上の様々な「自由と諸権利」を奪うものです。
 私たちの自由を守るためにもTPPに反対しなければなりません。
 またTPPの秘密主義を伝えようともしない巨大メディアに対して、本来のメディア機能を果たすよう求めてゆくことも必要です。


0 件のコメント:

コメントを投稿