2013年12月21日土曜日

新重商主義(利潤主導・輸出主導型成長)からの転換 今でしょう!

 アダム・スミスの『諸国民の富』(1776年)が重商主義を批判し、政府の「見える手」にかえて「見えざる手」(利己的な個々人の行動がしばしば(frequently)公共の利益を最もよく実現することがあるという思想)、つまり自由放任主義を持ち出したことはよく知られている事実です。
 ところで、その重商主義ですが、古典派以前にそれを支持した経済学者たちが、貿易収支の黒字をもたらすような政策を主張したことはよく知られている事実です。このことは、簡単に言えば、有効需要の原理から簡単に説明できます。
 アダム・スミスも認めていたように、特に経済発展の初期の段階では、国内市場の規模がきわめて限られています。また、これもアダム・スミスがよく認識していたように、「規模の経済」または「規模に関する収穫逓増」が現実の経済では成立しています。したがって外国市場に輸出を拡大する(より正確には完成品の輸入を極力抑えて、貿易収支の黒字幅を大きくする)ことが当該国にとっては有利になります。すなわち、輸出額が増えるほど、企業の利益は拡大し、それによって投資誘因だけでなく、投資のための資金の供給も拡大します。
 ただし、アダム・スミスの時代のイギリスともなれば、貿易収支の黒字は「政府の見える手」を借りなくても、実現できるようになっていました。だから、スミスは安心して重商主義政策を批判することができました。
 ケインズ『一般理論』の第24章は、こうした事実をふまえ、重商主義の学説史的意義を高く評価しました。すなわち、対外市場の拡大は、有効需要の1項目(XーM)の拡大であることを重商主義の経済学者たちはよく理解していたというわけです。
 ところが、D・リカードゥを始めとするスミス後の古典派の経済学者はその意義を理解することができなくなっていました。もちろんR・マルサスなど一部の経済学者が有効需要の特別の意味を理解していましたが、リカードゥがそれを理解することはついにありませんでした。対外関係については、自由放任主義がそれらの経済学の帰結であり、リカードゥの「比較生産費説」、ベンタムとジョン・バウリングの「功利主義」がその経済学的・社会学的根拠となって終わってしまいました。
 ところが、現実の世界では、19世紀末になると事情がふたたび変わってきます。「新重商主義」と特徴づけられる政策がイギリスやドイツで採用されるようになりました。それは長期にわたる国内需要の停滞(貯蓄性向と投資誘因との不均衡。貯蓄性向>投資誘因)の矛盾を外にそらそうとするものだったと考えられます。しかし、すべての国が貿易収支の黒字を実現することはできません。それは列強諸国間の外国市場獲得競争を激化し、結局、2度に渡る世界戦争の勃発を導いたのでした。

 時は移って第二次世界大戦後、人類はかつての歴史に学び、ブレトンウッズ体制(準固定相場ドル本位制)のもとでほぼ貿易収支の均衡を達成しつつ、完全雇用を実現するのに必要な生産量を保証するような有効需要を生み出すことに成功しました。これが(完全に実現されたわけではないとしても)「フォーディズム」として知られているものです。

 貿易収支均衡XーM=0、国内需要(有効需要C+I)の拡大→生産拡大→完全雇用

 しかし、この体制も長くは維持されませんでした。
 1970年代初頭の成長率の低下、変動相場制(変動相場ドル本位制)への移行とともに、貿易収支の不均衡が常態化し、赤字国(米国)と黒字国(日本、ドイツ、中国、ロシア、産油国など)への分化が生じて来たからです。

 しかも、ドイツや日本は、1990年代以降も、貿易収支の大幅黒字国なのに、そして(完全雇用水準を維持するのに必要な)国内需要の大幅な不足状態に置かれているのに、「単位労働費用」をさらに引き下げることに躍起になってきました。それが勤労所得をいっそう抑制し、消費支出を抑えることによって、(企業家の期待利潤率・限界利潤率を引下げることによって)企業の投資誘因を削ぐにもかかわらずです。しかも、そのように努力すればするほど、貿易収支の黒字は増加し、名目為替相場はいっそうマルク高・円高の方向にすすみました。(ただし、直近の2年に限って言えば、日本の貿易収支は赤字に陥っています。しかし、それでも米国に対しては日本の貿易収支は黒字です。)
 
 こうしてドイツや日本は、かつてケインズが危惧した状態(新重商主義の症候群)に陥っています。金融緩和政策がぎりぎりのところまで行われて来たにもかかわらず、さらに「異次元の金融緩和」が語られ、円安、つまり輸出拡大による有効需要の拡大策が計られているのです。
 本当のところは、オバマが2008年に述べたように、「変化」(change)が必要です。それは、従来のように国内需要を抑制をもたらす賃金抑制をすすめることによって対外輸出を増やし、それによって対外紛争を招くような政策から転換し、むしろ国内で問題を解決する方策への大転換です。
 私はTPPにまったく反対ですが、民主党のオバマ大統領が何故TPPを撤回せずに、「輸出倍増計画」の一環として推進してきたのか、その理由はしっかり理解する必要があるでしょう。

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