2015年8月2日日曜日

ジェームス・ガルブレイス『プレデター国家』(2008年) 5

 ケインズ主義? ニューディール?
 その通り。だが、ケインズ本来のケインズ主義ではなく「軍事ケインズ主義」(Militarist Keynesianism)と呼ぶべきものは行なわれている。また1930年代とは内容が異なるとはいえ、「ニューディール」は持続している。

 1981年、大統領に就任したレーガンは、いわゆる「再建税制」を実施した。それは、(1)減価償却期間の操作によって事実上法人税の減税を実施するとともに、(2) 所得税の減税、とりわけ高所得部分にかかる税率を大幅に引き下げることによって累進課税をフラット化し、富裕者の減税を実現するものだった。
 当然ながら、これらの減税によって米国連邦政府の租税収入は大幅に減少した。一方、ソ連を「悪の枢軸」と呼び、ソ連に対抗して軍事費を大幅に増額した(下図参照)。したがって1980年代初頭の米国連邦政府が大幅な赤字を計上したことは言うまでもない。
 しかし、これが意味することは何だったのだろうか?
 レーガン大統領は、この赤字を他の領域(人々の福祉=社会保障を犠牲にして)で埋め合わせようとしたが、それで赤字が埋められるわけではない。
 端的に言えば、それは不況時に「ケインズ政策」を意味するものだった。(先にヴォルカー=レーガンの金融引締政策が米国経済を破綻させたことは述べてある。)ただし、それは人々の福祉の向上を目的とした本来のケインズ政策ではない。当時、米国の経済学者が用いた言葉では、「軍事ケインズ主義」(Militarist Keynesianism)だ。それが武器弾薬に対する有効需要(軍需)の創出を通じて米国経済を回復させる効果をあったことは説明するまでもないだろう。アメリカの軍事費はあっという間に1970年代末の三倍に拡大した。しかし、これも言うまでもないが、軍事産業の成長は決して人々の福祉を向上させるわけではない。
 ここでもう一つ指摘しておかなければならないことは、レーガンが「新自由主義政策」(低圧経済政策)・マネタリズム・供給側の経済学を志向しており、ケインズ的福祉国家政策を嫌っていたにもかかわらず、政府支出の拡大による「ニューディール」(ケインズ政策)を実施したことである。それは決して国家の役割を縮小するものではなかった。

 同じことは、G・W・ブッシュ(共和党の大統領、息子)についても当てはまる。富裕者の減税は彼の政策の目玉である。一方、2003年から2008年にかけて軍事費は2倍に拡大した。しかも、この拡大は「変化」を訴えたバラック・オバマ(民主党の大統領)の時期にも続いた。もちろん軍事費の拡大は主にイラクに対する戦争によるものである。その額は7000億ドル(日本円で100兆円弱)に達した。凄まじい金額というしかない。また、これが連邦政府の財政赤字と累積債務の原因となったことも言うまでもない。そして、この連邦政府の軍事支出が航空機産業(ほぼ軍需産業と見なされる)と石油産業を潤した。つまり、レーガン大統領の時代と同じく「軍事ケインズ主義」の構造(ニューディールの持続)が再現したわけである。
 誤解のないように断っておくと、ケインズ自身は決して軍事産業を擁護したわけではない。彼が生きていたら、むしろそれを激しく非難しただろう。それにもかかわらず、これまで述べてきたことは、ケインズの有効需要の理論が正しいことを示している。
 政府支出はそれに照応する有効需要を創出するのである。 
 
 さて、ジェームス・ガルブレイス(2008年)は軍事に関しては指摘していないが、彼が指摘するように、プレデターは仲間・従者よりも、部外者を「餌食」とすることを選好する。この場合、部外者とは誰か? 一つはアメリカの納税者だが、もう一つは外国人、とりわけ日本国民といって間違いない。軍事行動の分担と軍事費の分担、これが軍事プレデターのターゲットとなることは必然と考えられる。実際、2015年4月29日に安倍首相がオバマ大統領に対して行なった公約(「新しい日米防衛協力のための指針」。内容は外務省の資料を参照)はまさにそのような "predation" というしかない。

出典)SIPRI

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