2015年8月1日土曜日

ジェームス・ガルブレイス『プレデター国家』(2008年) 4

 現在のプレデターたち、つまりCEOs(経営最高責任者)、金融(商業銀行や投資銀行、保険会社などの金融機関、巨大株主など)、ハイテク企業(Tech firms)は、巨大企業(巨大株式会社、corporations)と政府をどのように利用しているか?
 ジェームス・ガルブレイスの取り上げている一例を紹介しよう。

 ヘルスケア(医療)
 現在のヘルスケアの政治は、メディカルケアを民間セクターに戻そうとする偉大な保守派のスキームなどをめぐって展開しているのではない。国家の資金がなければ、医療セクターも経済全般も崩壊するということはすぐにわかる。(メディケアがなければ、多くの高齢者の生涯貯蓄が急速に枯渇し、彼らの寿命も低下するだろう。)どんな真面目な政治家もアメリカの医者を集めて、アメリカの病院を英国の国民健康サービスの複製品に変えてしまうことなど提案しない。そんな動きは、アメリカのヘルスケアの費用を英国なみに減らしてしまい、総医療費支出をほぼ半分に減らすことになるだろう。完全な民営化はいうでもなく、そんなことをすれば、医療セクターを崩壊させ、経済を解体させることになってしまう。
 そうではない。ヘルスケアをめぐる論争は、このシステムを拡大しようとする方向で行なわれているのである。問題は、どんな条件で、また現存するプレデターにどれほどの譲歩をするか、についてである。主要なリベラル派の目標は、健康保険のカバー度であり、特に子供への拡大である。民間保険会社はこれに反対している。どうしてか? 理由は、現在の顧客の一部、つまり子供を持つ家族を失いそうだからである。保険会社の経済的機能は簡単だ。それは相対的にヘルスケアを必要としないような人々に保険商品を売ることにあり、一方で最も病気にかかりそうな人々に売らないことでもある。改革は利益を減らすことになり、健康保険会社には防ぐべき利益と、利益をもたらす資源(あの利益そのもの)の両方がある。政治的論争はまさにこの点をめぐるものであり、他の何物でもない。

 国はそのような子供を持つ家族を民間保険にとどめおくことから何か利益を得るだろうか? それはどんな家族をも民間保険にとどめることから利益を得るだろうか? ノーだ。スクリーニング(差別)なく全人口を保証することは経済的には効率的である。それは現在スクリーニングに使われている資源を節約し、それは経済的および行政的な観点からみて、より安価となるだろう。他にも、より多くの資源が実際のヘルスケアに使われることができる。ハーバードの医療経済学者、デーヴィッド・ヒンメルシュタインとステッフィー・ウールはドラーは、民間医療保険の官僚主義的な浪費が年に約3500億ドルになると見積もった。これはGDPの2パーセント弱であり、軍事予算の半分より大きい。彼らはまた、人気のある、雇主への権限委譲というリベラル派の「解決策」が非効率的であり、多数の州で堅調な効果もなく試みられてきたと指摘している。「改革のための「権限委譲モデル」は完璧な政治的論理、つまりヘルスケアに対する保険会社の圧殺をなくすという論理にもとづいている。しかし、それは経済的に無意味だ。民間保険に依存することは、普遍的なカバーレッジ(補足)を実現不能とする。」*
 この争いは、まさにそれがゼロサムだから、壮大だ。ここに私たちは、正当化するという神話のはかりしれない力を見る。あたかも問題が市場の効率性または消費者選択の自由に関係しているかのように議論することによって、機能的でない利潤プールを擁護することが正当な政治的立場と思われるようにされているのである。
 高齢者に薬品の便宜を提供するというメディケアの拡張は、妥協が成立したとき、このシステムがどのように機能するかを例示している。この場合、新しい便宜が供給され、メディカル・ケアの構成がますます化学と医薬品療法に移るにつれて長年大きく成長してきた必要を満たす。しかし、このプログラムは、製薬会社への支払いをできるだけ大きくするように行なわれたのである。悪評高くも、米国政府はこのプログラムのために購入された薬品に対する大口の割引を交渉することを法律で禁止された。他の政府機関、例えば退役軍人行政(VA)によって日常的に行なわれている割引を、である。(この便宜が立法化される前には、米国製の薬品がカナダに船積みされ、カナダの行政当局の交渉した安い価格で販売され、米国に再輸入されるといった、マイナーな輸出入産業の展開があった。いうまでもなく、この裁定は自由貿易にとってのよりよい瞬間の一つを反映するものだったが、当時力のあったうわべだけの自由貿易派には不都合なものだった。)このようにメディケア薬品便宜は製薬会社に独占価格が支払われる一方で、その支払いの重い負担を部分的に一般納税者に転嫁することを保証することに役立ったのである。

*David U. Himmelstein and Steffie Woodhandler, "I am NOT a Health Reform,", New York Times op-ed page, December 15, 2007. 


注)ちなみに、米国の一人あたり医療費は、日本の2.7倍ほど。国民皆保険制度のない国の人々がいかに高い医療費を支払っているか、その典型的な事例。
 2010年の数値:日本(3035ドル)vs 米国(8233ドル)
 http://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/iryouhoken11/dl/02.pdf





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